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season2
111話:イケメン兄弟、コンビニバイトをする
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それは弟のジェルマンをコンビニバイトに誘ったことが始まりだった。
正直、誘うんじゃなかったって、ちょっと後悔してる。
本当に大変だったから。
まさかここまでジェルがマイペースだなんて思わなかったんだよ。
「え、コンビニでバイトですか?」
「うん、コンビニの店長やってる知り合いなんだけどさ。急に人が足りなくてシフトに穴が開いて困ってるらしいんだ。それで俺に助けてくれって連絡がきたんだよ」
「へぇ。じゃあ行ってあげればいいんじゃないですか?」
リビングで本を読みながら俺の話を聞いていたジェルは、まったく興味がなさそうに答える。
「それがさぁ、もう一人誰か連れてきてくれって言われて。ジェルも一緒にどうだ?」
「え、ワタクシですか⁉」
ジェルは普段、俺と一緒にアンティークの店『蜃気楼』を経営している。
だから接客経験がある彼を連れていけばなんとかなるだろうと、その時は思っていた。
「うちの店はどうするんですか?」
「1日くらい閉めちゃってもいいだろ? コンビニの方も1日だけでいいらしいから。なぁ、店長さん困ってるんだよ。頼むよジェルちゃ~ん!」
「……しょうがないですねぇ」
こうして俺は、ジェルをコンビニバイトに連れて行くことになったんだ。
店に行くと、店長はホッとした顔で俺達を出迎えた。
「いやぁ、アレクサンドル君! 助かったよ!」
「おう、困った時はお互い様ってやつだ。そういや奥さんは元気にしてるか?」
店長は結婚して2年目で、奥さんのお腹には子どもがいるんだってさ。
だから生まれてくる子どもの為にも頑張らなきゃって、張り切って仕事してるんだ。
「あぁ、臨月で大変そうではあるけど元気にしてるよ。そちらがジェルマン君かい? ……あれ? 弟って聞いてたけど、女の子だった?」
店長にはジェルの容姿が女性に見えたらしい。
ジェルは顔立ちも中性的で骨格も華奢だし、彼が今着てるのはレースの付いた真っ白なブラウスだから、そう思われても仕方無い気はする。
「いえ、ワタクシは男です。よく女性に間違えられるんですよ」
「そうか、すまなかった。アレクサンドル君もそうだけど、日本語上手だね。今日は来てくれてありがとう。何かわからないことがあれば遠慮なく聞いてくれ。よろしく頼むよ」
「はい、よろしくお願いいたします」
ジェルは丁寧にお辞儀をした後、与えられた制服に着替え始めた。よかった、問題なさそうだ。
ちなみに今は午後2時で、昼のピークも終わってるから、こうしてのんびり会話ができるくらいには暇だ。
俺はひと通り仕事の流れは把握してるし、店長も店の奥に居るからもし何かトラブルがあってもなんとかしてもらえるだろう。
――しかしその目論見は、1本の電話によってあっさり打ち消されてしまったのだった。
プルルルルルル……
急に店の電話が鳴って、店長が出た。
「――えっ、産気づいた? わかりました、すぐ行きます」
店長は電話を切るが否や、制服を慌てて脱いでロッカーから鞄を取り出している。
「アレクサンドル君、ジェルマン君、すまない。子どもが生まれそうなんだ。俺は病院に行くから後を頼む!」
「えっ、マジかよ!」
「すまん。やっておいて欲しいことをメモに書いたから、これを見て仕事してくれ。じゃあ、頼んだ!」
店長は走り書きのようなメモを残して、出て行ってしまった。
後に残ったのは俺と、コンビニの仕事をまったく知らないジェルだけだ。
「あの……ワタクシ達だけで大丈夫でしょうか?」
ジェルは不安そうな表情で縮こまりながら俺を見ている。
彼にとって初めてのバイト経験だから、不安なのは無理も無い。ここは兄として安心させてやらないとな。
「ジェル、しっかりしろ。いつも蜃気楼で接客してるだろ。その調子でやればきっと大丈夫だって!」
「そ、そうですかね。がんばります……!」
俺は制服姿のジェルの背中を、ポンと軽く叩いて励ました。
「よし。ほら、お客さん来たぞ!」
「あっ、はい!」
ジェルは店の入店音にビクッとすると、レジカウンターから出て行って、入ってきたお客さんにぎこちなくお辞儀をした。
「ようこそ、コンビニへ。ワタクシ当店の新入りバイトのジェルマンと申します。以後お見知りおきを……」
――違うぞ、ジェル。ここはコンビニだからそこまで丁寧にしなくていい。
お客さんもびっくりしてるぞ。
「大変申し訳ありません、店長が急に産気づきまして。今はワタクシと兄だけでございますが、誠心誠意接客いたしますのでよろしくお願いいたします!」
違うよ、産気づいたのは店長じゃなくて奥さんの方だから……!
「え、えーっと。新しい店長が産まれるまでしばらくお待ちください!」
新しい店長ってなんだよ!
ダメだ。緊張しすぎて完全にポンコツになってやがる。
――あ、お客さんが対応に困って逃げていった。
正直、誘うんじゃなかったって、ちょっと後悔してる。
本当に大変だったから。
まさかここまでジェルがマイペースだなんて思わなかったんだよ。
「え、コンビニでバイトですか?」
「うん、コンビニの店長やってる知り合いなんだけどさ。急に人が足りなくてシフトに穴が開いて困ってるらしいんだ。それで俺に助けてくれって連絡がきたんだよ」
「へぇ。じゃあ行ってあげればいいんじゃないですか?」
リビングで本を読みながら俺の話を聞いていたジェルは、まったく興味がなさそうに答える。
「それがさぁ、もう一人誰か連れてきてくれって言われて。ジェルも一緒にどうだ?」
「え、ワタクシですか⁉」
ジェルは普段、俺と一緒にアンティークの店『蜃気楼』を経営している。
だから接客経験がある彼を連れていけばなんとかなるだろうと、その時は思っていた。
「うちの店はどうするんですか?」
「1日くらい閉めちゃってもいいだろ? コンビニの方も1日だけでいいらしいから。なぁ、店長さん困ってるんだよ。頼むよジェルちゃ~ん!」
「……しょうがないですねぇ」
こうして俺は、ジェルをコンビニバイトに連れて行くことになったんだ。
店に行くと、店長はホッとした顔で俺達を出迎えた。
「いやぁ、アレクサンドル君! 助かったよ!」
「おう、困った時はお互い様ってやつだ。そういや奥さんは元気にしてるか?」
店長は結婚して2年目で、奥さんのお腹には子どもがいるんだってさ。
だから生まれてくる子どもの為にも頑張らなきゃって、張り切って仕事してるんだ。
「あぁ、臨月で大変そうではあるけど元気にしてるよ。そちらがジェルマン君かい? ……あれ? 弟って聞いてたけど、女の子だった?」
店長にはジェルの容姿が女性に見えたらしい。
ジェルは顔立ちも中性的で骨格も華奢だし、彼が今着てるのはレースの付いた真っ白なブラウスだから、そう思われても仕方無い気はする。
「いえ、ワタクシは男です。よく女性に間違えられるんですよ」
「そうか、すまなかった。アレクサンドル君もそうだけど、日本語上手だね。今日は来てくれてありがとう。何かわからないことがあれば遠慮なく聞いてくれ。よろしく頼むよ」
「はい、よろしくお願いいたします」
ジェルは丁寧にお辞儀をした後、与えられた制服に着替え始めた。よかった、問題なさそうだ。
ちなみに今は午後2時で、昼のピークも終わってるから、こうしてのんびり会話ができるくらいには暇だ。
俺はひと通り仕事の流れは把握してるし、店長も店の奥に居るからもし何かトラブルがあってもなんとかしてもらえるだろう。
――しかしその目論見は、1本の電話によってあっさり打ち消されてしまったのだった。
プルルルルルル……
急に店の電話が鳴って、店長が出た。
「――えっ、産気づいた? わかりました、すぐ行きます」
店長は電話を切るが否や、制服を慌てて脱いでロッカーから鞄を取り出している。
「アレクサンドル君、ジェルマン君、すまない。子どもが生まれそうなんだ。俺は病院に行くから後を頼む!」
「えっ、マジかよ!」
「すまん。やっておいて欲しいことをメモに書いたから、これを見て仕事してくれ。じゃあ、頼んだ!」
店長は走り書きのようなメモを残して、出て行ってしまった。
後に残ったのは俺と、コンビニの仕事をまったく知らないジェルだけだ。
「あの……ワタクシ達だけで大丈夫でしょうか?」
ジェルは不安そうな表情で縮こまりながら俺を見ている。
彼にとって初めてのバイト経験だから、不安なのは無理も無い。ここは兄として安心させてやらないとな。
「ジェル、しっかりしろ。いつも蜃気楼で接客してるだろ。その調子でやればきっと大丈夫だって!」
「そ、そうですかね。がんばります……!」
俺は制服姿のジェルの背中を、ポンと軽く叩いて励ました。
「よし。ほら、お客さん来たぞ!」
「あっ、はい!」
ジェルは店の入店音にビクッとすると、レジカウンターから出て行って、入ってきたお客さんにぎこちなくお辞儀をした。
「ようこそ、コンビニへ。ワタクシ当店の新入りバイトのジェルマンと申します。以後お見知りおきを……」
――違うぞ、ジェル。ここはコンビニだからそこまで丁寧にしなくていい。
お客さんもびっくりしてるぞ。
「大変申し訳ありません、店長が急に産気づきまして。今はワタクシと兄だけでございますが、誠心誠意接客いたしますのでよろしくお願いいたします!」
違うよ、産気づいたのは店長じゃなくて奥さんの方だから……!
「え、えーっと。新しい店長が産まれるまでしばらくお待ちください!」
新しい店長ってなんだよ!
ダメだ。緊張しすぎて完全にポンコツになってやがる。
――あ、お客さんが対応に困って逃げていった。
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