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城の外
15話:キールさんの妹
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案内された城下町は、畑と森に囲まれた小さな集落だ。
青空の下、イノシシに似た姿の獣人がせっせと畑を耕していて、その近くには綺麗な小川が流れている。
たぶん、水はアリステアさんの住む泉から流れてきているのだろう。
小川の近くの柵に囲まれた牧草地では牛が草を食んでいて、麦わら帽子をかぶった緑色のゴブリンが世話をしている。
その素朴な様子は人間の農村の暮らしとなんら変わりなく、とてものどかで温かい光景だだった。
通りを行き交う魔物たちの表情が明るいことからも、ここでの暮らしに皆が満足しているのが伝わってくる。
「ガル様、こんにちは!」
「聖女様だ~! はじめまして!」
私たちを見つけた彼らは皆、陽気に手を振って挨拶してきた。
畑の側を通ると、農作業の手を止めた獣人達が親しげに目を細めて話しかけてくる。
「あっ、ガル様……隣に居るのはもしかして聖女様か!」
「よう来たなぁ、聖女様」
「聖女ってのはもっとおっかないもんだと思ってたよ。アンタ、綺麗で小さくて可愛いなぁ」
「あ、ありがとうございます」
私のことは、予想以上に彼らに好意的に受け入れられているみたいだ。
「いやぁ、それにしても昨日はびっくりしただよ」
「んだんだ、城に行ったやつから“聖女様が俺達と同じようにガツガツ飯食ってた”って聞いたけど本当か?」
「えっ、ガツガツ……?」
――そんな、はしたなかったかな。たしかにお腹はすいてたけども。
ガルに助けを求めるような視線を送ると、彼は隣で笑いをこらえている。
イノシシ顔の獣人達は得意げに話を続けた。
「しかも俺の作った野菜をおいしいおいしいって食ったんだって! いやぁ、うれしいねぇ!」
「あっ、はい、とても美味しかったです」
どうやら昨夜のディナーでの出来事は、もう城下町の住民たちに広まっているらしい。
うれしいような恥ずかしいような、そんな心地だ。
もっと話したそうにしている彼らを残して、私たちは中央のお店を見て回った。
町の中央はお店がいくつか軒を連ねていて、店頭で新鮮な野菜や果物が並べられている。
先ほどの畑で採れた作物をここで売っているのだろう。
その中のひとつに立ち寄ると、背中に白い翼を生やした男性の店員が声をかけてきた。
「いらっしゃいませ。おや、ガル様。今日は視察でございますか?」
「まぁそんなところだ。今日は彼女に町を案内しようと思ってな」
「おお、この方が噂の聖女シエラ様ですか! いやぁ、まさか聖女が魔王軍の味方になってくださるとは心強いですな!」
味方……確かにそういうことになるのよね。
店員が愛想よく私に笑いかけたので、私も笑顔を返した。
「お父さん、私も聖女様とお話がしたい」
店の奥から小さな白い翼を生やした赤い髪の可愛らしい少女がやって来た。
少女は私に向かってささげ物をするように、はにかんだ表情をしながら両手で果物を差し出す。
「聖女様、どうぞ」
「まぁ、ありがとう!」
「今朝、お庭で採れたばかりのオレンジです」
彼女から、ツヤツヤとした手のひらサイズのオレンジを一つ受け取った。爽やかな香りが鼻をくすぐる。
「お店のお手伝いしてるの? えらいわね」
「やったぁ、聖女様に褒められた!」
彼女の屈託の無い笑顔に、自然とこちらの頬もゆるむ。
「あなた、お名前は?」
「ルビィです」
「ルビィちゃんって言うのね。私はシエラよ」
「シエラ様、キール兄ちゃんに会いましたか? キール兄ちゃんはお城で立派なお仕事をしているんです」
キール兄ちゃん……?
「あぁ、ルビィはキールの妹なんだ。ほら、髪の色や翼が同じだし、顔も似てるだろ?」
ガルが彼女の背中に生えた小さな翼を指差した。
そう言われると、顔立ちもなんとなく似ているような気もする。
「キール兄ちゃん、いつもならそろそろお店に来るはずなのに。今日はまだ来ないんです」
「あぁ、キールなら謹慎ちゅ――」
「あぁぁぁぁぁ~! そうね、そういえば、キールさんお仕事が忙しいのよね! だから今日は来ないかもしれないわね!」
私はガルの言葉を遮るように大声を出した。状況を察したガルが慌てて咳払いする。
「いやぁ、そうだなぁ。うん、キールはすごく忙しそうだったぞ」
「そうなんですか」
さすがに、昨夜のお風呂での話はまだ城下町には伝わっていないらしい。
どうやらルビィちゃんはキールさんのことを尊敬しているみたいだし、できればキールさんがお風呂を覗いたなんて話が彼女に伝わらないといいんだけど…………でも城内の噂の回る早さを考えると、街に広まるのも時間の問題かもしれない。
「じゃあ、そろそろ城に戻ろうか」
「あっ、そうね。キールさんに会ったらルビィちゃんのことちゃんと伝えておくから。それじゃ、またね」
私達はうれしそうに手を振るルビィ達に見送られて、城下町を後にした。
皆、良い人たちばっかりだったなぁ。
城やここで暮らしている皆の様子を見ていると、私が今まで書物や人々の噂から見聞きしていた魔物の話とはまるで違っていた。
どうしてそんなに違うんだろうか。魔物って人を襲う恐ろしい存在じゃなかったんだろうか?
疑問は尽きなかったが、私の目には幸せそうに暮らす彼らの姿が真実のように思えた。
青空の下、イノシシに似た姿の獣人がせっせと畑を耕していて、その近くには綺麗な小川が流れている。
たぶん、水はアリステアさんの住む泉から流れてきているのだろう。
小川の近くの柵に囲まれた牧草地では牛が草を食んでいて、麦わら帽子をかぶった緑色のゴブリンが世話をしている。
その素朴な様子は人間の農村の暮らしとなんら変わりなく、とてものどかで温かい光景だだった。
通りを行き交う魔物たちの表情が明るいことからも、ここでの暮らしに皆が満足しているのが伝わってくる。
「ガル様、こんにちは!」
「聖女様だ~! はじめまして!」
私たちを見つけた彼らは皆、陽気に手を振って挨拶してきた。
畑の側を通ると、農作業の手を止めた獣人達が親しげに目を細めて話しかけてくる。
「あっ、ガル様……隣に居るのはもしかして聖女様か!」
「よう来たなぁ、聖女様」
「聖女ってのはもっとおっかないもんだと思ってたよ。アンタ、綺麗で小さくて可愛いなぁ」
「あ、ありがとうございます」
私のことは、予想以上に彼らに好意的に受け入れられているみたいだ。
「いやぁ、それにしても昨日はびっくりしただよ」
「んだんだ、城に行ったやつから“聖女様が俺達と同じようにガツガツ飯食ってた”って聞いたけど本当か?」
「えっ、ガツガツ……?」
――そんな、はしたなかったかな。たしかにお腹はすいてたけども。
ガルに助けを求めるような視線を送ると、彼は隣で笑いをこらえている。
イノシシ顔の獣人達は得意げに話を続けた。
「しかも俺の作った野菜をおいしいおいしいって食ったんだって! いやぁ、うれしいねぇ!」
「あっ、はい、とても美味しかったです」
どうやら昨夜のディナーでの出来事は、もう城下町の住民たちに広まっているらしい。
うれしいような恥ずかしいような、そんな心地だ。
もっと話したそうにしている彼らを残して、私たちは中央のお店を見て回った。
町の中央はお店がいくつか軒を連ねていて、店頭で新鮮な野菜や果物が並べられている。
先ほどの畑で採れた作物をここで売っているのだろう。
その中のひとつに立ち寄ると、背中に白い翼を生やした男性の店員が声をかけてきた。
「いらっしゃいませ。おや、ガル様。今日は視察でございますか?」
「まぁそんなところだ。今日は彼女に町を案内しようと思ってな」
「おお、この方が噂の聖女シエラ様ですか! いやぁ、まさか聖女が魔王軍の味方になってくださるとは心強いですな!」
味方……確かにそういうことになるのよね。
店員が愛想よく私に笑いかけたので、私も笑顔を返した。
「お父さん、私も聖女様とお話がしたい」
店の奥から小さな白い翼を生やした赤い髪の可愛らしい少女がやって来た。
少女は私に向かってささげ物をするように、はにかんだ表情をしながら両手で果物を差し出す。
「聖女様、どうぞ」
「まぁ、ありがとう!」
「今朝、お庭で採れたばかりのオレンジです」
彼女から、ツヤツヤとした手のひらサイズのオレンジを一つ受け取った。爽やかな香りが鼻をくすぐる。
「お店のお手伝いしてるの? えらいわね」
「やったぁ、聖女様に褒められた!」
彼女の屈託の無い笑顔に、自然とこちらの頬もゆるむ。
「あなた、お名前は?」
「ルビィです」
「ルビィちゃんって言うのね。私はシエラよ」
「シエラ様、キール兄ちゃんに会いましたか? キール兄ちゃんはお城で立派なお仕事をしているんです」
キール兄ちゃん……?
「あぁ、ルビィはキールの妹なんだ。ほら、髪の色や翼が同じだし、顔も似てるだろ?」
ガルが彼女の背中に生えた小さな翼を指差した。
そう言われると、顔立ちもなんとなく似ているような気もする。
「キール兄ちゃん、いつもならそろそろお店に来るはずなのに。今日はまだ来ないんです」
「あぁ、キールなら謹慎ちゅ――」
「あぁぁぁぁぁ~! そうね、そういえば、キールさんお仕事が忙しいのよね! だから今日は来ないかもしれないわね!」
私はガルの言葉を遮るように大声を出した。状況を察したガルが慌てて咳払いする。
「いやぁ、そうだなぁ。うん、キールはすごく忙しそうだったぞ」
「そうなんですか」
さすがに、昨夜のお風呂での話はまだ城下町には伝わっていないらしい。
どうやらルビィちゃんはキールさんのことを尊敬しているみたいだし、できればキールさんがお風呂を覗いたなんて話が彼女に伝わらないといいんだけど…………でも城内の噂の回る早さを考えると、街に広まるのも時間の問題かもしれない。
「じゃあ、そろそろ城に戻ろうか」
「あっ、そうね。キールさんに会ったらルビィちゃんのことちゃんと伝えておくから。それじゃ、またね」
私達はうれしそうに手を振るルビィ達に見送られて、城下町を後にした。
皆、良い人たちばっかりだったなぁ。
城やここで暮らしている皆の様子を見ていると、私が今まで書物や人々の噂から見聞きしていた魔物の話とはまるで違っていた。
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