100 / 163
season2
101話:クーちゃんの正体は?
しおりを挟む
俺は床に寝そべっているクーちゃんを監視しながら、ハンバーグを食べた。
いつまた触手を出してくるかもしれないと気になって、大好物なのにちっとも美味しいと感じなかったのが悔しい。
夕食後、ジェルは魔法陣を書いた羊皮紙と魔術書や色とりどりの宝石が入ったケースを、リビングのテーブルに並べていた。
「なんだ、自分の部屋で作業しないのか?」
「それだとクーちゃんをほったらかしになってしまいますし。せっかく預かったんですから、ワタクシだって可愛がりたいじゃないですか」
ジェルは何も警戒することなくクーちゃんを膝に乗せて、ふわふわの毛を撫でている。
俺もさっきの光景さえ見なければ、同じようにその毛並みを堪能していただろう。
「そういえば結界の様子を見ておかないと。今度はもっと修復が楽だといいんですが……」
「外に出てくるのか?」
「えぇ、すぐ戻りますから待っててください」
ジェルはクンクン甘えるクーちゃんを床に降ろして、リビングを出て行った。
そういや前に結界が壊された時も、ジェルが地面に宝石を埋めていろいろしてたっけ……すげぇめんどくさいってぼやいてたなぁ。
ソファーに寝転がって過去の出来事をあれこれ思い出していると、すぐ近くでハッハッハッと呼吸音がする。
俺は音のした方に目をやって、思わず声を上げた。
「あっ、おい! それ触ったらマズいやつだから!」
いつの間にかクーちゃんがテーブルの上に乗って、羊皮紙に書かれた魔法陣に顔を近づけている。
俺はとっさに起き上がって手を伸ばし、クーちゃんをそこから降ろそうとしてうっかり足を滑らしてテーブルの角に体をぶつけた。
「いてっ!」
その衝撃でテーブルが傾いてケースの蓋が開き、キラキラ輝くたくさんの宝石が魔法陣の上に散らばった。
クーちゃんは何事も無かったかのようにサッと飛び降りて、床に着地する。
体勢を立て直そうした俺は、思わず羊皮紙の上に手をついた。
「あっ……」
その時、何がどう作用したのかはさっぱりわからない。
ただ言えることは、魔法陣が発動してしまったということだ。
テーブルの上に黒いモヤのような物が浮かんで、それはすぐに濃くなっていく。
地の底から湧き上がるようなうめき声と共に、巨大な角と牙を持つ牛の化け物みたいなのが魔法陣から姿を現した。
――これはヤバイ。絶対ヤバイやつだ。
俺はベストの内ポケットに仕込んであるナイフを取り出そうとしたが、化け物の咆哮に飲まれ、思わず手が止まってしまった。
化け物は俺に向かって大きな口を開けて――
もうダメだと思った瞬間。
薄茶色の毛玉が俺の前に飛び出して、化け物の鼻先に体当たりした。
「クーちゃん……⁉」
犬とは思えないしなやかな動きで床に着地したクーちゃんは、俺を守るように前に出て化け物に向かってグルル……と唸って警戒している。
すると信じられないことに、その小さな背中がぱっくり割れて、中から巨大な触手とコウモリのような翼を生やした緑色のタコみたいな怪物が現れた。
その姿はどんどん大きくなって、あっという間に天井に頭が付きそうなサイズになる。
そして粘液まみれのヌラヌラ光る太い触手で化け物を締め上げたかと思うと、それを魔法陣の中に押し込んで元の世界に返したのだ。
「クーちゃん、すげぇ……!」
俺の声に巨大な怪物はゆっくりと振り返った。その姿は……今日ジェルが見せてくれた本の挿絵の――
「言い表せない恐怖……」
そのまま俺の視界は暗くなって、スーッと意識が遠くなっていくのを感じた。
「――アレク、大丈夫ですか?」
「ん……あ、ジェル? あれ?」
目を開けると、ジェルが青い瞳を不思議そうにまん丸にして俺の顔を覗き込んでいた。
「床で寝ちゃダメですよ。風邪ひいちゃいますよ?」
俺は床に倒れていたらしい。起き上がろうとしたら俺の胸の上に薄茶色の毛玉が乗っかってきた。
「うぉっ、クーちゃん⁉」
「どうしたんですか、アレク。そんなに慌てて」
「いや、別に……」
そっとクーちゃんを抱きかかえて、毛を撫でるふりをしながら背中を確認する。
そこには、ふわふわした感触があるだけで背中が割れた様子はもちろん、継ぎ目すら見つからなかった。
「夢……だったのかな」
「あー、もう。こんなに散らかして! 後が大変じゃないですか!」
「えっ……?」
起き上がってテーブルに目をやると、羊皮紙の上に宝石が散らばっていて、端の方に少し液体がかかったような湿った跡がある。
やっぱりあれは夢じゃなかったんだ。
「おや。この魔法陣、書き間違いですかね。何箇所か文字が逆さになってます」
「書き間違い?」
「えぇ。このまま発動したらとんでもないものを召喚するところでしたよ。何事も無くてよかったです」
うっかりしていたと、ジェルはのんきにつぶやく。そのおかげでこっちはとんでもない目に遭ったんだが。
――次の日の夕方。宇宙人達は約束通り、クーちゃんを迎えに来た。
「いや~、たすかりましたわ~」
「これ、お礼の豚まん。温かいうちに食べてや」
山田の手に下げられた白いビニール袋の中には、美味しそうな匂いのする赤い箱が見えた。
ジェルはそれを受け取りながら「次は絶対に、結界を壊さないでくださいね」と念を押している。
そんなこと言ってても、どうせまた壊されるような気がするけどな。
「兄ちゃん達、ほんまおおきに」
「ほな、どうも~。失礼しますわ~」
キャリーケースの蓋が開いて、クーちゃんは銀色の腕に抱きかかえられた。
「ありがとうな。また遊びに来いよ?」
俺がそう声をかけてふわふわの頭を撫でると、クーちゃんはとてもご機嫌な様子でハッハッハッと舌をだしたのだった。
いつまた触手を出してくるかもしれないと気になって、大好物なのにちっとも美味しいと感じなかったのが悔しい。
夕食後、ジェルは魔法陣を書いた羊皮紙と魔術書や色とりどりの宝石が入ったケースを、リビングのテーブルに並べていた。
「なんだ、自分の部屋で作業しないのか?」
「それだとクーちゃんをほったらかしになってしまいますし。せっかく預かったんですから、ワタクシだって可愛がりたいじゃないですか」
ジェルは何も警戒することなくクーちゃんを膝に乗せて、ふわふわの毛を撫でている。
俺もさっきの光景さえ見なければ、同じようにその毛並みを堪能していただろう。
「そういえば結界の様子を見ておかないと。今度はもっと修復が楽だといいんですが……」
「外に出てくるのか?」
「えぇ、すぐ戻りますから待っててください」
ジェルはクンクン甘えるクーちゃんを床に降ろして、リビングを出て行った。
そういや前に結界が壊された時も、ジェルが地面に宝石を埋めていろいろしてたっけ……すげぇめんどくさいってぼやいてたなぁ。
ソファーに寝転がって過去の出来事をあれこれ思い出していると、すぐ近くでハッハッハッと呼吸音がする。
俺は音のした方に目をやって、思わず声を上げた。
「あっ、おい! それ触ったらマズいやつだから!」
いつの間にかクーちゃんがテーブルの上に乗って、羊皮紙に書かれた魔法陣に顔を近づけている。
俺はとっさに起き上がって手を伸ばし、クーちゃんをそこから降ろそうとしてうっかり足を滑らしてテーブルの角に体をぶつけた。
「いてっ!」
その衝撃でテーブルが傾いてケースの蓋が開き、キラキラ輝くたくさんの宝石が魔法陣の上に散らばった。
クーちゃんは何事も無かったかのようにサッと飛び降りて、床に着地する。
体勢を立て直そうした俺は、思わず羊皮紙の上に手をついた。
「あっ……」
その時、何がどう作用したのかはさっぱりわからない。
ただ言えることは、魔法陣が発動してしまったということだ。
テーブルの上に黒いモヤのような物が浮かんで、それはすぐに濃くなっていく。
地の底から湧き上がるようなうめき声と共に、巨大な角と牙を持つ牛の化け物みたいなのが魔法陣から姿を現した。
――これはヤバイ。絶対ヤバイやつだ。
俺はベストの内ポケットに仕込んであるナイフを取り出そうとしたが、化け物の咆哮に飲まれ、思わず手が止まってしまった。
化け物は俺に向かって大きな口を開けて――
もうダメだと思った瞬間。
薄茶色の毛玉が俺の前に飛び出して、化け物の鼻先に体当たりした。
「クーちゃん……⁉」
犬とは思えないしなやかな動きで床に着地したクーちゃんは、俺を守るように前に出て化け物に向かってグルル……と唸って警戒している。
すると信じられないことに、その小さな背中がぱっくり割れて、中から巨大な触手とコウモリのような翼を生やした緑色のタコみたいな怪物が現れた。
その姿はどんどん大きくなって、あっという間に天井に頭が付きそうなサイズになる。
そして粘液まみれのヌラヌラ光る太い触手で化け物を締め上げたかと思うと、それを魔法陣の中に押し込んで元の世界に返したのだ。
「クーちゃん、すげぇ……!」
俺の声に巨大な怪物はゆっくりと振り返った。その姿は……今日ジェルが見せてくれた本の挿絵の――
「言い表せない恐怖……」
そのまま俺の視界は暗くなって、スーッと意識が遠くなっていくのを感じた。
「――アレク、大丈夫ですか?」
「ん……あ、ジェル? あれ?」
目を開けると、ジェルが青い瞳を不思議そうにまん丸にして俺の顔を覗き込んでいた。
「床で寝ちゃダメですよ。風邪ひいちゃいますよ?」
俺は床に倒れていたらしい。起き上がろうとしたら俺の胸の上に薄茶色の毛玉が乗っかってきた。
「うぉっ、クーちゃん⁉」
「どうしたんですか、アレク。そんなに慌てて」
「いや、別に……」
そっとクーちゃんを抱きかかえて、毛を撫でるふりをしながら背中を確認する。
そこには、ふわふわした感触があるだけで背中が割れた様子はもちろん、継ぎ目すら見つからなかった。
「夢……だったのかな」
「あー、もう。こんなに散らかして! 後が大変じゃないですか!」
「えっ……?」
起き上がってテーブルに目をやると、羊皮紙の上に宝石が散らばっていて、端の方に少し液体がかかったような湿った跡がある。
やっぱりあれは夢じゃなかったんだ。
「おや。この魔法陣、書き間違いですかね。何箇所か文字が逆さになってます」
「書き間違い?」
「えぇ。このまま発動したらとんでもないものを召喚するところでしたよ。何事も無くてよかったです」
うっかりしていたと、ジェルはのんきにつぶやく。そのおかげでこっちはとんでもない目に遭ったんだが。
――次の日の夕方。宇宙人達は約束通り、クーちゃんを迎えに来た。
「いや~、たすかりましたわ~」
「これ、お礼の豚まん。温かいうちに食べてや」
山田の手に下げられた白いビニール袋の中には、美味しそうな匂いのする赤い箱が見えた。
ジェルはそれを受け取りながら「次は絶対に、結界を壊さないでくださいね」と念を押している。
そんなこと言ってても、どうせまた壊されるような気がするけどな。
「兄ちゃん達、ほんまおおきに」
「ほな、どうも~。失礼しますわ~」
キャリーケースの蓋が開いて、クーちゃんは銀色の腕に抱きかかえられた。
「ありがとうな。また遊びに来いよ?」
俺がそう声をかけてふわふわの頭を撫でると、クーちゃんはとてもご機嫌な様子でハッハッハッと舌をだしたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】小さな元大賢者の幸せ騎士団大作戦〜ひとりは寂しいからみんなで幸せ目指します〜
るあか@12/10書籍刊行
ファンタジー
僕はフィル・ガーネット5歳。田舎のガーネット領の領主の息子だ。
でも、ただの5歳児ではない。前世は別の世界で“大賢者”という称号を持つ大魔道士。そのまた前世は日本という島国で“独身貴族”の称号を持つ者だった。
どちらも決して不自由な生活ではなかったのだが、特に大賢者はその力が強すぎたために側に寄る者は誰もおらず、寂しく孤独死をした。
そんな僕はメイドのレベッカと近所の森を散歩中に“根無し草の鬼族のおじさん”を拾う。彼との出会いをきっかけに、ガーネット領にはなかった“騎士団”の結成を目指す事に。
家族や領民のみんなで幸せになる事を夢見て、元大賢者の5歳の僕の幸せ騎士団大作戦が幕を開ける。
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
この聖水、泥の味がする ~まずいと追放された俺の作るポーションが、実は神々も欲しがる奇跡の霊薬だった件~
夏見ナイ
ファンタジー
「泥水神官」と蔑まれる下級神官ルーク。彼が作る聖水はなぜか茶色く濁り、ひどい泥の味がした。そのせいで無能扱いされ、ある日、無実の罪で神殿から追放されてしまう。
全てを失い流れ着いた辺境の村で、彼は自らの聖水が持つ真の力に気づく。それは浄化ではなく、あらゆる傷や病、呪いすら癒す奇跡の【創生】の力だった!
ルークは小さなポーション屋を開き、まずいけどすごい聖水で村人たちを救っていく。その噂は広まり、呪われた女騎士やエルフの薬師など、訳ありな仲間たちが次々と集結。辺境の村はいつしか「癒しの郷」へと発展していく。
一方、ルークを追放した王都では聖女が謎の病に倒れ……。
落ちこぼれ神官の、痛快な逆転スローライフ、ここに開幕!
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
蔑ろにされましたが実は聖女でした ー できない、やめておけ、あなたには無理という言葉は全て覆させていただきます! ー
みーしゃ
ファンタジー
生まれつきMPが1しかないカテリーナは、義母や義妹たちからイジメられ、ないがしろにされた生活を送っていた。しかし、本をきっかけに女神への信仰と勉強を始め、イケメンで優秀な兄の力も借りて、宮廷大学への入学を目指す。
魔法が使えなくても、何かできる事はあるはず。
人生を変え、自分にできることを探すため、カテリーナの挑戦が始まる。
そして、カテリーナの行動により、周囲の認識は彼女を聖女へと変えていくのだった。
物語は、後期ビザンツ帝国時代に似た、魔物や魔法が存在する異世界です。だんだんと逆ハーレムな展開になっていきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる