それは非売品です!~残念イケメン兄弟と不思議な店~

白井銀歌

文字の大きさ
148 / 163
season3

149話:フォラス、神社へ行く

しおりを挟む
 とりあえず連れて行くにしても、今の彼はパンツ一丁なので服を着てもらわないといけません。

「ヌゥ……ジェルマンが着ているのと同じのでいいだろうか? ムンッ!」

 フォラスが気合を入れると、ワタクシと同じ紺色の執事服姿になりました。
 適正サイズが理解できていないのか、パツンパツンで襟は窮屈そうだし、ブラウスのボタンは今にも弾け飛びそうです。

 正直ペアルックになるのは不快ですが、まぁそれでも、パンツ一丁で出歩かれるよりはいいでしょう。

「じゃあ、外の世界を案内して差し上げますよ。どこに行きたいんですか?」

「そうであるな……愛し子達が普段よく行く場所に我も行きたいぞ」

 ワタクシたちが普段よく行く場所――

「シロの神社とかどうだ?」

「そうですねぇ」

 あの神社なら境内けいだいには足湯もあって手ごろな観光スポットと言えなくもないし、悪くないかもしれません。
 神社に悪魔を連れて行くのはどうかと思いますが、まぁ別に宗教戦争が起きるようなことも無いでしょうし、大丈夫でしょう。

 ワタクシ達は、フォラスを連れて友人の氏神のシロが祭られている神社に向かうことにしました。

 フォラスは周囲をキョロキョロしながら歩いています。

「ヌゥッ、あの走る箱は何だ⁉ あんな物は見たこと無いぞ!」

「あれは自動車です」

「なにッ! 我の知る自動車は屋根の無い馬車のような形であったが……ずいぶん変わったのだな」

 おそらくフォラスの知識は100年前で止まっているのでしょう。
 見るものすべてが新鮮に違いありません。

「このカラフルな箱は何だ?」

「自動販売機です。容器に入ったコーヒーやお茶を売っているんですよ」

「なるほど。では箱よ、コーヒー3人分売ってくれ。……おい、聞いているのか?」

 バンバンッ! ベコッ!

 フォラスが呼びかけながら自販機を軽く叩くと、機械がへこみました。

「ちょっと! なにやってるんですか⁉」

「ヌゥ……返事が無い。うっかり殺してしまったかもしれぬな」

「いや、別に中に人が居るわけではありませんから!」

「さらっと怖いこと言ったな、おっちゃん……」

 慌ててへこんだ機械を錬金術で修復して、お金を入れてコーヒーを買って渡しました。

「そういや、フォラスのおっちゃんは神社は初めてか?」

「そうであるな。どんなところか楽しみだ」

 コーヒーを飲みながら朗らかに笑う彼は、ただの人の良さそうなマッチョのオッサンにしか見えません。
 このままおとなしく観光してくれるといいのですが。

「ほら、おっちゃん。あれが神社だぞ。鳥居が見えるだろ」

「ヌゥ……素晴らしいッ! ウォォォォ!!!!」

 フォラスはいきなり叫ぶと、走りだして鳥居に向かって大きく跳躍し、ぶら下がって懸垂けんすいし始めたのです。

「おっちゃん! それは筋トレ器具じゃねぇぞ!」

 懸垂する彼をアレクが引きずりおろして、とりあえず拝殿に向かいました。

「いいですか、ワタクシの言う通りにお参りしてくださいね!」

「ヌゥ……わかった」

「まず、この吊り下げてある大きな鈴を鳴らして……」

 ワタクシが賽銭箱の上に吊り下げてある鈴紐を揺らすとガランガランと大きな音が鳴りました。

「そして、お辞儀を2回した後に2回手を叩く」

 パンッパンッ! と拍手を打ってみせるとフォラスは頷きました。

「なるほど……まずこの鈴を鳴らすのだな」

 ガランガラン! ブチッ! ガシャン!!!!

「何やってるんですか⁉」

 彼が鈴紐を手にすると千切れて鈴が落ちてしまいました。
 すると拝殿の扉が開いて、中には唖然とした顔の氏神のシロが立っています。

「ちょっと何やってるの! ……あれ、ジェルにアレク兄ちゃん?」

「すみません! すぐ直しますので!」

 慌てて錬金術で鈴を元に戻して、シロに事情を説明しました。

「悪魔ねぇ……まぁいいけど」

「ヌオッ! 愛し子達に友達ができておったとは……我はうれしいぞ! お近づきのしるしにこれを授けよう」

 フォラスは大きな缶入りのプロテインをズボンの中から取り出して、シロに差し出しました。
 彼の服の中はどういう仕組みになっているんでしょうか。

「ど、どうも……ちょうど今は境内にスサノオ様の為に奉納された神馬があっちに居るから、見物していくといいよ」

「ムンッ! それは興味深い!」

「あぁちょっと、フォラス! 勝手に行かないでください!」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。 国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。 でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。 これってもしかして【動物スキル?】 笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!

神スキル【絶対育成】で追放令嬢を餌付けしたら国ができた

黒崎隼人
ファンタジー
過労死した植物研究者が転生したのは、貧しい開拓村の少年アランだった。彼に与えられたのは、あらゆる植物を意のままに操る神スキル【絶対育成】だった。 そんな彼の元に、ある日、王都から追放されてきた「悪役令嬢」セラフィーナがやってくる。 「私があなたの知識となり、盾となりましょう。その代わり、この村を豊かにする力を貸してください」 前世の知識とチートスキルを持つ少年と、気高く理知的な元公爵令嬢。 二人が手を取り合った時、飢えた辺境の村は、やがて世界が羨む豊かで平和な楽園へと姿を変えていく。 辺境から始まる、農業革命ファンタジー&国家創成譚が、ここに開幕する。

【鑑定不能】と捨てられた俺、実は《概念創造》スキルで万物創成!辺境で最強領主に成り上がる。

夏見ナイ
ファンタジー
伯爵家の三男リアムは【鑑定不能】スキル故に「無能」と追放され、辺境に捨てられた。だが、彼が覚醒させたのは神すら解析不能なユニークスキル《概念創造》! 認識した「概念」を現実に創造できる規格外の力で、リアムは快適な拠点、豊かな食料、忠実なゴーレムを生み出す。傷ついたエルフの少女ルナを救い、彼女と共に未開の地を開拓。やがて獣人ミリア、元貴族令嬢セレスなど訳ありの仲間が集い、小さな村は驚異的に発展していく。一方、リアムを捨てた王国や実家は衰退し、彼の力を奪おうと画策するが…? 無能と蔑まれた少年が最強スキルで理想郷を築き、自分を陥れた者たちに鉄槌を下す、爽快成り上がりファンタジー!

蔑ろにされましたが実は聖女でした ー できない、やめておけ、あなたには無理という言葉は全て覆させていただきます! ー

みーしゃ
ファンタジー
生まれつきMPが1しかないカテリーナは、義母や義妹たちからイジメられ、ないがしろにされた生活を送っていた。しかし、本をきっかけに女神への信仰と勉強を始め、イケメンで優秀な兄の力も借りて、宮廷大学への入学を目指す。 魔法が使えなくても、何かできる事はあるはず。 人生を変え、自分にできることを探すため、カテリーナの挑戦が始まる。 そして、カテリーナの行動により、周囲の認識は彼女を聖女へと変えていくのだった。 物語は、後期ビザンツ帝国時代に似た、魔物や魔法が存在する異世界です。だんだんと逆ハーレムな展開になっていきます。

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~

こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』 公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル! 書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。 旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください! ===あらすじ=== 異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。 しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。 だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに! 神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、 双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。 トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる! ※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい ※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております ※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜

桐生桜月姫
恋愛
 シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。  だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎  本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎ 〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜 夕方6時に毎日予約更新です。 1話あたり超短いです。 毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。

処理中です...