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season2
90話:すげぇチョコ
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ベルギーから直行便で12時間かけて家に帰った俺は、リビングに座って一息つくと、早速持って帰ってきたチョコの箱を差し出した。
「これ、バレンタインチョコ。お兄ちゃんの気持ちがしっかりこもってるつもりだから……もらってくれ」
「アレクの気持ちですか。ふふ、ありがとうございます」
ジェルは軽く微笑んで、丁寧にラッピングを外して箱を開けた。
さぁ、お兄ちゃんのスペシャルかっこいいチョコとのご対面だ!
「えっ、なんですかこれは……プッ、アハハハハ!」
あれ? そこは感動するシーンだと思うんだけど。何故かジェルは箱の中を見て大笑いしている。
「おい、どうしたんだよ、ジェル……あぁぁぁぁぁっ!」
――いや、まさか。完全に予想外だったわ。
中を見てみると、土台の細やかな装飾がドロドロに溶けていて、かっこよくピースサインをしているはずのチョコの人差し指が、くにゃりと内側に曲がっていた。
これではどう見ても中指を立ててケンカを売っているようにしか見えない。指が1本足りないだけなのに大惨事だ。
「もう、チョコはちゃんと温度管理しないとダメじゃないですか!」
ジェルはまだクスクス笑っている。
そういえば、帰りの電車の中でうっかりトランクをヒーターの近くに置いていたから熱が直撃してたかもしれない。
こんなことになるなら、菓子職人が言ってたように別便で空輸すべきだったと後悔した。
「ごめんな、ジェル。すげぇチョコあげる予定だったのに……」
「これも十分“すげぇチョコ”ですけどね」
「でも……」
「アレク。はい、あーんして?」
大失敗のショックでうつむく俺の傍にジェルが来て、大きな飴玉みたいなサイズの丸いチョコを俺の口元に差し出した。
「え、あーん……?」
反射的に口を開くと、口の中いっぱいに甘い味とチョコとラム酒の香りが広がる。
「今年はトリュフを作ってみたんですよ。どうですか?」
「……おいしい」
まさかジェルもチョコを用意してくれていたなんて。ちょっと――いや、かなりうれしいかも。
「今までで一番平和なバレンタインデーになりましたねぇ……」
ジェルは俺がチョコを味わっている様子を見て、穏やかに微笑んだ。
平和なバレンタインデーかぁ。本当そうだよなぁ。
ふと、俺の脳裏に「もらうことばっかり考えてちゃダメだよ、アレク兄ちゃん。与えることも考えないと」というシロの言葉が浮かんだ。
「なぁジェル。俺のチョコもよかったら食べてくれないか?」
「……え。これを?」
ジェルは急に真顔になって、テーブルに置かれた半分崩れかかっている俺の手の形のチョコを凝視している。
「いえ、結構です。遠慮します!」
ジェルはまるで怖いものを見て腰が抜けて立てなくなった人みたいに後ずさりして、手を前に突き出して全力で拒否のポーズをとった。
なんでだよ、形はちょっと残念になっちゃったけどベルギーのすげぇチョコなのに。遠慮しなくていいぞ?
俺はチョコの箱を掴んでジリジリと近づく。
「だって劣化しておいしくなさそ――」
「よし、お兄ちゃんが食べさせてやるよ!」
ぶんぶん首を振って要らないと繰り返すジェルに向けて、俺は中指を立てたチョコレートを笑顔で差し出したのだった。
「これ、バレンタインチョコ。お兄ちゃんの気持ちがしっかりこもってるつもりだから……もらってくれ」
「アレクの気持ちですか。ふふ、ありがとうございます」
ジェルは軽く微笑んで、丁寧にラッピングを外して箱を開けた。
さぁ、お兄ちゃんのスペシャルかっこいいチョコとのご対面だ!
「えっ、なんですかこれは……プッ、アハハハハ!」
あれ? そこは感動するシーンだと思うんだけど。何故かジェルは箱の中を見て大笑いしている。
「おい、どうしたんだよ、ジェル……あぁぁぁぁぁっ!」
――いや、まさか。完全に予想外だったわ。
中を見てみると、土台の細やかな装飾がドロドロに溶けていて、かっこよくピースサインをしているはずのチョコの人差し指が、くにゃりと内側に曲がっていた。
これではどう見ても中指を立ててケンカを売っているようにしか見えない。指が1本足りないだけなのに大惨事だ。
「もう、チョコはちゃんと温度管理しないとダメじゃないですか!」
ジェルはまだクスクス笑っている。
そういえば、帰りの電車の中でうっかりトランクをヒーターの近くに置いていたから熱が直撃してたかもしれない。
こんなことになるなら、菓子職人が言ってたように別便で空輸すべきだったと後悔した。
「ごめんな、ジェル。すげぇチョコあげる予定だったのに……」
「これも十分“すげぇチョコ”ですけどね」
「でも……」
「アレク。はい、あーんして?」
大失敗のショックでうつむく俺の傍にジェルが来て、大きな飴玉みたいなサイズの丸いチョコを俺の口元に差し出した。
「え、あーん……?」
反射的に口を開くと、口の中いっぱいに甘い味とチョコとラム酒の香りが広がる。
「今年はトリュフを作ってみたんですよ。どうですか?」
「……おいしい」
まさかジェルもチョコを用意してくれていたなんて。ちょっと――いや、かなりうれしいかも。
「今までで一番平和なバレンタインデーになりましたねぇ……」
ジェルは俺がチョコを味わっている様子を見て、穏やかに微笑んだ。
平和なバレンタインデーかぁ。本当そうだよなぁ。
ふと、俺の脳裏に「もらうことばっかり考えてちゃダメだよ、アレク兄ちゃん。与えることも考えないと」というシロの言葉が浮かんだ。
「なぁジェル。俺のチョコもよかったら食べてくれないか?」
「……え。これを?」
ジェルは急に真顔になって、テーブルに置かれた半分崩れかかっている俺の手の形のチョコを凝視している。
「いえ、結構です。遠慮します!」
ジェルはまるで怖いものを見て腰が抜けて立てなくなった人みたいに後ずさりして、手を前に突き出して全力で拒否のポーズをとった。
なんでだよ、形はちょっと残念になっちゃったけどベルギーのすげぇチョコなのに。遠慮しなくていいぞ?
俺はチョコの箱を掴んでジリジリと近づく。
「だって劣化しておいしくなさそ――」
「よし、お兄ちゃんが食べさせてやるよ!」
ぶんぶん首を振って要らないと繰り返すジェルに向けて、俺は中指を立てたチョコレートを笑顔で差し出したのだった。
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