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season1
6話:僕と契約しなよ
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「おそれいりました……」
「いやいや。ねぇ、立ち話もなんだし、ここ座ってもいいかな?」
彼はカウンターのそばにある椅子を指差します。
「あ、どうぞ……」
「んじゃ、日本酒ちょうだい」
「え……日本酒ですか?」
「あるでしょ?」
確かに我が家には、アレクがコレクションしている日本酒があります。
神様というのは、そういうことまでわかったりするんでしょうか。
――あぁ、そういえば日本には神様にお酒を捧げる風習がありましたね。そういうことならワタクシも差し上げないといけません。
「はい、すぐ持ってきますから少々お待ちくださいね」
ワタクシは店の奥のドアを開けました。
この扉はワタクシとアレクの暮らす家に繋がっているのです。
「アレク、すみませんが1本いただきますよ……」
ワタクシはキッチンの棚から、高そうな金色の装飾の施されたラベルの日本酒を失敬して、小さなグラスと一緒に彼に差し出しました。
「これでいいですかね……?」
「へぇ、なかなか上等の物がでてきた。そういやアンタは飲まないの?」
「ワタクシはあまり呑めませんので。それは兄のアレクサンドルの物なんです。兄はお酒好きでしてね、だから多少置いてあるんですよ」
「お兄さんいるんだ」
「今日は商品買い付けの旅行に出かけてて居ませんけどね。だからナイショで持ってきました」
「アハハ、それじゃ、遠慮なく……あはっ、やっぱり上等な酒は香りも喉越しも良いね」
彼は上機嫌で、水でも飲むかのようにお酒を豪快に飲みほしました。
「ふぅ……それでね、いきなりで恐縮だけど。僕と契約しなよ」
「え? 契約ってどういうことですか?」
「この店って京都の変な位置にあるでしょ? 怪しい術で勝手に空間ねじまげてその隙間に店作ってさ。だからずっと僕の管轄区域なのに管轄から外れてる状態だったんだよ」
「ハァ……すみません」
「やっぱりさ、土地を守る関係上、把握できない状態なのは困るんだ」
管轄、なんて彼はまるでお役所みたいなことを言いますが、神様の世界ってそんなややこしいもんなのでしょうか。
「――しかしさぁ、なんで日本に住んでるの? アンタ外国人じゃん」
「えっと……兄が日本びいきなもんでここがいいって……それにワタクシも兄もフランス人ですけど、家系を辿ると少し日本人の血が入ってるんですよ……」
「へぇ」
「そ、それにほら、この町は外国人観光客が多いからワタクシ達も目立ちませんし……」
言い訳するようにぼそぼそと答えると、彼は少し困ったような表情をしました。
「――あぁ悪い、責めたつもりはないんだ」
「……え、あ、はい」
「別に怒ってないからさ。思ったことは遠慮せず言えばいいんだよ?」
「あ、はい……」
そうは言うものの、さっきから彼のペースに飲まれっぱなしでどうにもやり辛くて仕方ありません。ワタクシは苦笑いしながら軽く頬を掻きました。
「とりあえずそちらの事情はわかったよ。ただ、そういうことなら尚更、ちゃんと契約を結んだ方がいいんじゃないかな」
「確かにそうですが――」
「そうすればこのお店も僕の守護対象になる。悪い話じゃないでしょ?」
「うーん、そうですね……わかりました」
ワタクシは少し思案した後、うなずきました。
「よし、じゃ決まりだね。でもひとつ問題があってさ」
「――問題?」
「今回のケースって極めて稀なんだよね。だから無理を通す為に何か奉納してもらう必要があるんだよ」
「いやいや。ねぇ、立ち話もなんだし、ここ座ってもいいかな?」
彼はカウンターのそばにある椅子を指差します。
「あ、どうぞ……」
「んじゃ、日本酒ちょうだい」
「え……日本酒ですか?」
「あるでしょ?」
確かに我が家には、アレクがコレクションしている日本酒があります。
神様というのは、そういうことまでわかったりするんでしょうか。
――あぁ、そういえば日本には神様にお酒を捧げる風習がありましたね。そういうことならワタクシも差し上げないといけません。
「はい、すぐ持ってきますから少々お待ちくださいね」
ワタクシは店の奥のドアを開けました。
この扉はワタクシとアレクの暮らす家に繋がっているのです。
「アレク、すみませんが1本いただきますよ……」
ワタクシはキッチンの棚から、高そうな金色の装飾の施されたラベルの日本酒を失敬して、小さなグラスと一緒に彼に差し出しました。
「これでいいですかね……?」
「へぇ、なかなか上等の物がでてきた。そういやアンタは飲まないの?」
「ワタクシはあまり呑めませんので。それは兄のアレクサンドルの物なんです。兄はお酒好きでしてね、だから多少置いてあるんですよ」
「お兄さんいるんだ」
「今日は商品買い付けの旅行に出かけてて居ませんけどね。だからナイショで持ってきました」
「アハハ、それじゃ、遠慮なく……あはっ、やっぱり上等な酒は香りも喉越しも良いね」
彼は上機嫌で、水でも飲むかのようにお酒を豪快に飲みほしました。
「ふぅ……それでね、いきなりで恐縮だけど。僕と契約しなよ」
「え? 契約ってどういうことですか?」
「この店って京都の変な位置にあるでしょ? 怪しい術で勝手に空間ねじまげてその隙間に店作ってさ。だからずっと僕の管轄区域なのに管轄から外れてる状態だったんだよ」
「ハァ……すみません」
「やっぱりさ、土地を守る関係上、把握できない状態なのは困るんだ」
管轄、なんて彼はまるでお役所みたいなことを言いますが、神様の世界ってそんなややこしいもんなのでしょうか。
「――しかしさぁ、なんで日本に住んでるの? アンタ外国人じゃん」
「えっと……兄が日本びいきなもんでここがいいって……それにワタクシも兄もフランス人ですけど、家系を辿ると少し日本人の血が入ってるんですよ……」
「へぇ」
「そ、それにほら、この町は外国人観光客が多いからワタクシ達も目立ちませんし……」
言い訳するようにぼそぼそと答えると、彼は少し困ったような表情をしました。
「――あぁ悪い、責めたつもりはないんだ」
「……え、あ、はい」
「別に怒ってないからさ。思ったことは遠慮せず言えばいいんだよ?」
「あ、はい……」
そうは言うものの、さっきから彼のペースに飲まれっぱなしでどうにもやり辛くて仕方ありません。ワタクシは苦笑いしながら軽く頬を掻きました。
「とりあえずそちらの事情はわかったよ。ただ、そういうことなら尚更、ちゃんと契約を結んだ方がいいんじゃないかな」
「確かにそうですが――」
「そうすればこのお店も僕の守護対象になる。悪い話じゃないでしょ?」
「うーん、そうですね……わかりました」
ワタクシは少し思案した後、うなずきました。
「よし、じゃ決まりだね。でもひとつ問題があってさ」
「――問題?」
「今回のケースって極めて稀なんだよね。だから無理を通す為に何か奉納してもらう必要があるんだよ」
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