それは非売品です!~残念イケメン兄弟と不思議な店~

白井銀歌

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season3

162話:冒険の結末

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「いいか、進むのはいいけど、お兄ちゃんの傍から絶対離れるんじゃないぞ?」

「わかりましたって」

 こうしてそのまま先へ進むこと10分。
 幸い罠は無いものの、景色は一向に変わる様子がありません。

 ……ゴロゴロゴロゴロ

「何か音がしねぇか?」

「そういえば、遠くで何か動いているような音がしますね」

 ……ゴロゴロゴロゴロ

「こないだ観たアクション映画の話だけどさ、こういう時って後ろを振り返るとでっかい岩が転がってきてたりするんだよ」

「アレクったら映画の観すぎですよ――あっ!」

 後ろを振り返ると、通路をふさぐような巨大なサイズの岩が転がってくるのが見えるではありませんか。

「走れ!」

「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 ワタクシ達は必死で走りましたが、どんどん岩が近づいてきます。

「もう、むり、ですっ……」

「あきらめんな!」

 息を切らせながらもなんとか走り続けると、急に目の前の空間が広くなってトロッコとレールが見えました。

「あれに乗るぞ!」

 ワタクシ達は手漕ぎトロッコに乗り込みました。
 鉄のレバーを握って上下に動かすと、トロッコはゆっくり前に進み始めます。

「ぐっ、レバーが重い……これは走った方が良いのでは」

「動き出したら軽くなるから、もうちょっと頑張れ!」

 アレクの言う通り、しばらくするとレバーは軽くなり速度も出始めました。
 そのおかげか、だんだん岩が遠ざかっていきます。

「はぁ、よかったです……」

「危なかったなぁ」

 トロッコはゴォォォォと音を立ててスピードを増していき、レバーを動かさなくても勝手に進んでいきます。
 どうやら少し下り坂になっているようです。

「そういえばこれって、どうやって止まるんですかね」

「それならここにブレーキが…………無いっ!」

「えぇぇぇぇぇぇ⁉」

 せっかく助かったと思ったのに、もしかしてこれも罠だったんでしょうか。
 しかしワタクシの思いに反して、うまい具合に傾斜がゆるい上り坂に変化したらしく、トロッコは速度を落としてやがて止まりました。

「罠では無かったみたいですね。そしてここが目的の場所みたいです……はっ、ハクシュンッ!」

「ここだけやたら空気が冷たいな。まるで冬みたいだ」

 周囲は広大な空間で、天井に穴があいていて光が差し込んでいます。
そして目の前には畑があり、規則正しく草が植わっていました。

「これがマッスル草か?」

「そのはずなんですが……」

 どう見ても、スーパーでお馴染みのほうれん草が畑で栽培されているだけにしか見えません。

「おかしいですね……この本によればここにマッスル草が自生しているとあったのですが……」

 リュックから本を取り出して確認していると、洞窟の奥のほうから足音が聞こえてきます。

「おめぇら、こんなところで何やってるっぺ?」

 現れたのは豚に似た感じの獣人です。
 農作業の格好をしてクワを持っていますし、おそらくこの畑の関係者なのでしょう。

「あの……つかぬことをお聞きしますが、これはマッスル草ですか?」

「マッスル草? 昔はそんな言い方してたっぺかなぁ。ただのほうれん草なのに、大げさだっぺなぁ~!」

 のんきに笑う獣人にワタクシは食い下がりました。

「でも、ここに来るまでに危険な罠が仕掛けられていましたよ⁉ 貴重な薬草があるからではないんですか⁉」

「いんや。野菜泥棒が最近多くて、罠をいっぺぇ作ったんだ!」

 そんな理由であんな物騒な罠を設置したというのですか。
 ワタクシはがっくりとうなだれました。

「この本に書いてあることは嘘っぱちだったということですかねぇ」

 未練がましくパラパラとページをめくると、本の間から紙切れが落ちました。
 拾ってみると破れた跡があります。

「……あっ、これはマッスル草のページの破れた部分ですよ!」

「ジェル、なんて書いてあるんだ⁉」

「その草を食べた者は筋力が増加し、背が伸びる。……というのはただの伝説だ。そんな物に頼らず筋トレしろ――えぇっ⁉ なんですかこれ⁉」

「はじめから、そんな都合の良い草は無かったってことだな」

「そんなぁ……」

 ワタクシ達から事情を聞いた獣人は、同情したのかお土産に採れたてのほうれん草をたくさん持たせてくれました。

「たっぷり食べて大きくなるっぺよ!」

「ありがとうございます。うぅ、こんなはずでは……」

 そんなわけで今回は非常に残念な結果となりました。
 家に帰って食べたほうれん草が美味しかったのが、せめてもの慰めです。

 しかし――。

「……まぁ、まだ他にも手段はありますからね! この文献によると魔界に『セガノビール』という幻の飲み物があるそうなんですよ! 今度こそ背を伸ばしましょう!」

「お兄ちゃんはあきらめた方がいいと思うけどなぁ」

 アレクがそうぼやくのも気にせず、ワタクシは今日も文献を漁るのでした。
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