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season3
147話:ボンゴで除霊
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ワタクシは、除菌消臭スプレーを彼に吹きかけました。
「なんでありますか、ジェル氏。もしかして小生の匂いが気になるでありますか?」
――あれ、効かない。ずいぶん前にこれで我が家に群がっていた霊を除霊したことがあったので、今回もいけると思ったのですが……
かくなる上は、本格的に除霊の儀式を行う必要がありそうです。
「しかし、除霊なんてまともにやったこと無いからわからないんですよねぇ。とりあえず魔よけに盛り塩を……」
リビングの四隅に塩を盛り、それだけでは足りない気がしたので冷蔵庫から沖縄産のお高い塩と、京都産の抹茶塩、そしてフランス産のハーブソルトも振りかけて、さらにヒマラヤ土産の岩塩も追加してみました。
これだけ塩があれば、どれかは効くに違いありません。
キリトはソファーに座りながらその光景を不思議そうに眺めています。
まさか自分を排除する為の準備だなんて想像もしていないのでしょう。
「ジェル氏、何か忙しそうでありますが、よかったら小生も手伝うでありますよ?」
「いえ、結構です」
後は魔よけの鏡を置いて、魔よけのお香を焚こうとしたのですが――
「蚊取り線香ではダメですかね……」
手元にある渦巻き型の緑色の線香を見ながら、しばらく検討しましたが、まぁこれもお香には違いないだろうと判断して設置することにしました。
「ジェル氏、2月に蚊なんて出ないですぞ?」
いつの間にかキリトがすぐ隣にいて、こちらを真っ黒なまん丸の目で見ています。
「いいから、座っててください!」
可愛らしく首をかしげるテディベアをソファーに追い立てて、ワタクシは倉庫から切り札を持ってきました。
それは大小ふたつの太鼓が連なった打楽器。
シャーマンが悪霊を追い出す儀式に使用していたボンゴです。
いや、正しくは何か名称があるんでしょうけど、見た目は完全にボンゴとしか言いようがない物でした。
「この悪霊を追い出すボンゴを叩けば、きっとキリトも……」
床に座ったワタクシは、おもむろにボンゴを叩き始めました。
リビングにトンタントンタンという乾いた音が響き始めます。
「あ、ボンゴ結構楽しい」
トンタン、トンタン、トントンタンタン……
――ガチャリ。
「おーい! ジェル、キリト! 帰ったぞ~……何だこの状況⁉」
買い物袋を提げたアレクが、ドアを開けたままこっちを凝視していました。
「えー、これはですね……あれです! あなたが買い物に行っている間にボンゴ大会の開催が急に決まりまして」
「えっ、なにそれお兄ちゃんも出たい」
「フランス代表に選ばれたのはワタクシなので、アレクはダメです」
「すげぇ、世界規模かよ。じゃあ、その鏡は――」
「えぇ、そうです。正しいフォームでボンゴが叩けているかチェックする為の鏡で、決して魔よけとかそういうんじゃないんです」
「でも、なんで蚊取り線香なんか焚いてるんだ?」
「アロマです。ハイクオリティな演奏の為にはの除虫菊の香りで心を落ち着ける必要がありますから」
「……今度アロマポット買ってやるから、これは片付けておこうな」
アレクは蚊取り線香を部屋の隅に移動させようとして、そこで盛り塩に気づきました。
「おい、これは何だ⁉」
――しまった! えーっとえーっと。
「それは、ジェル氏が小生を除霊しようと用意した盛り塩でありますよ」
「ああぁぁぁぁぁ! バレてるぅ!!!!」
「ジェル、オマエ…………除霊とかやる暇あったらボンゴ大会の練習頑張れよ!」
「なんでそこは信じるんですか⁉」
「じゃあ、帰宅したら弟がボンゴ叩いてる状況なんて、他にどう理解すればいいんだよ⁉」
「あぁ、もう!」
仕方なくワタクシは洗いざらい白状することになり、盛り塩は撤去されました。
「ジェル氏。騒いでごめんなさい。小生は、まだまだ観たいアニメがたくさんあるんであります。どうかこの家に置いてほしいのであります」
キリトはつぶらな瞳でこちらを見つめ、両手を合わせてお願いしてきます。
あぁ、可愛い……その姿でお願いは卑怯です。
「はぁ、しょうがないですねぇ。――しかし、どうしてボンゴで除霊できなかったんでしょうか」
「ジェルはオタクの力を甘く見すぎだな。いいか、オタクは推しの供給があるかぎり生き続けるんだよ!!!!」
アレクが勝ち誇ったように宣言してテレビのスイッチを入れると、アニメのお知らせが流れていました。
『魔法少女エクセレントサニー3期も放送決定! 放送は8月だよ! サニーフラッシュ!』
「マジかよ! やったな!」
「いやぁ、小生もこれであと半年は生きられますな!」
「いや死んでるでしょうが!」
こうして、我が家にオタクなテディベアが居候することになったのでした。
「なんでありますか、ジェル氏。もしかして小生の匂いが気になるでありますか?」
――あれ、効かない。ずいぶん前にこれで我が家に群がっていた霊を除霊したことがあったので、今回もいけると思ったのですが……
かくなる上は、本格的に除霊の儀式を行う必要がありそうです。
「しかし、除霊なんてまともにやったこと無いからわからないんですよねぇ。とりあえず魔よけに盛り塩を……」
リビングの四隅に塩を盛り、それだけでは足りない気がしたので冷蔵庫から沖縄産のお高い塩と、京都産の抹茶塩、そしてフランス産のハーブソルトも振りかけて、さらにヒマラヤ土産の岩塩も追加してみました。
これだけ塩があれば、どれかは効くに違いありません。
キリトはソファーに座りながらその光景を不思議そうに眺めています。
まさか自分を排除する為の準備だなんて想像もしていないのでしょう。
「ジェル氏、何か忙しそうでありますが、よかったら小生も手伝うでありますよ?」
「いえ、結構です」
後は魔よけの鏡を置いて、魔よけのお香を焚こうとしたのですが――
「蚊取り線香ではダメですかね……」
手元にある渦巻き型の緑色の線香を見ながら、しばらく検討しましたが、まぁこれもお香には違いないだろうと判断して設置することにしました。
「ジェル氏、2月に蚊なんて出ないですぞ?」
いつの間にかキリトがすぐ隣にいて、こちらを真っ黒なまん丸の目で見ています。
「いいから、座っててください!」
可愛らしく首をかしげるテディベアをソファーに追い立てて、ワタクシは倉庫から切り札を持ってきました。
それは大小ふたつの太鼓が連なった打楽器。
シャーマンが悪霊を追い出す儀式に使用していたボンゴです。
いや、正しくは何か名称があるんでしょうけど、見た目は完全にボンゴとしか言いようがない物でした。
「この悪霊を追い出すボンゴを叩けば、きっとキリトも……」
床に座ったワタクシは、おもむろにボンゴを叩き始めました。
リビングにトンタントンタンという乾いた音が響き始めます。
「あ、ボンゴ結構楽しい」
トンタン、トンタン、トントンタンタン……
――ガチャリ。
「おーい! ジェル、キリト! 帰ったぞ~……何だこの状況⁉」
買い物袋を提げたアレクが、ドアを開けたままこっちを凝視していました。
「えー、これはですね……あれです! あなたが買い物に行っている間にボンゴ大会の開催が急に決まりまして」
「えっ、なにそれお兄ちゃんも出たい」
「フランス代表に選ばれたのはワタクシなので、アレクはダメです」
「すげぇ、世界規模かよ。じゃあ、その鏡は――」
「えぇ、そうです。正しいフォームでボンゴが叩けているかチェックする為の鏡で、決して魔よけとかそういうんじゃないんです」
「でも、なんで蚊取り線香なんか焚いてるんだ?」
「アロマです。ハイクオリティな演奏の為にはの除虫菊の香りで心を落ち着ける必要がありますから」
「……今度アロマポット買ってやるから、これは片付けておこうな」
アレクは蚊取り線香を部屋の隅に移動させようとして、そこで盛り塩に気づきました。
「おい、これは何だ⁉」
――しまった! えーっとえーっと。
「それは、ジェル氏が小生を除霊しようと用意した盛り塩でありますよ」
「ああぁぁぁぁぁ! バレてるぅ!!!!」
「ジェル、オマエ…………除霊とかやる暇あったらボンゴ大会の練習頑張れよ!」
「なんでそこは信じるんですか⁉」
「じゃあ、帰宅したら弟がボンゴ叩いてる状況なんて、他にどう理解すればいいんだよ⁉」
「あぁ、もう!」
仕方なくワタクシは洗いざらい白状することになり、盛り塩は撤去されました。
「ジェル氏。騒いでごめんなさい。小生は、まだまだ観たいアニメがたくさんあるんであります。どうかこの家に置いてほしいのであります」
キリトはつぶらな瞳でこちらを見つめ、両手を合わせてお願いしてきます。
あぁ、可愛い……その姿でお願いは卑怯です。
「はぁ、しょうがないですねぇ。――しかし、どうしてボンゴで除霊できなかったんでしょうか」
「ジェルはオタクの力を甘く見すぎだな。いいか、オタクは推しの供給があるかぎり生き続けるんだよ!!!!」
アレクが勝ち誇ったように宣言してテレビのスイッチを入れると、アニメのお知らせが流れていました。
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「マジかよ! やったな!」
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