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season1
71話:ハザマさん
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「二次性RXオタク症候群?」
そんな変な名前の病気は聞いたことありませんが、お医者様がそうおっしゃるならそうなんでしょうか。
「最近、発見された奇病ですから、ご存知ないのも無理はありません」
ハザマさんは神妙な面持ちでトランクから黄色い液体の入った小さな薬瓶を取り出し、カウンターに置きました。
「二次性RXオタク症候群の患者は、本人の自覚無く極端な行動をとってしまいます。しかし、この薬を飲めば治ることが最近の研究でわかったのです」
「極端な行動――確かに兄はそうですけども。その薬を飲めばそれが全部治るということですか⁉」
「そういうことです!」
ハザマさんの力強い返事に、ワタクシは思わず興奮しながら早口で訴えました。
「あ、あの。もしかしてクソ悪趣味なスパンコールのパンツで家の中を歩き回ったり、下半身をワタクシに見せ付けてきたりもするのも治るんでしょうか⁉」
「それは病気ではなく個人の性癖なので無理ですな」
「それも病気のせいであってほしかった……!」
アレクの性癖が医者もさじを投げるレベルとは。まぁそれはさておき、問題はアレクの病気の事です。
「その薬があれば、兄の極端な行動も治る、そういうことでしたね」
「えぇそうです。大変貴重な薬ですが、今ならなんとたったの5万円でお譲りいたします!」
えっ、このティースプーン一杯程度の量しか入っていない小瓶が5万円……⁉
「5万円ですか。なかなかいいお値段ですね」
「えぇ。でもこれでお兄さんの病気が治るなら安いと思いますよ?」
ハザマさんはジッとワタクシの目を見つめて、決断を迫りました。
――しかし、ワタクシの答えは決まっています。
「大変ありがたいのですが、薬は不要です。確かにうちの兄は昔から何かに夢中になっては困ったことをしでかす人ではありますが、ワタクシはそれも含めて彼の事が好きですから」
「ジェルマンさん……」
ハザマさんはワタクシの言葉に心を打たれたらしく、ハンカチを取り出しそっと涙をぬぐいました。
「そうですか……。もしかしたらこの先ジェルマンさんも二次性RXオタク症候群に感染するかもしれませんが、あなた達兄弟ならきっと乗り越えて――」
「今すぐ薬をください!!!!」
「急にどうしたんですかジェルマンさん!」
驚く彼に5万円を無理やり握らせて、急いで薬を確保しました。
兄が二次性RXオタク症候群なのは構いませんが、ワタクシまでそうなるわけにはいきません。
こうしてワタクシは薬を手に入れ、用件を終えたハザマさんは再び店内を見ていました。
「しかし、さすがアンティークショップだ。珍しい物をいろいろ置いていらっしゃいますなぁ」
「ありがとうございます。この店にあるのはワタクシのコレクションや、兄が海外で買い付けている物が大半なんですよ」
「そうでしたか。ん、これは見覚えが……」
彼は棚の上に置かれた、アールヌーボーの模様が刻まれている木製の小さな写真立てを手に取りました。
中の写真は確か、小さな男の子と母親らしき人物が笑顔で手を繋いで写っている古い記念写真だったはずです。
ワタクシが手に入れたときにはその写真が既に入っていて、微笑ましい光景でしたのでそのままにして飾っていたのでした。
「――あぁ、この写真は。母ちゃん……!」
「ハザマさん?」
「ジェルマンさん! この写真立てを売ってくれ! あぁ、このさっきもらった5万に、俺が持ってる薬もトランクも全部あげるから……!」
「え、えぇ。かまいませんが」
必死の形相のハザマさんに急いで写真立てを包んで渡すと、理由を聞く間もなく彼はそれを大事に両手で抱えて、逃げるように店を出て行ってしまいました。
「いったい、何がなんだか……」
それから、数日後。
家に帰ってきたアレクと一緒に紅茶を飲みながらリビングでテレビを観ていますと、よく知った顔が画面に映りました。
真っ黒なスーツの上に白衣を着た、人の良さそうな雰囲気の中年男性。
テロップには『病気をでっちあげて薬を売っていた詐欺師が自首!』とあります。
「ハザマさん。あなた、やっぱり詐欺師だったんですね」
――そう。彼が店を出て行った後、残された薬を錬金術で分析して調べたのですが、全部ただのビタミン剤だったのです。
報道番組はハザマさんについて『幼い頃に亡くなった母の写真を見て人を騙すのが辛くなった。これからは罪を償ってまっとうに生きたいと警察で供述した』と伝えていました。
「なるほど。きっと彼はあの写真立てに導かれて当店に……いやはや、不思議なこともあるものです」
「ん? どうしたんだよ、ジェル」
アレクがひとりで納得している様子のワタクシを見て、話を聞きたそうにしていました。
でも、さすがにハザマさんの話を信じて薬を買ったなんて言えるはずもなく、ワタクシは曖昧に笑うしかなかったのでした。
そんな変な名前の病気は聞いたことありませんが、お医者様がそうおっしゃるならそうなんでしょうか。
「最近、発見された奇病ですから、ご存知ないのも無理はありません」
ハザマさんは神妙な面持ちでトランクから黄色い液体の入った小さな薬瓶を取り出し、カウンターに置きました。
「二次性RXオタク症候群の患者は、本人の自覚無く極端な行動をとってしまいます。しかし、この薬を飲めば治ることが最近の研究でわかったのです」
「極端な行動――確かに兄はそうですけども。その薬を飲めばそれが全部治るということですか⁉」
「そういうことです!」
ハザマさんの力強い返事に、ワタクシは思わず興奮しながら早口で訴えました。
「あ、あの。もしかしてクソ悪趣味なスパンコールのパンツで家の中を歩き回ったり、下半身をワタクシに見せ付けてきたりもするのも治るんでしょうか⁉」
「それは病気ではなく個人の性癖なので無理ですな」
「それも病気のせいであってほしかった……!」
アレクの性癖が医者もさじを投げるレベルとは。まぁそれはさておき、問題はアレクの病気の事です。
「その薬があれば、兄の極端な行動も治る、そういうことでしたね」
「えぇそうです。大変貴重な薬ですが、今ならなんとたったの5万円でお譲りいたします!」
えっ、このティースプーン一杯程度の量しか入っていない小瓶が5万円……⁉
「5万円ですか。なかなかいいお値段ですね」
「えぇ。でもこれでお兄さんの病気が治るなら安いと思いますよ?」
ハザマさんはジッとワタクシの目を見つめて、決断を迫りました。
――しかし、ワタクシの答えは決まっています。
「大変ありがたいのですが、薬は不要です。確かにうちの兄は昔から何かに夢中になっては困ったことをしでかす人ではありますが、ワタクシはそれも含めて彼の事が好きですから」
「ジェルマンさん……」
ハザマさんはワタクシの言葉に心を打たれたらしく、ハンカチを取り出しそっと涙をぬぐいました。
「そうですか……。もしかしたらこの先ジェルマンさんも二次性RXオタク症候群に感染するかもしれませんが、あなた達兄弟ならきっと乗り越えて――」
「今すぐ薬をください!!!!」
「急にどうしたんですかジェルマンさん!」
驚く彼に5万円を無理やり握らせて、急いで薬を確保しました。
兄が二次性RXオタク症候群なのは構いませんが、ワタクシまでそうなるわけにはいきません。
こうしてワタクシは薬を手に入れ、用件を終えたハザマさんは再び店内を見ていました。
「しかし、さすがアンティークショップだ。珍しい物をいろいろ置いていらっしゃいますなぁ」
「ありがとうございます。この店にあるのはワタクシのコレクションや、兄が海外で買い付けている物が大半なんですよ」
「そうでしたか。ん、これは見覚えが……」
彼は棚の上に置かれた、アールヌーボーの模様が刻まれている木製の小さな写真立てを手に取りました。
中の写真は確か、小さな男の子と母親らしき人物が笑顔で手を繋いで写っている古い記念写真だったはずです。
ワタクシが手に入れたときにはその写真が既に入っていて、微笑ましい光景でしたのでそのままにして飾っていたのでした。
「――あぁ、この写真は。母ちゃん……!」
「ハザマさん?」
「ジェルマンさん! この写真立てを売ってくれ! あぁ、このさっきもらった5万に、俺が持ってる薬もトランクも全部あげるから……!」
「え、えぇ。かまいませんが」
必死の形相のハザマさんに急いで写真立てを包んで渡すと、理由を聞く間もなく彼はそれを大事に両手で抱えて、逃げるように店を出て行ってしまいました。
「いったい、何がなんだか……」
それから、数日後。
家に帰ってきたアレクと一緒に紅茶を飲みながらリビングでテレビを観ていますと、よく知った顔が画面に映りました。
真っ黒なスーツの上に白衣を着た、人の良さそうな雰囲気の中年男性。
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「ハザマさん。あなた、やっぱり詐欺師だったんですね」
――そう。彼が店を出て行った後、残された薬を錬金術で分析して調べたのですが、全部ただのビタミン剤だったのです。
報道番組はハザマさんについて『幼い頃に亡くなった母の写真を見て人を騙すのが辛くなった。これからは罪を償ってまっとうに生きたいと警察で供述した』と伝えていました。
「なるほど。きっと彼はあの写真立てに導かれて当店に……いやはや、不思議なこともあるものです」
「ん? どうしたんだよ、ジェル」
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