【完結】婚約破棄されたので美形の魔王を脅して幸せに暮らします!

白井銀歌

文字の大きさ
15 / 28
城の外

15話:キールさんの妹

しおりを挟む
 案内された城下町は、畑と森に囲まれた小さな集落だ。
 青空の下、イノシシに似た姿の獣人がせっせと畑を耕していて、その近くには綺麗な小川が流れている。
 たぶん、水はアリステアさんの住む泉から流れてきているのだろう。

 小川の近くの柵に囲まれた牧草地では牛が草を食んでいて、麦わら帽子をかぶった緑色のゴブリンが世話をしている。
 その素朴な様子は人間の農村の暮らしとなんら変わりなく、とてものどかで温かい光景だだった。

 通りを行き交う魔物たちの表情が明るいことからも、ここでの暮らしに皆が満足しているのが伝わってくる。

「ガル様、こんにちは!」

「聖女様だ~! はじめまして!」

 私たちを見つけた彼らは皆、陽気に手を振って挨拶してきた。

 畑の側を通ると、農作業の手を止めた獣人達が親しげに目を細めて話しかけてくる。

「あっ、ガル様……隣に居るのはもしかして聖女様か!」

「よう来たなぁ、聖女様」

「聖女ってのはもっとおっかないもんだと思ってたよ。アンタ、綺麗で小さくて可愛いなぁ」

「あ、ありがとうございます」

 私のことは、予想以上に彼らに好意的に受け入れられているみたいだ。

「いやぁ、それにしても昨日はびっくりしただよ」

「んだんだ、城に行ったやつから“聖女様が俺達と同じようにガツガツ飯食ってた”って聞いたけど本当か?」

「えっ、ガツガツ……?」

 ――そんな、はしたなかったかな。たしかにお腹はすいてたけども。

 ガルに助けを求めるような視線を送ると、彼は隣で笑いをこらえている。
 イノシシ顔の獣人達は得意げに話を続けた。

「しかも俺の作った野菜をおいしいおいしいって食ったんだって! いやぁ、うれしいねぇ!」

「あっ、はい、とても美味しかったです」

 どうやら昨夜のディナーでの出来事は、もう城下町の住民たちに広まっているらしい。
 うれしいような恥ずかしいような、そんな心地だ。

 もっと話したそうにしている彼らを残して、私たちは中央のお店を見て回った。
 町の中央はお店がいくつか軒を連ねていて、店頭で新鮮な野菜や果物が並べられている。
 
 先ほどの畑で採れた作物をここで売っているのだろう。
 その中のひとつに立ち寄ると、背中に白い翼を生やした男性の店員が声をかけてきた。

「いらっしゃいませ。おや、ガル様。今日は視察でございますか?」

「まぁそんなところだ。今日は彼女に町を案内しようと思ってな」

「おお、この方が噂の聖女シエラ様ですか! いやぁ、まさか聖女が魔王軍の味方になってくださるとは心強いですな!」

 味方……確かにそういうことになるのよね。

 店員が愛想よく私に笑いかけたので、私も笑顔を返した。

「お父さん、私も聖女様とお話がしたい」

 店の奥から小さな白い翼を生やした赤い髪の可愛らしい少女がやって来た。
 少女は私に向かってささげ物をするように、はにかんだ表情をしながら両手で果物を差し出す。

「聖女様、どうぞ」

「まぁ、ありがとう!」

「今朝、お庭で採れたばかりのオレンジです」

 彼女から、ツヤツヤとした手のひらサイズのオレンジを一つ受け取った。爽やかな香りが鼻をくすぐる。

「お店のお手伝いしてるの? えらいわね」

「やったぁ、聖女様に褒められた!」

 彼女の屈託の無い笑顔に、自然とこちらの頬もゆるむ。

「あなた、お名前は?」

「ルビィです」

「ルビィちゃんって言うのね。私はシエラよ」

「シエラ様、キール兄ちゃんに会いましたか? キール兄ちゃんはお城で立派なお仕事をしているんです」

 キール兄ちゃん……?

「あぁ、ルビィはキールの妹なんだ。ほら、髪の色や翼が同じだし、顔も似てるだろ?」

 ガルが彼女の背中に生えた小さな翼を指差した。
 そう言われると、顔立ちもなんとなく似ているような気もする。

「キール兄ちゃん、いつもならそろそろお店に来るはずなのに。今日はまだ来ないんです」

「あぁ、キールなら謹慎ちゅ――」

「あぁぁぁぁぁ~! そうね、そういえば、キールさんお仕事が忙しいのよね! だから今日は来ないかもしれないわね!」

 私はガルの言葉を遮るように大声を出した。状況を察したガルが慌てて咳払いする。

「いやぁ、そうだなぁ。うん、キールはすごく忙しそうだったぞ」

「そうなんですか」

 さすがに、昨夜のお風呂での話はまだ城下町には伝わっていないらしい。

 どうやらルビィちゃんはキールさんのことを尊敬しているみたいだし、できればキールさんがお風呂を覗いたなんて話が彼女に伝わらないといいんだけど…………でも城内の噂の回る早さを考えると、街に広まるのも時間の問題かもしれない。

「じゃあ、そろそろ城に戻ろうか」

「あっ、そうね。キールさんに会ったらルビィちゃんのことちゃんと伝えておくから。それじゃ、またね」

 私達はうれしそうに手を振るルビィ達に見送られて、城下町を後にした。

 皆、良い人たちばっかりだったなぁ。
 城やここで暮らしている皆の様子を見ていると、私が今まで書物や人々の噂から見聞きしていた魔物の話とはまるで違っていた。

 どうしてそんなに違うんだろうか。魔物って人を襲う恐ろしい存在じゃなかったんだろうか?
 疑問は尽きなかったが、私の目には幸せそうに暮らす彼らの姿が真実のように思えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

偽りの呪いで追放された聖女です。辺境で薬屋を開いたら、国一番の不運な王子様に拾われ「幸運の女神」と溺愛されています

黒崎隼人
ファンタジー
「君に触れると、不幸が起きるんだ」――偽りの呪いをかけられ、聖女の座を追われた少女、ルナ。 彼女は正体を隠し、辺境のミモザ村で薬師として静かな暮らしを始める。 ようやく手に入れた穏やかな日々。 しかし、そんな彼女の前に現れたのは、「王国一の不運王子」リオネスだった。 彼が歩けば嵐が起き、彼が触れば物が壊れる。 そんな王子が、なぜか彼女の薬草店の前で派手に転倒し、大怪我を負ってしまう。 「私の呪いのせいです!」と青ざめるルナに、王子は笑った。 「いつものことだから、君のせいじゃないよ」 これは、自分を不幸だと思い込む元聖女と、天性の不運をものともしない王子の、勘違いから始まる癒やしと幸運の物語。 二人が出会う時、本当の奇跡が目を覚ます。 心温まるスローライフ・ラブファンタジー、ここに開幕。

役立たずと追放された聖女は、第二の人生で薬師として静かに輝く

腐ったバナナ
ファンタジー
「お前は役立たずだ」 ――そう言われ、聖女カリナは宮廷から追放された。 癒やしの力は弱く、誰からも冷遇され続けた日々。 居場所を失った彼女は、静かな田舎の村へ向かう。 しかしそこで出会ったのは、病に苦しむ人々、薬草を必要とする生活、そして彼女をまっすぐ信じてくれる村人たちだった。 小さな治療を重ねるうちに、カリナは“ただの役立たず”ではなく「薬師」としての価値を見いだしていく。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

「地味な婚約者を捨てて令嬢と結婚します」と言った騎士様が、3ヶ月で離婚されて路頭に迷っている

歩人
ファンタジー
薬師のナターリアは婚約者の騎士ルドガーに「地味なお前より伯爵令嬢が ふさわしい」と捨てられた。泣きはしなかった。ただ、明日から届ける薬が 一人分減るな、と思っただけ。 ルドガーは華やかな伯爵令嬢イレーネと結婚し、騎士団で出世する——はずだった。 しかしイレーネの実家は見栄だけの火の車。持参金は消え、借金取りが押し寄せ、 イレーネ本人にも「稼ぎが少ない」と三行半を突きつけられた。 3ヶ月で全てを失ったルドガーが街角で見たのは、王宮薬師に抜擢された ナターリアが、騎士団長と笑い合う姿だった。 「なあ、ナターリア……俺が間違っていた」 「ええ、知ってます。でも、もう関係のない話ですね」

辺境追放された「植物魔導師」の領地開拓 ~枯れ果てた死の大地は、俺の魔力で聖域(楽園)へと変貌する~

リーフレット
ファンタジー
​「植物魔法? ああ、農作業にしか使えないあの地味な魔法か」 ​帝国騎士団の専属魔導師だったアルトは、無能な二世皇太子レオンによって、一方的に追放を言い渡された。 アルトがどれほど魔導植物を駆使し、帝国の食糧難を裏から支えていたかを知らぬまま、彼は「戦闘に役立たない役立たず」という烙印を押されたのだ。 ​帝国を出て行き着いた先は、魔物が跋扈し、草一本生えないと言われる最果ての荒野。 死を待つだけの地。しかし、アルトは絶望するどころか、晴れやかな顔で笑っていた。 ​「やっと、気兼ねなく『植物』を愛でられる。……よし、ここを世界一の庭(楽園)にしよう」

宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです

ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」 宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。 聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。 しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。 冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

処理中です...