それは非売品です!~残念イケメン兄弟と不思議な店~

白井銀歌

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season3

148話:100年ぶりの再会

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 数え切れない量の書物が並ぶ、巨大な書庫。

 ――あぁ、こんなの一生かかっても全部読み終えることなんてできやしない。

 一人の人間が生涯で得られる知識はあまりにも少ない。この世の知識をすべて集めて根源に至るには、時間が足りなさすぎる。

 絶望したワタクシに悪魔はなんと言ったか。
 永遠の命の代償はなんであったか。

「……あぁ、夢でしたか」

 リビングで本を読みながら、ついうとうとしていたようです。

「おい、ジェル。暇だからパン男ロボ一緒に観ようぜ!」

 兄のアレクサンドルは、いつもと変わりない笑顔でアニメのDVDのパッケージをこちらに向けています。

「いえ、ワタクシは結構です」

「ちぇ……」

「アレク氏! 小生しょうせいと観るでありますよ!」

「おう、キリトは初見だろうからお兄ちゃんが解説してやるよ!」

 クリーム色のテディベアが、見た目に似つかわしくない声で参加表明したのでアレクは顔をほころばせました。
 このテディベアは、キリトという名のオタク青年の幽霊が憑依しているのです。
 彼らは趣味が合うらしく、よく二人でアニメ鑑賞会をしているので今日もそうなることでしょう。

「やれやれ……」

 彼らに騒がれると読書ができないので、ワタクシは店に退散しようと腰を上げました。
 するとどういうわけか、突然目の前の空間がぐにゃりと歪みだしたのです。

「転移魔術……? アレク、キリト! 気をつけてください! 誰か来ます!」

 これは何か「人ならざる者の仕業」に違いないと身構えると、目の前の空間から黒いマントにギラギラのビキニパンツ一丁のマッチョのオッサンが現れたではありませんか。

「ヌォォォォ! アレクサンドル、ジェルマン! 愛し子達よ! 会いたかったぞォ~!!!!」

 目の前のパンツ一丁のマッチョはマントをばさりと翻し、大きく両手を広げ、大声で叫びました。

「あなたはフォラス……! なんで来たんですか⁉」

「そなたらが我のところにちっとも挨拶にも来ないからだ。さぁ、100年ぶりに再会のハグをしようではないか!」

「寄るな触るなパンツが感染うつる!」

「ヌォォォ……相変わらずジェルマンは冷たい!」

 抱きしめようとしてきた腕をワタクシが拒否すると、フォラスは嘆きましたが、半裸のマッチョに抱きしめられるなんて、嫌に決まってるじゃありませんか。

「誰かと思えば、フォラスのおっちゃんじゃねぇか! 相変わらずいい体してんな!」

「おうおう、アレクサンドルもすっかりたくましくなりおってからに! よぉ~し、久しぶりに一緒に筋トレでもするか!」

「いいな! どっちが先にギブアップするか競争だ!」

 アニメそっちのけで急に目の前で腕立て伏せを始めた二人を、キリトがソファーから立ち上がって不思議そうに見ていました。

「ジェル氏、あのマッスルな御仁はどなたでありますか?」

「フォラスです。キリトは知らないでしょうけど、あれでも地獄の総裁を務めている悪魔なんですよ」

「総裁。つまり偉い悪魔なんですな。ただの変態マッチョにしか見えないでありますが」

「まぁそうですね。でも知識や悪魔としての力はかなりのものですよ。なにせ、ワタクシとアレクに不老不死を与えてくれた人ですから」

「なんですと⁉」

 ――そう、今から300年以上前にワタクシの目の前に現れた悪魔。それがフォラスでした。

「そして彼はワタクシ達に不老不死を与えただけでなく、筋トレしろだのプロテインを飲めだの世話を焼いてきて……ワタクシはどんなに頑張っても筋肉なんてつかないのに!」

「アレク氏は喜んでそうですな」

「えぇ! アレクはすっかり感化されて、あの下品なギラギラのパンツを愛用するようになって……!」

「そういえば、フォラス殿も同じパンツでありますな」

「ウザいから、最近はこっちからは連絡を取らないようにしてたんですけどねぇ。まさか押しかけて来るとは……」

 目の前のマッチョは、アレクと談笑しながら軽々と腕立て伏せをしています。
 アレクも額に汗は浮かべていますが、ちゃんとそのペースに付いていってるのだからすごい。
 正直、インテリジェンスなワタクシには理解しがたい世界ですけど。

「――ところで、最近の人間界はどんな感じであるかな? 我も見て歩きたいのだが、案内してくれるか」

「おう、いいぜ!」

「ちょっとアレク! 勝手に決めないでください!」

「だって俺達を心配してせっかく来てくれたのに、観光もせずに帰れとか可哀想じゃねぇか」

「この変態マッチョを野に放つというのですか⁉」

「俺達がちゃんと付いて行けば大丈夫だって!」

「ムンッ! よろしく頼むぞッ!」

「はぁ……しょうがないですねぇ」

 面倒くさいことになってしまいました。
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