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9話
しおりを挟む「いやぁ、実は先生、魔力がなくてなぁ」
「え?」
「剣術一本でこの学園の剣術指導までたどり着いたんだ。すごいだろ?」
「すごいです!」
思わず即答した。魔力がない人は生活が不便って聞いたことがある。デュボアでは魔力がない人は居なかったけど(逆に強すぎて弱めた人はいるらしい。兄談)、そして、やっぱり魔法と剣術、両方を極めた人が有利になる。……だからこそ、剣術の才能があっても魔法の才能がなければ、王国騎士団には入れないらしいし……。
だからこそ、先生はこの学園で剣術を指導する道を選んだのだろう……。
それはきっと、血が滲む努力の結果。
「――何だかそんなキラキラした目を向けられると、照れるなぁ」
え、俺の目は隠れているよな!? と思ったけれど、キラキラとした目をしていたのはユーゴのほうだった。……え?
「学園の剣術の指導なんて、かなりの実力者じゃないと出来ないのに……!」
あ、ああ……なるほど。そっちかぁ。
「ははは。努力の結果ってわけだ。……それで、だな。さっきの魔法剣――あれを、魔力がない人を使えるようになれたら――……なんて、思ってな」
「……戦術の幅が広がりますね」
魔法が使えるのと使えないのでは、戦術の幅が違う。……魔法剣を兄さんと話していた時は、こんな風に考えたことはなかった。ただただ、魔法と剣を合わせるのが楽しかったから。
「本格的に作るのなら、魔道具部に入るのも良いかもね」
「魔道具部?」
「それこそ、魔力のない人にも魔法が使える道具を作ろうって部活。今日のオリエンテーションで紹介されるんじゃないかな?」
「それは……楽しみですね!」
「ああ!」
ユーゴも興味津々のようだ。今日のオリエンテーション、楽しみだなぁ。
……とはいえ、俺は生徒会のメンバーになっちゃったから、準備の手伝いしないとね。
先生とはそこで分かれてユーゴと一緒にクラスに戻った。着替えないといけないから、互いに早足だ。……ユーゴのほうが早いのは、足の長さの差かな!? くっそ、何か悔しい……!
「次の授業なんだっけ?」
「数学!」
「あー……寝てようかな」
「起きてろ!」
……と言うか、何でこんなに会話しているんだ、俺。まぁ、普通の友達のような関係になれるのならそれが一番良いんだろうけど……。……ここ漫画の世界だからなぁ、どうなるのかわからないや。
教室に戻って制服に着替え、次の授業の準備をする。数学……ついていけると良いな……。なんて考えながら、四時限目まで授業を受け、昼食を摂ってから生徒会のオリエンテーションの準備を手伝いに向かう。ユーゴも一緒だ。
「あ、迎えに行く前に来てくれた! よく生徒会室の場所わかったね」
……すみません、生徒会室の場所は漫画で説明されていたから知っています。今回は二階の一番の奥に行ってみたけど、正解だったようだ。流石にオリエンテーションの前だし、サロンには居ないだろうと踏んだ。
「適当に歩いていたら辿り着きました!」
「そっかぁ、じゃあ、入って入って。今日の段取りについて説明するから!」
そう言ってルイ先輩が俺らを生徒会室に招き入れた。
生徒会室にはリアム先輩、チェスター先輩、ジャック先輩、エイヴェリー先輩が既に座っていた。ルイ先輩、ユーゴ、そして俺。この七人が生徒会メンバーになるのか……。……生徒会ってこんなに人少なかったっけ? 前世の記憶ではもう少し居たような気がしたんだけど……。
「それでは、オリエンテーションの段取りについて説明する」
俺らが椅子に座るとリアム先輩が淡々と話し始めた。オリエンテーションには部活のことも含まれていた。まずは生徒会メンバーの紹介、各自委員会の紹介、部活の紹介、その他諸々。……え、これ生徒会が進行するの? 多くない?
「あの、生徒会メンバーの紹介って……」
「ああ、もちろん君たちも挨拶してもらう」
「え」
……生徒会ってこんな仕事もしていたっけ……。前世の学校生活を思い出そうとして、そもそもあんまり生徒会に興味なかったから覚えていないことに気付いた。……当時の生徒会の人たち……本当ごめん……。
そんなことを考えつつ、リアム先輩の説明をよーく聞く。
すべての紹介が終わったら、全校生徒でかくれんぼをするらしい。隠れるのは生徒会メンバー。探すのは生徒全員。……なにそれ、生徒会メンバー不利すぎない? と困惑してリアム先輩を見る。
「このかくれんぼの目的は、生徒たちが学園の教室を覚えることだ。進行は放送委員会にバトンタッチして、生徒会メンバー全員で隠れる。生徒会メンバーは出来るだけ見つからないようにばらけて隠れること」
……俺、すぐに見つかる自信があるなぁ……。
「ちなみに魔法を使うのは禁じる。それは生徒全員だ。時間内にひとりでも見つからなければ生徒会の勝ち。全員見つかれば生徒たちの勝ち。オリエンテーションだから勝っても賞品もないけどね」
……ん? オリエンテーションだからってことは、オリエンテーションじゃなければ賞品があるってこと?
「このかくれんぼは毎年三回は行われる。今日が一回目だ。残りの二回は賞品がつく」
「あの、その賞品って?」
「見つけた相手とのデート権だ」
「……はい?」
デート権……? え、それを求めてかくれんぼするの……? って言うか……男子校でデート権って需要有るのか!? って思ったけど、ここBL漫画の世界だから、需要有るのか……。
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