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第1話 魔力ゼロ、旧図書棟で神ログ起動
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魔法エリートが集う、王都至高魔法学園。
だが俺――アッシュ・アルマンドだけは、体内魔素ゼロの落ちこぼれだった。
大理石が敷き詰められた壮麗な廊下を歩くだけで、周囲から聞こえてくるのは「魔力」や「術式」といった高尚な単語ばかりだ。旧文明の遺産たる莫大な『魔素』が集結するこの場所は、魔法という神秘を操る選ばれしエリートたちの箱庭でもある。
そんな栄えある学園の片隅、カビ臭い旧図書棟の地下で、俺——アッシュ・アルマンドは、重いため息をつきながらモップをかけていた。
「どうしてこうなった……」
俺の実家、アルマンド侯爵家といえば、代々優秀な魔法使いを輩出してきた名門中の名門だ。
長男は王室魔導師団の副団長、次男は魔法省の若きエリート官僚。当然、三男である俺にも家族からの過剰な期待が寄せられていた。
だが、現実は残酷である。
俺の体内魔素濃度は、誰が何度計測しても『ゼロ』だったのだ。
魔法というのは、生まれ持った体内の魔素(ナノマシンなどという小難しい原理らしいが、誰も気にしていない)と、環境中の魔素を共鳴させて物理現象を引き起こす技術だ。
つまり、体内に魔素がまったくない俺は、火を起こすことも、水を出すことも、風を吹かせることもできない。正真正銘、完全無欠の『魔力ゼロ』だった。
魔法至上主義のこの国において、侯爵家の息子が魔力皆無というのは前代未聞のスキャンダルだ。
親からは「一族の恥辱」と疎まれ、半ば勘当同然でこの学園に押し込められた。
「あー、腰が痛え」
そして学園でも、当然のように落ちこぼれ扱いである。
先日の実技試験では、指先から火花すら出せずに不合格。罰則として、一ヶ月間の『旧図書棟・地下倉庫の清掃』を命じられたわけだ。
別に魔法の才なんてどうでもいい。俺はただ、どこかの田舎でひっそりと魔法省の末端事務官にでもなって、平穏無事に暮らしたいだけなのに。
「ん?」
モップを動かしていた手が止まった。
埃まみれの書棚の裏に、何か不自然な空間がある。
壁の一部がスライド式に開いており、その奥に薄暗い小部屋が隠されていた。
「なんだこれ。遺跡の一部か……?」
この学園自体、大昔から存在する『遺跡』の上に建てられたものだと聞いたことがある。
好奇心に負けた俺は、モップを立てかけて小部屋の中に入り込んだ。
部屋の中央には、黒いガラスのような奇妙な四角い板が置かれていた。
石板のようにも見えるが、表面は異様に滑らかで、文字一つ刻まれていない。
「……高そうな遺物だな。これを見つけたら、掃除免除とかにならないか?」
ひんやりとした板に、何気なく手を触れた。
その瞬間。
『——生体認証(バイオメトリクス)を確認。アクセス要求を受理』
『遺伝子パターン照合……[完了]。旧文明・オリジナル系列との一致率99.8%』
『ログイン:最高位管理者(アドミニストレーター)』
「……は?」
頭の中に、無機質で女性的な声が直接響いた。
それと同時に、俺の視界の端——右上のあたりに、空中の何もない空間に『縁取りされた緑色の文字』がふっと浮かび上がったのだ。
【System:システム要件が満たされました。周辺環境AIとのネットワーク同期を開始します】
【System:ユーザー『ASH』の視覚インターフェースを有効化】
【System:ようこそ、管理者様。本日のタスクは0件です。良い一日を】
「な、なんだこれ……!?」
目をこすっても、首を振っても、視界の隅に浮かぶ緑色の文字は消えない。
幻覚か? 埃を吸い込みすぎたか?
『警告:ユーザーの心拍数の異常な上昇を検知。精神安定剤の下命を実施しますか? [YES / NO]』
「でたっ!?」
なんだこの[YES / NO]ってのは!
試しに、頭の中で『NO』と強く念じてみる。
『[NO]が選択されました。コマンドをキャンセルします』
文字がスルリと消えた。
どうやら、俺の意思に反応しているらしい。
「頭がおかしくなったわけじゃなさそうだが……一体何の呪いだよ」
俺は深くため息をついた。
ただでさえ落ちこぼれで肩身が狭いのに、わけのわからない幻覚(?)まで見えるようになってしまった。
平穏な事務官生活が、また大きく遠のいた気がした。
しかし、この時の俺はまだ気付いていなかった。
この視界に浮かぶ鬱陶しい文字が、この世界における『神々のシステム』そのものへのアクセス権限……つまり、規格外のチート能力であるということに。
だが俺――アッシュ・アルマンドだけは、体内魔素ゼロの落ちこぼれだった。
大理石が敷き詰められた壮麗な廊下を歩くだけで、周囲から聞こえてくるのは「魔力」や「術式」といった高尚な単語ばかりだ。旧文明の遺産たる莫大な『魔素』が集結するこの場所は、魔法という神秘を操る選ばれしエリートたちの箱庭でもある。
そんな栄えある学園の片隅、カビ臭い旧図書棟の地下で、俺——アッシュ・アルマンドは、重いため息をつきながらモップをかけていた。
「どうしてこうなった……」
俺の実家、アルマンド侯爵家といえば、代々優秀な魔法使いを輩出してきた名門中の名門だ。
長男は王室魔導師団の副団長、次男は魔法省の若きエリート官僚。当然、三男である俺にも家族からの過剰な期待が寄せられていた。
だが、現実は残酷である。
俺の体内魔素濃度は、誰が何度計測しても『ゼロ』だったのだ。
魔法というのは、生まれ持った体内の魔素(ナノマシンなどという小難しい原理らしいが、誰も気にしていない)と、環境中の魔素を共鳴させて物理現象を引き起こす技術だ。
つまり、体内に魔素がまったくない俺は、火を起こすことも、水を出すことも、風を吹かせることもできない。正真正銘、完全無欠の『魔力ゼロ』だった。
魔法至上主義のこの国において、侯爵家の息子が魔力皆無というのは前代未聞のスキャンダルだ。
親からは「一族の恥辱」と疎まれ、半ば勘当同然でこの学園に押し込められた。
「あー、腰が痛え」
そして学園でも、当然のように落ちこぼれ扱いである。
先日の実技試験では、指先から火花すら出せずに不合格。罰則として、一ヶ月間の『旧図書棟・地下倉庫の清掃』を命じられたわけだ。
別に魔法の才なんてどうでもいい。俺はただ、どこかの田舎でひっそりと魔法省の末端事務官にでもなって、平穏無事に暮らしたいだけなのに。
「ん?」
モップを動かしていた手が止まった。
埃まみれの書棚の裏に、何か不自然な空間がある。
壁の一部がスライド式に開いており、その奥に薄暗い小部屋が隠されていた。
「なんだこれ。遺跡の一部か……?」
この学園自体、大昔から存在する『遺跡』の上に建てられたものだと聞いたことがある。
好奇心に負けた俺は、モップを立てかけて小部屋の中に入り込んだ。
部屋の中央には、黒いガラスのような奇妙な四角い板が置かれていた。
石板のようにも見えるが、表面は異様に滑らかで、文字一つ刻まれていない。
「……高そうな遺物だな。これを見つけたら、掃除免除とかにならないか?」
ひんやりとした板に、何気なく手を触れた。
その瞬間。
『——生体認証(バイオメトリクス)を確認。アクセス要求を受理』
『遺伝子パターン照合……[完了]。旧文明・オリジナル系列との一致率99.8%』
『ログイン:最高位管理者(アドミニストレーター)』
「……は?」
頭の中に、無機質で女性的な声が直接響いた。
それと同時に、俺の視界の端——右上のあたりに、空中の何もない空間に『縁取りされた緑色の文字』がふっと浮かび上がったのだ。
【System:システム要件が満たされました。周辺環境AIとのネットワーク同期を開始します】
【System:ユーザー『ASH』の視覚インターフェースを有効化】
【System:ようこそ、管理者様。本日のタスクは0件です。良い一日を】
「な、なんだこれ……!?」
目をこすっても、首を振っても、視界の隅に浮かぶ緑色の文字は消えない。
幻覚か? 埃を吸い込みすぎたか?
『警告:ユーザーの心拍数の異常な上昇を検知。精神安定剤の下命を実施しますか? [YES / NO]』
「でたっ!?」
なんだこの[YES / NO]ってのは!
試しに、頭の中で『NO』と強く念じてみる。
『[NO]が選択されました。コマンドをキャンセルします』
文字がスルリと消えた。
どうやら、俺の意思に反応しているらしい。
「頭がおかしくなったわけじゃなさそうだが……一体何の呪いだよ」
俺は深くため息をついた。
ただでさえ落ちこぼれで肩身が狭いのに、わけのわからない幻覚(?)まで見えるようになってしまった。
平穏な事務官生活が、また大きく遠のいた気がした。
しかし、この時の俺はまだ気付いていなかった。
この視界に浮かぶ鬱陶しい文字が、この世界における『神々のシステム』そのものへのアクセス権限……つまり、規格外のチート能力であるということに。
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