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season1
30話:魔女の箒
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アンティークの店「蜃気楼」の店内でワタクシはいつものカウンターに座り、ミルクティーを飲みながらのんびりと読書をしておりました。
今日読んでいるのは化学の雑誌。炭素繊維強化プラスチックの特集記事です。
カーボンフレームとかカーボンファイバーといった言葉は聞いた事があるでしょうか?
その名の通り炭素を加工した素材でして、軽い上に強度が高いのでロケットの材料にも使われているんだそうですよ。
「――ふむ、なるほど。これならワタクシの錬金術でも練成できそうですねぇ……作ったところで使い道は特にありませんが」
そんな独り言を言っておりますと、視界の端に大きな何かが窓を横切ったのが見えました。
「おや、誰か来たようですね……」
すると店のドアがバタンと勢いよく開き、アラビア衣装をまとった筋骨隆々とした男性が入ってきました。手には2本のアンティークな雰囲気の箒を持っています。
「はぁ~い! ジェル子ちゃん! お元気ぃ~?」
「おや、ジン。久しぶりですね」
誰かと思えば、たまに当店を訪れる魔人のジンでした。
「アレクちゃんは居ないのぉ?」
「まだ部屋で寝てますね。そろそろ起きてくるとは思いますが」
「そうなのねぇ。……実は今日、ジェル子ちゃん達にお願いしたいことがあって」
「何です? また呪いのアイテムじゃないでしょうね?」
ジンは見た目こそただの屈強なオネェですが、実はアラビアンナイトにも登場する有名なランプの魔人です。
親しい仲ではありますが過去に店に呪いの腕輪を持ち込んだこともありますので、やはり身構えざるを得ません。
ワタクシの警戒する表情を見て、ジンは大声で笑いながらカウンターに箒を2本置きました。
「アハハハ! やだもう、違うわよぉ~。お願いしたいのはこの箒なんだけどねぇ……」
「箒……?」
「えぇ。実はこれ、魔女が持ってる魔法の箒なのよ!」
「え、これが? 魔女は箒を使って空を飛ぶと聞きますが意外と普通の箒なんですね」
「そうなのよねぇ~」
手にとって見た感じはどこにでもありそうな箒で、正直こんなもので空が飛べるようには見えません。
「しかしどうして2本もあるんですか?」
「それね、姉妹で魔女をやってるお婆ちゃん達の箒なのよぉ~」
「なるほど、それで2本あるんですね」
「そういうこと♪」
「――それでお願いしたいことって何ですか?」
「うーんと……そのお婆ちゃん達ね、齢のせいで箒に上手く乗れなくなったらしいのよね。それで何か良い方法は無いかしらと思って」
てっきり箒を買い取って欲しいとかそういう話だと思っていたので、予想外の相談にワタクシはどう返していいものか考え込みました。
「うーん……いきなり良い方法は無いかと言われても困りますねぇ。上手く乗れなくなったって具体的にどういうことですか?」
「実際に箒に乗って試してみればわかるわ~」
ジンがそう言うので、ワタクシは箒を1本手にして店の外のスペースに行き、外で実際にまたがってみました。
「これ、呪文とか何か必要ですか?」
「いらないわよ。箒自体に魔力があるの。最後に手にした人の言うことをきくから、浮くようイメージすれば誰でも乗れるわね」
それはなんと便利な。どれどれ……では、箒よ浮いてください。
――そう念じた次の瞬間、箒の柄を握っていた手に浮力を感じ、ワタクシの体は箒ごと1メートルくらい上に持ち上がり空中に浮かびました。
しかし浮いたのはいいんですが……
「これ、意外とバランス取るの難しくないですか? 手に力も要るし、お尻も長く乗ると痛そうですし」
「そうなのよねぇ~。だからお年寄りにはちょっとキツくなってきたらしくて」
予想以上に箒に乗るのは難しく、安定させるのにはコツが必要でした。確かに体力の無いお年寄りには厳しいでしょう。
「お婆ちゃん達とは昔からの親友なんだけどね。空を飛べなくなってすっかり落ち込んでしまって。最近は家に引きこもってばかりでこのままだと弱る一方だし、気の毒だからなんとかできないかしら……と思ってジェル子ちゃん達に相談に来たのよ」
「なるほど、そういう事情でしたか。――しかし今までにだって飛べない魔女はいたでしょう?」
「まぁそうねぇ。飛べなくなると隠居だわね。毒薬作りだとかそういうインドアな趣味に転向する感じ」
「そのお婆ちゃんたちは転向できなかったと……?」
「まぁそうなるのかしら。あのお婆ちゃんたちはねぇ、魔女の中でも特に空を飛ぶのが上手くてそれが生きがいだった人たちなの。やっぱり生きがいを奪われるというのは辛いし弱るものなのよ?」
「まぁたしかにそうですねぇ……」
ワタクシが同意すると、ジンはあごひげを撫でながらしんみりした顔をしました。
「最近は魔女の世界も高齢化が進んでて。箒に乗れないお婆ちゃん魔女も地味に増えてるのよねぇ……」
「もしそれの解決策があれば……ということですね」
「えぇ、そうなの」
――なるほど、魔女たちの事情はわかりました。
しかし事情はわかったもののどう解決したらいいか浮かびません。
今日読んでいるのは化学の雑誌。炭素繊維強化プラスチックの特集記事です。
カーボンフレームとかカーボンファイバーといった言葉は聞いた事があるでしょうか?
その名の通り炭素を加工した素材でして、軽い上に強度が高いのでロケットの材料にも使われているんだそうですよ。
「――ふむ、なるほど。これならワタクシの錬金術でも練成できそうですねぇ……作ったところで使い道は特にありませんが」
そんな独り言を言っておりますと、視界の端に大きな何かが窓を横切ったのが見えました。
「おや、誰か来たようですね……」
すると店のドアがバタンと勢いよく開き、アラビア衣装をまとった筋骨隆々とした男性が入ってきました。手には2本のアンティークな雰囲気の箒を持っています。
「はぁ~い! ジェル子ちゃん! お元気ぃ~?」
「おや、ジン。久しぶりですね」
誰かと思えば、たまに当店を訪れる魔人のジンでした。
「アレクちゃんは居ないのぉ?」
「まだ部屋で寝てますね。そろそろ起きてくるとは思いますが」
「そうなのねぇ。……実は今日、ジェル子ちゃん達にお願いしたいことがあって」
「何です? また呪いのアイテムじゃないでしょうね?」
ジンは見た目こそただの屈強なオネェですが、実はアラビアンナイトにも登場する有名なランプの魔人です。
親しい仲ではありますが過去に店に呪いの腕輪を持ち込んだこともありますので、やはり身構えざるを得ません。
ワタクシの警戒する表情を見て、ジンは大声で笑いながらカウンターに箒を2本置きました。
「アハハハ! やだもう、違うわよぉ~。お願いしたいのはこの箒なんだけどねぇ……」
「箒……?」
「えぇ。実はこれ、魔女が持ってる魔法の箒なのよ!」
「え、これが? 魔女は箒を使って空を飛ぶと聞きますが意外と普通の箒なんですね」
「そうなのよねぇ~」
手にとって見た感じはどこにでもありそうな箒で、正直こんなもので空が飛べるようには見えません。
「しかしどうして2本もあるんですか?」
「それね、姉妹で魔女をやってるお婆ちゃん達の箒なのよぉ~」
「なるほど、それで2本あるんですね」
「そういうこと♪」
「――それでお願いしたいことって何ですか?」
「うーんと……そのお婆ちゃん達ね、齢のせいで箒に上手く乗れなくなったらしいのよね。それで何か良い方法は無いかしらと思って」
てっきり箒を買い取って欲しいとかそういう話だと思っていたので、予想外の相談にワタクシはどう返していいものか考え込みました。
「うーん……いきなり良い方法は無いかと言われても困りますねぇ。上手く乗れなくなったって具体的にどういうことですか?」
「実際に箒に乗って試してみればわかるわ~」
ジンがそう言うので、ワタクシは箒を1本手にして店の外のスペースに行き、外で実際にまたがってみました。
「これ、呪文とか何か必要ですか?」
「いらないわよ。箒自体に魔力があるの。最後に手にした人の言うことをきくから、浮くようイメージすれば誰でも乗れるわね」
それはなんと便利な。どれどれ……では、箒よ浮いてください。
――そう念じた次の瞬間、箒の柄を握っていた手に浮力を感じ、ワタクシの体は箒ごと1メートルくらい上に持ち上がり空中に浮かびました。
しかし浮いたのはいいんですが……
「これ、意外とバランス取るの難しくないですか? 手に力も要るし、お尻も長く乗ると痛そうですし」
「そうなのよねぇ~。だからお年寄りにはちょっとキツくなってきたらしくて」
予想以上に箒に乗るのは難しく、安定させるのにはコツが必要でした。確かに体力の無いお年寄りには厳しいでしょう。
「お婆ちゃん達とは昔からの親友なんだけどね。空を飛べなくなってすっかり落ち込んでしまって。最近は家に引きこもってばかりでこのままだと弱る一方だし、気の毒だからなんとかできないかしら……と思ってジェル子ちゃん達に相談に来たのよ」
「なるほど、そういう事情でしたか。――しかし今までにだって飛べない魔女はいたでしょう?」
「まぁそうねぇ。飛べなくなると隠居だわね。毒薬作りだとかそういうインドアな趣味に転向する感じ」
「そのお婆ちゃんたちは転向できなかったと……?」
「まぁそうなるのかしら。あのお婆ちゃんたちはねぇ、魔女の中でも特に空を飛ぶのが上手くてそれが生きがいだった人たちなの。やっぱり生きがいを奪われるというのは辛いし弱るものなのよ?」
「まぁたしかにそうですねぇ……」
ワタクシが同意すると、ジンはあごひげを撫でながらしんみりした顔をしました。
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