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1章:十八禁BLゲームの中に迷い込みました!
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それからじいやさんは小さな鈴をおれに渡した。「これは?」と首を傾げると、じいやさんは「なにかありましたらこれを鳴らしてください」と微笑んだ。
「ヒビキさまは坊ちゃんの大事な方ですから。我ら使用人一同、心からお仕え致します」
「……なんで、そこまでおれに良くしてくれるのか、わかりません……」
「きっとそのうち、わかると思います。今はただ、坊ちゃんのことを信じてあげてくださいませ」
じいやさんはそう言うと恭しく頭を下げてから地図を本棚に戻して、それからここから出て行った。おれはそれを見送り、レモネードに口を付ける。すっかりぬるくなっていたけれど、充分に美味しかった。
椅子の背もたれに背を預けて、息をゆっくりと吐く。持ってきた本の表紙を撫でてぱらりとめくってみる。――不思議なことに、すんなりと読むことが出来た。
おれがこの世界に来てから一週間も経っていない。なのに文字を読むことも書くことも思っていた以上に早く覚えている……? まるで、おれ自身が最初からここに居るかのような錯覚を覚える。
『ま、でもアデルより響希
ヒビキ
のほうがルードには似合いそうなんだよね。ルードって守る対象に対しての愛が大きいから』
『人を勝手に巻き込むなよ……』
数日前の姉の言葉を思い出して肩をすくめる。そもそもゲームの設定もおれはよく知らないし、知らない異世界にぽんと来てルードに保護してもらって、よくわからないうちに愛されて――そう、愛されていると思う。しかも溺愛。情事中のことを思い出して顔を赤くする。それを冷ますように手の甲を頬に当てた。
「と、ともかく本を読んでみよう!」
パンと手を叩いて声を出してみる。そして本を読み始める。……小説のようだ。しかも恋愛。主人公と相手が同性なのはなぜだ。いや、もしかして探せば男女の小説もあるのかもしれないけれど。とりあえず読み進めていく。
……小説内で性描写が出てきた。これっておれが読んでもいいのか……? ドキドキしながらページを読み進める。
小説の内容は身分差から離れ離れになった幼馴染が、大人になって再会して恋に落ちるというもので、ようやく想いが重なって躰を繋げる――……。ものすごく甘い物語だった。そして、この国の伝統という好きな人に手作りの物を着せるっていうのが出てきていた。
この国の貴族の伝統のようだ。手作りの物を着せることによって、相手が自分の愛する人だというアピールをする。
「……なにも考えずに着ていたけど……」
着せられた相手もそれを着ることによって自分が相手の物だと実感出来る。多分、指輪やブレスレットの意味を含んでいるんだろう。この世界にアクセサリーってあるのかな。ルードがそういうのつけているの見たことないけど……。
これも街に行けばわかるのかな。メイドさんも執事さんもそういうアクセサリー関係つけてないし……。
そもそもここの屋敷に居る人たちってどのくらい居るのだろう? おれが会うのは数人しか居ない。じいやさんとメイドさん数人、名前も知らない……。聞こうともしなかったおれのばか。今度ちゃんと聞いてみよう。
「怒涛の数日すぎてすっかり忘れてたんだな……」
ぽつりと呟いて天井を見上げる。同性の恋人が居ると言っていたメイドさんの話も聞いてみたい。
知りたいことがいっぱいある。知るためには行動しないといけないよな……。
読み終えた本を閉じて立ち上がる。さっき渡してもらった鈴を鳴らすと、すぐに書庫の扉がノックされた。
「お呼びですか、ヒビキさま」
扉の外からメイドさんの声が聞こえた。この声は――ちょうどいいや、とおれは書庫の扉を開いて彼女を中へ招き入れ、椅子に座ってもらう。
「あの?」
「少し、お話に付き合ってもらっていいですか?」
不安げに尋ねると、彼女は数回目を瞬かせてからふわりと微笑んだ。「もちろんでございます」と答えてくれた彼女にほっとした。
「えっと、まずは名前を聞いても……?」
「ああ、そう言えば自己紹介がまだでしたね。私の名はリーフェと申します」
思い出したようにぽんと手を叩いて、メイドさん――リーフェさんは立ち上がってスカートの裾を持ってお辞儀した。茶色の髪と瞳の女性だ。
「リーフェさん、ですね」
「どうぞ、リーフェと呼び捨ててくださいませ」
それから椅子に座り直して自分の胸に手を当ててそう言った。おれが「でも……」と眉を下げると、リーフェさんはふるふると首を左右に振る。
「ルードさまは呼び捨てでしょう?」
それを言われると……。おれは小さく肩をすくめてみせる。クスクスと口元に指を当てて笑う彼女に、頬をポリポリと掻いてみた。
「私に対して――いえ、ルードさま以外に対して敬語である必要もありません」
「年上に対して失礼ではないでしょうか……。それに、おれは居候なわけですし」
「あら、居候とお思いでしたか?」
「え?」
「私は同棲と思っておりましたが……」
どうせい。同性……いやちがう、同棲ってことか!? おれが目を丸くすると、リーフェは頬に手を添えて首を傾げていた。
「……その、敬語じゃないほうが良いのでしょうか」
「そうですね、私たちはそのほうが嬉しいです」
「嬉しい?」
「ヒビキさまが、我々に心を許してくださっている気がしますので」
優しい眼差しでそう言われて、おれは胸元をぎゅっと掴んだ。リーフェはおれに手を差し伸べる。彼女を見ると小さくうなずいて見せた。おれは片手で手を取ってみると、きゅっと両手で包み込むようにして握られる。
「ヒビキさまはルードさまの愛し子です。それはつまり、私どもにとっても大切なお方なのですよ」
「おれが?」
「ええ。あのルードさまに愛し子が出来たのですもの」
「えーっと、ルードが誰かを愛し子? にするのがそんなに意外なんですか?」
「服をお作りになっているのは知っていました。ですが、それを着せる相手がいつまで経っても来なかった……。それを、ヒビキさまに着せていますでしょう? ずっとひとりを想い続けていたのだと知って、私たちは驚きもしましたし納得もいたしました」
リーフェはおれの手を離すと今度は自分の手をきゅっと握り、子どもに言うように優しい声色で話し始める。ここの屋敷の人たちは、一体ルードをどんな人物だと考えていたんだろう? それをおれは知るべきか、知らないでいたほうがいいのか……。
「ヒビキさまはただ、今のルードさまを知っていってくださいませ」
「知っていく……?」
「はい。受け入れるも受け入れないもヒビキさまの自由です。ですが、今のルードさまはとても楽しそうなので……、いつも仏頂面をしていたのとは大違いなのです」
「ルードが仏頂面? 最初に会ったときから結構笑っていたような……?」
「ふふ」
リーフェは口元に指先を揃えて笑う。それだけで、「あなたが特別だからですよ」と言われた気がした。
仏頂面のルードってあんまり想像がつかないけれど、迫力ありそうだな……。
「ヒビキさまは坊ちゃんの大事な方ですから。我ら使用人一同、心からお仕え致します」
「……なんで、そこまでおれに良くしてくれるのか、わかりません……」
「きっとそのうち、わかると思います。今はただ、坊ちゃんのことを信じてあげてくださいませ」
じいやさんはそう言うと恭しく頭を下げてから地図を本棚に戻して、それからここから出て行った。おれはそれを見送り、レモネードに口を付ける。すっかりぬるくなっていたけれど、充分に美味しかった。
椅子の背もたれに背を預けて、息をゆっくりと吐く。持ってきた本の表紙を撫でてぱらりとめくってみる。――不思議なことに、すんなりと読むことが出来た。
おれがこの世界に来てから一週間も経っていない。なのに文字を読むことも書くことも思っていた以上に早く覚えている……? まるで、おれ自身が最初からここに居るかのような錯覚を覚える。
『ま、でもアデルより響希
ヒビキ
のほうがルードには似合いそうなんだよね。ルードって守る対象に対しての愛が大きいから』
『人を勝手に巻き込むなよ……』
数日前の姉の言葉を思い出して肩をすくめる。そもそもゲームの設定もおれはよく知らないし、知らない異世界にぽんと来てルードに保護してもらって、よくわからないうちに愛されて――そう、愛されていると思う。しかも溺愛。情事中のことを思い出して顔を赤くする。それを冷ますように手の甲を頬に当てた。
「と、ともかく本を読んでみよう!」
パンと手を叩いて声を出してみる。そして本を読み始める。……小説のようだ。しかも恋愛。主人公と相手が同性なのはなぜだ。いや、もしかして探せば男女の小説もあるのかもしれないけれど。とりあえず読み進めていく。
……小説内で性描写が出てきた。これっておれが読んでもいいのか……? ドキドキしながらページを読み進める。
小説の内容は身分差から離れ離れになった幼馴染が、大人になって再会して恋に落ちるというもので、ようやく想いが重なって躰を繋げる――……。ものすごく甘い物語だった。そして、この国の伝統という好きな人に手作りの物を着せるっていうのが出てきていた。
この国の貴族の伝統のようだ。手作りの物を着せることによって、相手が自分の愛する人だというアピールをする。
「……なにも考えずに着ていたけど……」
着せられた相手もそれを着ることによって自分が相手の物だと実感出来る。多分、指輪やブレスレットの意味を含んでいるんだろう。この世界にアクセサリーってあるのかな。ルードがそういうのつけているの見たことないけど……。
これも街に行けばわかるのかな。メイドさんも執事さんもそういうアクセサリー関係つけてないし……。
そもそもここの屋敷に居る人たちってどのくらい居るのだろう? おれが会うのは数人しか居ない。じいやさんとメイドさん数人、名前も知らない……。聞こうともしなかったおれのばか。今度ちゃんと聞いてみよう。
「怒涛の数日すぎてすっかり忘れてたんだな……」
ぽつりと呟いて天井を見上げる。同性の恋人が居ると言っていたメイドさんの話も聞いてみたい。
知りたいことがいっぱいある。知るためには行動しないといけないよな……。
読み終えた本を閉じて立ち上がる。さっき渡してもらった鈴を鳴らすと、すぐに書庫の扉がノックされた。
「お呼びですか、ヒビキさま」
扉の外からメイドさんの声が聞こえた。この声は――ちょうどいいや、とおれは書庫の扉を開いて彼女を中へ招き入れ、椅子に座ってもらう。
「あの?」
「少し、お話に付き合ってもらっていいですか?」
不安げに尋ねると、彼女は数回目を瞬かせてからふわりと微笑んだ。「もちろんでございます」と答えてくれた彼女にほっとした。
「えっと、まずは名前を聞いても……?」
「ああ、そう言えば自己紹介がまだでしたね。私の名はリーフェと申します」
思い出したようにぽんと手を叩いて、メイドさん――リーフェさんは立ち上がってスカートの裾を持ってお辞儀した。茶色の髪と瞳の女性だ。
「リーフェさん、ですね」
「どうぞ、リーフェと呼び捨ててくださいませ」
それから椅子に座り直して自分の胸に手を当ててそう言った。おれが「でも……」と眉を下げると、リーフェさんはふるふると首を左右に振る。
「ルードさまは呼び捨てでしょう?」
それを言われると……。おれは小さく肩をすくめてみせる。クスクスと口元に指を当てて笑う彼女に、頬をポリポリと掻いてみた。
「私に対して――いえ、ルードさま以外に対して敬語である必要もありません」
「年上に対して失礼ではないでしょうか……。それに、おれは居候なわけですし」
「あら、居候とお思いでしたか?」
「え?」
「私は同棲と思っておりましたが……」
どうせい。同性……いやちがう、同棲ってことか!? おれが目を丸くすると、リーフェは頬に手を添えて首を傾げていた。
「……その、敬語じゃないほうが良いのでしょうか」
「そうですね、私たちはそのほうが嬉しいです」
「嬉しい?」
「ヒビキさまが、我々に心を許してくださっている気がしますので」
優しい眼差しでそう言われて、おれは胸元をぎゅっと掴んだ。リーフェはおれに手を差し伸べる。彼女を見ると小さくうなずいて見せた。おれは片手で手を取ってみると、きゅっと両手で包み込むようにして握られる。
「ヒビキさまはルードさまの愛し子です。それはつまり、私どもにとっても大切なお方なのですよ」
「おれが?」
「ええ。あのルードさまに愛し子が出来たのですもの」
「えーっと、ルードが誰かを愛し子? にするのがそんなに意外なんですか?」
「服をお作りになっているのは知っていました。ですが、それを着せる相手がいつまで経っても来なかった……。それを、ヒビキさまに着せていますでしょう? ずっとひとりを想い続けていたのだと知って、私たちは驚きもしましたし納得もいたしました」
リーフェはおれの手を離すと今度は自分の手をきゅっと握り、子どもに言うように優しい声色で話し始める。ここの屋敷の人たちは、一体ルードをどんな人物だと考えていたんだろう? それをおれは知るべきか、知らないでいたほうがいいのか……。
「ヒビキさまはただ、今のルードさまを知っていってくださいませ」
「知っていく……?」
「はい。受け入れるも受け入れないもヒビキさまの自由です。ですが、今のルードさまはとても楽しそうなので……、いつも仏頂面をしていたのとは大違いなのです」
「ルードが仏頂面? 最初に会ったときから結構笑っていたような……?」
「ふふ」
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