追放された悪役令嬢は残念領主を導きます

くわっと

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二章

20.5観察者

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「思ったより絶望はしていないようですね」

遠眼鏡を片手に、暗い闇の中で呟く男が一人。
その影は細く、そして長い。
風が吹けば倒れてしまいそうな、
風が吹けば飛ばされてしまいそうな。
そんな不安定な体型。

だが、男は重心を安定させながら視界に捉えた女を観察する。
何をしているのか、
何を考えているのか、
予測し考えながら。

「流石はかの悪役令嬢といったところですか。この程度の苦境、物の数ではないと。では、あの時この身に見せた表情は油断させるための罠ということでしょう。いやはや……いやはや……」

リリネットは一人語りをやめない。
彼女の物語の語り部にでもなったように。
本のページをめくるように、ゆっくりと。

「あの女は恐ろしい」

言葉を紡ぎ続ける。
彼女も一人、
彼も一人。
だが状況はまるで違う。
命懸けの彼女と、遊び半分の彼。
当事者の彼女と、傍観者の彼。
同じ一人でもまるで違う。

一応、リリネットととしても彼女の勝利の方が利がある。
最小の戦力で敵を撃退する。
それに越したことはない。
だが、たとえ彼女が敗北し凌辱され、死ぬのことになっても、彼にとっては然程影響がない。
パトリシアが来る前の生活に戻るだけだ。
むしろ、アンドレアが生きながらにして行動不能の状況、彼にとっては全権を握れる分いいかもしれない。

だが、彼は彼女の敗北を望まない。
かと言って、勝利を望むということでもないが。

「こんな墓所で何を一人で頑張っているかと思えば、そういうことですか。流石は元は良家の娘。そういった戦略にも通じているということですか」

ふふっ、と彼は笑う。
心底可笑しそうに。

「ーーですが、全くもって、令嬢の行為とは思えませんね。自らの手を汚すとは。いえ、違いますか。あれは本当に手を汚したくないから、という思いが故の次善の行為でしょうか。わざわざ埋まっているものを掘り起こさなくても、歩いているものから調達した方が早かろうに。ーーいやいや、あの女がかの王子と一緒にならなくて本当に良かった。この国が汚れる、穢れる」

顔を隠すように手を当て、笑う。
声は上げずに、ただただ笑う。
ふふっと、空気の抜けるような笑い声。

「さてと、この身はここまでにしましょうか。明日も仕事がありますし」

リリネットは遠眼鏡をしまい、彼女を視界から外す。

「あの女の明日は、どのような感じでしょうか」

楽しいですね、楽しいですね。
小言で歌うように、彼は言う。
誰にも聞こえない声で、女の努力を笑う。
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