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兄弟
「ふああ、ねむ」
結局俺たちは朝まで練習していて、気付いたら防音室の床で仲良く横になっていた。
お手伝いさんに叩き起こされて、今は車で麗音の肩にもたれかかって目を閉じている。
たまに電車を使うこともあるが、基本は運転手に車で送迎してもらっている。
実家が太いのは紛れもない事実だし、それゆえに金目的で近づいてくる女も多いが、もう麗音と約束したから遊ばない。
初めから誰とも連絡先を交換したことがないし、切るのは簡単だった。
でもそう考えると、麗音以外の人を好きになれるとも思えないし、俺一生セックスできねえじゃん。
「まーいいけど」
夢と妄想で死ぬほど麗音抱いてるから。
「え、なにが?」
やべえ、無意識に声に出てた。
「んーん」
「ふ、寝ぼけてるな。なんの夢見てたの?」
麗音の指がくすぐるように俺の頬を撫でる。
それが気持ちよくて自然と口角が上がる。
「麗の夢」
「俺?どんな夢?」
「んー秘密」
「ねえ、まさか殺されたりしてないよね?」
「ふふ、どーだろね」
はぐらかすと、麗音が軽く俺の頬を摘む。
「いひゃい」
「こら、お兄ちゃんに教えなさい」
「やだねー」
「まったく、生意気な弟だ。」
麗音が指を離すと、眼鏡のブリッジを中指で上げて腕を組む。
「ふ、ねぇ麗、拗ねた?」
「拗ねてません」
「ほんとにー?」
「……」
「ふは、拗ねてんじゃん」
ごろんと横になって麗音の太ももに頭を乗せると下から覗き込む。
麗音はツンと真顔で窓の景色を見ていた。
不機嫌な猫みたいで可愛い。
「ごめんね?お兄ちゃん」
「あざとい」
「いて」
おでこを軽く叩かれる。
俺は麗音の手を捕らえて頬に当てた。
「そーだよ、いくらでもぶりっこしちゃうもんねー」
「はぁ、外ではいつも無愛想なのが嘘みたい」
麗音が呆れたようにため息を吐く。
俺、麗音以外興味ないもん。
当たり前だろ。
「お兄ちゃん、機嫌直った?」
「最初から不機嫌じゃありません」
次は頬をむぎゅっと掴まれて、唇が尖る。
「ぷ、不細工」
「可愛いでしょ俺」
吹き出す麗音に上目遣いをして、ぶりっこする。
すると、俺を真っ直ぐ見下ろして微笑んだ。
「うん、可愛い」
すぐに寝返りを打って、麗音のお腹側に顔を埋める。
あーやべ、顔赤くなったかも。
目を閉じるが、心臓がドクドクとなって頭に響く。
まじで俺チョロすぎる。
俺が本格的に寝ると思ったのか、麗音は何も言わず頭を撫でてくれる。
まじでこのまま死んでも悔いねえわ。
そう思いながら、心地好い眠気に身を任せた。
◇
「響、響ほら起きるよ」
「んー」
麗音に身体を揺らされて、起こされる。
もう学校に着いてしまったようだ。
「やだ」
目を開けたくなくて、麗音のお腹に抱きついた。
「もう……」
麗音が困った声を出して、俺の頭を撫でる。
「朝まで付き合わせてごめんね、もう一緒に練習しないから」
「それはやだ」
一気に目が覚めて、ガバッと身体を起こす。
麗音を見ると、してやったりという顔で目を細めていた。
「ほら行くよ」
「……やられた」
麗音が車を降りてしまったので、急いでヴァイオリンを持って後に続く。
急いで麗音を追いかけて手を繋いだ。
「麗、さっきの嘘だよね?」
「……さあね」
「ねぇ、夢のこと教えなかったの根に持ってる?」
「持ってない」
やっぱり根に持ってんじゃん!
麗音の肩にもたれかかって甘える。
「麗許して、ごめんなさい」
「怒ってないって」
「麗……」
だって麗音とセックスする夢見てました、なんて絶対言えないでしょ。
俺が普段どれだけお前を性的な目で見ていることか。
こうなったら、嘘ついて違う夢捏造するか?
でも、麗音は俺が嘘をついてるの絶対見抜くしな。
「ふ、本当に怒ってないよ。お前のことからかっただけ」
「はぁぁ、じゃあ練習しないとか嘘だよね?」
「嘘だよ。ふは、響、必死すぎ」
そりゃ必死にもなるだろ。
俺にとって、どれだけあの時間が大事かわかってない。
「クソ、もう寝る」
「重っ。響、ちゃんと自分で歩けって」
麗音に体重を預けて目を閉じていると、玄関先でリチャードが話しかけてきた。
『ハロー!朝から仲良しだね、君たち』
「チッ、F×ck off」
『え?挨拶しただけで??』
タイミング最悪だろ。邪魔しやがって。
怒りをすべてリチャードにぶつけて中指を立てた。
『ごめんね、リチャード。響は寝不足で機嫌が悪いんだ』
『ははは、なーんだ、ご機嫌斜めなんだね、子猫ちゃん』
『うざ……しっし、どっか行け』
手でしっしと追い払うと、手首を掴まれて耳に囁かれた。
『そんなこと言わずに仲良くしようね、僕の黒猫』
英語のスラングで子猫は女性器って意味があるし、猫もBLで受けを表す言葉だ。
つまり、こいつは下ネタで、俺を受けだといじってきているのだ。
『お前殺す』
リチャードの顔を手で掴み、潰すように力を加えると、リチャードが痛みに声を上げる。
誰がお前に股開くか。くそチェロ変態野郎。
『ストップストップ!こんなの冗談だろ?』
『一生チェロでシコってろ、クソ野郎』
「こら、響そこまでにしろ」
麗音に怒られて顔から手を離す。
リチャードを睨みつけると、両手を挙げた。
『Sorry、わかった降参するよキョウカ』
「ふん」
リチャードのネクタイを引っ張って引き寄せると、麗音に聞こえないように耳元に囁いた。
『お前、麗にそういう下ネタ言ったらまじで殺すから』
『わー、怖い怖い!わかったよ。神に誓って言わない』
「響…?」
「麗行こ」
リチャードを尻目に、麗音の手を引っ張って歩いた。
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