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3章:その出会いはきっと必然
番外編:ルードリィフ・K・メルクーシン(1)
しおりを挟む※ルード視点の番外編になります。ルードの一人称。
元々、私の魔力は高かったらしい。このままだと魔力中毒によって長くは生きられないと言われていたらしい。だからなのか、家族からはまるで腫れもの扱いを受けていた。どうせすぐに消える者。そんな感じの扱いだった。
とは言え、私に構ってくるじいやたちが居たから、家庭とはこういうものだと思っていた。――ただ、兄たちが両親に可愛がられているのを見て、どうして父も母も私のところには来てくれないのだろうと幼心に思ったのを覚えている。
思えば、私が人に興味をなくしたのも子どもの頃だったと思う。構ってくれる人がじいやくらいしか居なかったし、家族は日に日に弱っていく子どもにどう接したらいいのかわからないようで、顔を合わせるのが年に数回だった。
それでも私はなんとか生きて、五歳の誕生日を迎えた日。祝われることはなかったので今年もそうだろうと思って窓を開けると、何かが森のほうへ入っていくのが見えた。気になって追いかけていった。ほぼ寝たきりの状態だったのに、なぜかアレに会わなくてはいけないと感じたのだ。
じいや以外、私を気に掛ける者は居ないだろうと森の中に入った。もしかしたらこのまま死んでも良いと思っていたのかもしれない。ただひたすら、森の中を彷徨って――見つけたのだ。大きな、とても大きな狼を。
「――何をしている、人間よ」
「しゃべった」
狼が人の言葉を話すのだ。それはもう驚いた。私がそう言うと狼は「上位精霊だからな」と胸を張った。精霊だったのかとさらに驚いた。確かに狼にしては大きすぎた。それから、狼はここで休憩をしているのだと言ってきた。ちょっと強い魔物と一戦交えて来たらしく魔力を回復するためにこの森に来たとのこと。
「……それはぼくの魔力じゃだめ?」
「ほう?」
「ぼくは人より魔力が高いんだって。この年まで生きられたのがキセキのようなものなんだって。だからあげる」
「……ちょっとこっちに来い」
狼に言われて近付いた。狼は大きさを変えて、子犬くらいの大きさになった。そして「手を差し出せ」と言われたので利き手を差し出す。狼はカプリと手に噛みついて流れた血を舐めた。ぺろぺろと舐める姿は愛らしかった。それと同時に体が軽くなった気がした。大量の魔力を吸い取ってくれていたようだ。
「これで契約完了だ」
「けいやく?」
「氷の上位精霊フェンリル。これほどまで高い魔力の持ち主は中々居ない。時折魔力をもらうことにしよう」
「……?」
当時の私はそれがどういうことなのかわからなかった。子犬サイズのフェンリルを連れて家に戻ると、じいやと数人の使用人が私を探していた。じいやに事情を話すと頭を抱えてしまったが、説教もされた。……その日から、フェンリルは私の傍に居てくれた。だが、同時に家族からは余計に恐ろしいものを見るような目で見られた。
「人は強大な力を恐れるものですから……」
じいやの言葉を理解出来ていたかは……。魔力のほとんどをフェンリルにあげたことで、私は生き残ることが出来た。それでも一年に一度は魔力をフェンリルにあげる。フェンリルが強くなるのと同時に、フラウもおこぼれをもらいに私たちのところまで来た。
健康になったので貴族の義務ともいえることを習い始めた。家庭教師はじいやだ。彼は様々なことを知っていたし、私もじいやに懐いていたから丁度良いと思ったのだろう。
剣術や魔術、テーブルマナーに歴史やら色々。ダンスレッスンまで始まった。貴族の息子として恥ずかしくないように、とのことだったが、正直家事のほうが気が楽だった。
それから数年後、じいやと森に出掛けていた。魔物に襲われたがじいやとフェンリルが倒し、私はただ見ているだけだったが、魔物に手を伸ばした途端に魔物が天へと消えていった。その日初めて、【浄化の力】を持っていることに気付いた。
私がその力を持っていることを、じいやは両親に話して王都の聖騎士団に入団することが決定した。そして十三歳の頃、じいやと数人の使用人たちを連れて王都まで来た。
フェンリルも付いて来てくれた。フラウも一緒だ。毎年魔力をあげている。団長であるサディアスとは顔見知りだったし、彼に言われてか、生来の面倒見の良さだったのか、ニコロも声を掛けてくれるようになった。最初は戸惑っていたが、彼らに興味があるわけでもないので話しかけられた時は会話に参加した。他の者たちに関してもそんな感じだった。
淡々と訓練をこなし、屋敷に帰り食事をして本を読んだ後に眠る。そんな生活の繰り返し。そのうちに使用人が増えていった。募集したり、私から声を掛けたり……さすがに路頭に迷っている者を見れば何かあったと思うしな。
屋敷の本を全て読むのに二年は掛った。その頃には既に魔物浄化に参加していた。
忘れもしない、十五の頃。ひとりの少年とひとりの青年に出逢った。
少年たちは数多の魔物に新人たちが戦意を失っていた頃に突然現れて助けてくれた。……なぜかその姿を他の聖騎士団員は見えていなかったらしく、あの時の魔物浄化は私の手柄になってしまった。違うと言っても誰も信じない。
少年はホシナと名乗り、青年はニコロと名乗った。ニコロはこの国ではメジャーな名前だったが、ホシナは聞いたことのない名前だった。金髪碧眼という色合いだったが、似合っていない。恐らく何かの魔法が掛かっているのだろう。それはニコロも同様に。あんなに明るい髪色だったら目立つし。
少しの時間だったが一緒に過ごして、あれだけ気が楽だったことはない。実家にいるよりも、ホシナの傍のほうが安らいだ。――媚薬に侵されたとは言え、ホシナには無理を強いたと思う。それでも、私のためにその身を委ねてくれた。反応から初めてではないことがわかった。あれほど感じやすい躰で媚薬の効果が抜けるまで私に付き合ってくれた。ホシナが気を失ってから、知識だけはあったからとにかく綺麗にしないと、と彼の躰を拭いたりしていた時に刺繍に気付いた。メルクーシン家の家紋に、私の花。……ホシナが私の愛し子だということに混乱したのを覚えている。それでも、確かに私好みの躰だったので、納得もしたが……。ホシナが私のことを知っているように見えたのは気のせいではなかったのか。
「ルード」
ホシナが私の名をそう呼んだ。愛称、なのだろうか。ホシナが私の名を呼ぶときに、確かな愛情を感じた。知らない人から与えられる愛情に驚いた。人の肌がこんなにも心地よいものだということも、ホシナが教えてくれた。家族からのスキンシップはないにも等しかったし、人に触れられることに嫌悪感すら覚えていた私が、ホシナだけは平気だった。平気どころか心地よくて、もっとと願ったのは初めてで戸惑ったな……。
人から与えられる愛情。それがこんなにも――……。
何よりも驚いたのは、ホシナが私に与えるのは無償の愛だったことだ。見返りなんて求めていない。ただ、私を楽にしてあげたいという想いが肌から伝わって来た。
――聖騎士団に入ってから、私に近付いてくる者たちはほぼ下心があった。メルクーシン家はそこそこに有名だったらしく、王都で私に気に入られようとする者が聖騎士団にも多かったのだ。面倒だったので適当にあしらっていたが。
ほんの少しの時間だったが……私は確かに、ホシナに『愛されて』いたと思う。ホシナはすぐに帰ってしまった。いつかまた逢えるのだろうか。残ったニコロは私に対して慰めるように肩をポンと叩いて「絶対にまた逢えますよ」と言ってくれたので、その言葉を信じることにした。
媒体を壊し、王都へ戻る。シリウスが私たちを王都周辺へとワープさせた。そこからはまぁ、魔物を薙ぎ払い浄化してを繰り返す。やっぱり新人たちは魔物に対して戦意を喪失していたようだが、団長であるサディアスが最前線で魔物を狩っていた。数多の魔物がサディアスを襲っていたが、彼は難なく魔物を倒していた。同じ人類とは思えない強さだ。
フェンリルにも手伝ってもらう。ここなら思い切り暴れても誰も文句言わないだろう。媒体を壊したからそのうち減るだろうと思っていたが、中々減ってはくれなかった。
どれくらい浄化したかは覚えていなかったが、なんとか聖騎士団が勝利した。ほぼサディアスの手柄だろう。あとフェンリルも頑張ってくれたので後で魔力をわけに行こうと決め、その日は倒れるように眠り込んだのを覚えている。
気が付いたらニコロも帰っていた。お礼を言えなかったことが心残りだった。
その日から、私は少々休みをもらった。二年間ほぼ休みを取っていなかったから、すぐに許可が下りた。大量に浄化したという手柄もあったから、ゆっくり休めということだったのだろう。……私の手柄ではないのだが。
ホシナの着ていた服は手製のようだった。身長はその頃の私と同じくらいだったから、私が着られるくらいの服を作れば良いのだろう。ショートパンツを穿いていたようだが、チュニック一枚でも気にしていないようだったのはなぜだろう。そう言えばショートパンツを洗っておこうと思って、そのままだったのを思い出した。あれだけ強い快感を味わったのは初めてだったから、ホシナを綺麗にした後力尽きてしまったのだ。
その日から、じいやとリアに服の作り方や刺繍の仕方を習い始めた。
屋敷がざわついたのは気のせいではなかっただろう。いつかホシナに出逢えたら、私が作った服を着てもらおうと始めたことだ。服を作り、刺繍をして……。それなりの年数が経つにつれて服も刺繍もそれなりに綺麗に出来るようになった。これならホシナに着せても大丈夫だろう。
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