110 / 163
season2
111話:イケメン兄弟、コンビニバイトをする
しおりを挟む
それは弟のジェルマンをコンビニバイトに誘ったことが始まりだった。
正直、誘うんじゃなかったって、ちょっと後悔してる。
本当に大変だったから。
まさかここまでジェルがマイペースだなんて思わなかったんだよ。
「え、コンビニでバイトですか?」
「うん、コンビニの店長やってる知り合いなんだけどさ。急に人が足りなくてシフトに穴が開いて困ってるらしいんだ。それで俺に助けてくれって連絡がきたんだよ」
「へぇ。じゃあ行ってあげればいいんじゃないですか?」
リビングで本を読みながら俺の話を聞いていたジェルは、まったく興味がなさそうに答える。
「それがさぁ、もう一人誰か連れてきてくれって言われて。ジェルも一緒にどうだ?」
「え、ワタクシですか⁉」
ジェルは普段、俺と一緒にアンティークの店『蜃気楼』を経営している。
だから接客経験がある彼を連れていけばなんとかなるだろうと、その時は思っていた。
「うちの店はどうするんですか?」
「1日くらい閉めちゃってもいいだろ? コンビニの方も1日だけでいいらしいから。なぁ、店長さん困ってるんだよ。頼むよジェルちゃ~ん!」
「……しょうがないですねぇ」
こうして俺は、ジェルをコンビニバイトに連れて行くことになったんだ。
店に行くと、店長はホッとした顔で俺達を出迎えた。
「いやぁ、アレクサンドル君! 助かったよ!」
「おう、困った時はお互い様ってやつだ。そういや奥さんは元気にしてるか?」
店長は結婚して2年目で、奥さんのお腹には子どもがいるんだってさ。
だから生まれてくる子どもの為にも頑張らなきゃって、張り切って仕事してるんだ。
「あぁ、臨月で大変そうではあるけど元気にしてるよ。そちらがジェルマン君かい? ……あれ? 弟って聞いてたけど、女の子だった?」
店長にはジェルの容姿が女性に見えたらしい。
ジェルは顔立ちも中性的で骨格も華奢だし、彼が今着てるのはレースの付いた真っ白なブラウスだから、そう思われても仕方無い気はする。
「いえ、ワタクシは男です。よく女性に間違えられるんですよ」
「そうか、すまなかった。アレクサンドル君もそうだけど、日本語上手だね。今日は来てくれてありがとう。何かわからないことがあれば遠慮なく聞いてくれ。よろしく頼むよ」
「はい、よろしくお願いいたします」
ジェルは丁寧にお辞儀をした後、与えられた制服に着替え始めた。よかった、問題なさそうだ。
ちなみに今は午後2時で、昼のピークも終わってるから、こうしてのんびり会話ができるくらいには暇だ。
俺はひと通り仕事の流れは把握してるし、店長も店の奥に居るからもし何かトラブルがあってもなんとかしてもらえるだろう。
――しかしその目論見は、1本の電話によってあっさり打ち消されてしまったのだった。
プルルルルルル……
急に店の電話が鳴って、店長が出た。
「――えっ、産気づいた? わかりました、すぐ行きます」
店長は電話を切るが否や、制服を慌てて脱いでロッカーから鞄を取り出している。
「アレクサンドル君、ジェルマン君、すまない。子どもが生まれそうなんだ。俺は病院に行くから後を頼む!」
「えっ、マジかよ!」
「すまん。やっておいて欲しいことをメモに書いたから、これを見て仕事してくれ。じゃあ、頼んだ!」
店長は走り書きのようなメモを残して、出て行ってしまった。
後に残ったのは俺と、コンビニの仕事をまったく知らないジェルだけだ。
「あの……ワタクシ達だけで大丈夫でしょうか?」
ジェルは不安そうな表情で縮こまりながら俺を見ている。
彼にとって初めてのバイト経験だから、不安なのは無理も無い。ここは兄として安心させてやらないとな。
「ジェル、しっかりしろ。いつも蜃気楼で接客してるだろ。その調子でやればきっと大丈夫だって!」
「そ、そうですかね。がんばります……!」
俺は制服姿のジェルの背中を、ポンと軽く叩いて励ました。
「よし。ほら、お客さん来たぞ!」
「あっ、はい!」
ジェルは店の入店音にビクッとすると、レジカウンターから出て行って、入ってきたお客さんにぎこちなくお辞儀をした。
「ようこそ、コンビニへ。ワタクシ当店の新入りバイトのジェルマンと申します。以後お見知りおきを……」
――違うぞ、ジェル。ここはコンビニだからそこまで丁寧にしなくていい。
お客さんもびっくりしてるぞ。
「大変申し訳ありません、店長が急に産気づきまして。今はワタクシと兄だけでございますが、誠心誠意接客いたしますのでよろしくお願いいたします!」
違うよ、産気づいたのは店長じゃなくて奥さんの方だから……!
「え、えーっと。新しい店長が産まれるまでしばらくお待ちください!」
新しい店長ってなんだよ!
ダメだ。緊張しすぎて完全にポンコツになってやがる。
――あ、お客さんが対応に困って逃げていった。
正直、誘うんじゃなかったって、ちょっと後悔してる。
本当に大変だったから。
まさかここまでジェルがマイペースだなんて思わなかったんだよ。
「え、コンビニでバイトですか?」
「うん、コンビニの店長やってる知り合いなんだけどさ。急に人が足りなくてシフトに穴が開いて困ってるらしいんだ。それで俺に助けてくれって連絡がきたんだよ」
「へぇ。じゃあ行ってあげればいいんじゃないですか?」
リビングで本を読みながら俺の話を聞いていたジェルは、まったく興味がなさそうに答える。
「それがさぁ、もう一人誰か連れてきてくれって言われて。ジェルも一緒にどうだ?」
「え、ワタクシですか⁉」
ジェルは普段、俺と一緒にアンティークの店『蜃気楼』を経営している。
だから接客経験がある彼を連れていけばなんとかなるだろうと、その時は思っていた。
「うちの店はどうするんですか?」
「1日くらい閉めちゃってもいいだろ? コンビニの方も1日だけでいいらしいから。なぁ、店長さん困ってるんだよ。頼むよジェルちゃ~ん!」
「……しょうがないですねぇ」
こうして俺は、ジェルをコンビニバイトに連れて行くことになったんだ。
店に行くと、店長はホッとした顔で俺達を出迎えた。
「いやぁ、アレクサンドル君! 助かったよ!」
「おう、困った時はお互い様ってやつだ。そういや奥さんは元気にしてるか?」
店長は結婚して2年目で、奥さんのお腹には子どもがいるんだってさ。
だから生まれてくる子どもの為にも頑張らなきゃって、張り切って仕事してるんだ。
「あぁ、臨月で大変そうではあるけど元気にしてるよ。そちらがジェルマン君かい? ……あれ? 弟って聞いてたけど、女の子だった?」
店長にはジェルの容姿が女性に見えたらしい。
ジェルは顔立ちも中性的で骨格も華奢だし、彼が今着てるのはレースの付いた真っ白なブラウスだから、そう思われても仕方無い気はする。
「いえ、ワタクシは男です。よく女性に間違えられるんですよ」
「そうか、すまなかった。アレクサンドル君もそうだけど、日本語上手だね。今日は来てくれてありがとう。何かわからないことがあれば遠慮なく聞いてくれ。よろしく頼むよ」
「はい、よろしくお願いいたします」
ジェルは丁寧にお辞儀をした後、与えられた制服に着替え始めた。よかった、問題なさそうだ。
ちなみに今は午後2時で、昼のピークも終わってるから、こうしてのんびり会話ができるくらいには暇だ。
俺はひと通り仕事の流れは把握してるし、店長も店の奥に居るからもし何かトラブルがあってもなんとかしてもらえるだろう。
――しかしその目論見は、1本の電話によってあっさり打ち消されてしまったのだった。
プルルルルルル……
急に店の電話が鳴って、店長が出た。
「――えっ、産気づいた? わかりました、すぐ行きます」
店長は電話を切るが否や、制服を慌てて脱いでロッカーから鞄を取り出している。
「アレクサンドル君、ジェルマン君、すまない。子どもが生まれそうなんだ。俺は病院に行くから後を頼む!」
「えっ、マジかよ!」
「すまん。やっておいて欲しいことをメモに書いたから、これを見て仕事してくれ。じゃあ、頼んだ!」
店長は走り書きのようなメモを残して、出て行ってしまった。
後に残ったのは俺と、コンビニの仕事をまったく知らないジェルだけだ。
「あの……ワタクシ達だけで大丈夫でしょうか?」
ジェルは不安そうな表情で縮こまりながら俺を見ている。
彼にとって初めてのバイト経験だから、不安なのは無理も無い。ここは兄として安心させてやらないとな。
「ジェル、しっかりしろ。いつも蜃気楼で接客してるだろ。その調子でやればきっと大丈夫だって!」
「そ、そうですかね。がんばります……!」
俺は制服姿のジェルの背中を、ポンと軽く叩いて励ました。
「よし。ほら、お客さん来たぞ!」
「あっ、はい!」
ジェルは店の入店音にビクッとすると、レジカウンターから出て行って、入ってきたお客さんにぎこちなくお辞儀をした。
「ようこそ、コンビニへ。ワタクシ当店の新入りバイトのジェルマンと申します。以後お見知りおきを……」
――違うぞ、ジェル。ここはコンビニだからそこまで丁寧にしなくていい。
お客さんもびっくりしてるぞ。
「大変申し訳ありません、店長が急に産気づきまして。今はワタクシと兄だけでございますが、誠心誠意接客いたしますのでよろしくお願いいたします!」
違うよ、産気づいたのは店長じゃなくて奥さんの方だから……!
「え、えーっと。新しい店長が産まれるまでしばらくお待ちください!」
新しい店長ってなんだよ!
ダメだ。緊張しすぎて完全にポンコツになってやがる。
――あ、お客さんが対応に困って逃げていった。
0
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された悪役令嬢、手切れ金でもらった不毛の領地を【神の恵み(現代農業知識)】で満たしたら、塩対応だった氷の騎士様が離してくれません
夏見ナイ
恋愛
公爵令嬢アリシアは、王太子から婚約破棄された瞬間、歓喜に打ち震えた。これで退屈な悪役令嬢の役目から解放される!
前世が日本の農学徒だった彼女は、慰謝料として誰もが嫌がる不毛の辺境領地を要求し、念願の農業スローライフをスタートさせる。
土壌改良、品種改良、魔法と知識を融合させた革新的な農法で、荒れ地は次々と黄金の穀倉地帯へ。
当初アリシアを厄介者扱いしていた「氷の騎士」カイ辺境伯も、彼女の作る絶品料理に胃袋を掴まれ、不器用ながらも彼女に惹かれていく。
一方、彼女を追放した王都は深刻な食糧危機に陥り……。
これは、捨てられた令嬢が農業チートで幸せを掴む、甘くて美味しい逆転ざまぁ&領地経営ラブストーリー!
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜
KeyBow
ファンタジー
この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。
人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。
運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。
ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。
ゴミ鑑定だと追放された元研究者、神眼と植物知識で異世界最高の商会を立ち上げます
黒崎隼人
ファンタジー
元植物学の研究者、相川慧(あいかわ けい)が転生して得たのは【素材鑑定】スキル。――しかし、その効果は素材の名前しか分からず「ゴミ鑑定」と蔑まれる日々。所属ギルド「紅蓮の牙」では、ギルドマスターの息子・ダリオに無能と罵られ、ついには濡れ衣を着せられて追放されてしまう。
だが、それは全ての始まりだった! 誰にも理解されなかったゴミスキルは、慧の知識と経験によって【神眼鑑定】へと進化! それは、素材に隠された真の効果や、奇跡の組み合わせ(レシピ)すら見抜く超チートスキルだったのだ!
捨てられていたガラクタ素材から伝説級ポーションを錬金し、瞬く間に大金持ちに! 慕ってくれる仲間と大商会を立ち上げ、追放された男が、今、圧倒的な知識と生産力で成り上がる! 一方、慧を追い出した元ギルドは、偽物の薬草のせいで自滅の道をたどり……?
無能と蔑まれた生産職の、痛快無比なざまぁ&成り上がりファンタジー、ここに開幕!
学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します
名無し
ファンタジー
毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
蔑ろにされましたが実は聖女でした ー できない、やめておけ、あなたには無理という言葉は全て覆させていただきます! ー
みーしゃ
ファンタジー
生まれつきMPが1しかないカテリーナは、義母や義妹たちからイジメられ、ないがしろにされた生活を送っていた。しかし、本をきっかけに女神への信仰と勉強を始め、イケメンで優秀な兄の力も借りて、宮廷大学への入学を目指す。
魔法が使えなくても、何かできる事はあるはず。
人生を変え、自分にできることを探すため、カテリーナの挑戦が始まる。
そして、カテリーナの行動により、周囲の認識は彼女を聖女へと変えていくのだった。
物語は、後期ビザンツ帝国時代に似た、魔物や魔法が存在する異世界です。だんだんと逆ハーレムな展開になっていきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる