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城の外
16話:魔王封印の真相
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城に戻ると、ハッピーが尻尾をブンブン左右に振りながら駆け寄って来た。
「ふたりともどこ行ってたの~! 遊ぼうと思ったのに居ないから、ハッピー探しちゃったよ!」
「ごめんね。ガルにお城の周辺を案内してもらってたの」
ハッピーは私の手の中にあるオレンジが気になるらしく、鼻をクンクンと近づける。
「いい匂いね!」
「町でもらったのよ」
「オレンジ今から食べるの? ハッピーも食べたい! 食べたい!」
フサフサの尻尾を千切れそうなくらい振って私たちにアピールするハッピーを見て、ガルは苦笑した。
「せっかくだから、庭園にテーブルと紅茶も用意して休憩するか?」
「それは素敵ね」
この城にはガゼボ(西洋風あずまや)は無いのだが、ガルの提案で急遽ささやかなアフタヌーンティーの席が設けられることになった。
色とりどりの薔薇が咲く庭園に、力持ちのオーガ達の手によって日よけのパラソルとテーブルや椅子が用意され、メイド服姿の獣人が忙しそうに紅茶を運んで来る。
「急にお仕事増やしちゃって、ごめんなさいね」
私が獣人に声をかけると彼女は柔らかな笑顔を見せた。
「いいんですよ。今日は良いお天気ですもの。オレンジもカットしてすぐお持ちしますね」
青空の下で飲む紅茶は格別だった。
綺麗にカットされた果実を口に入れると、爽やかな酸味と良い香りが広がる。
「オレンジおいしいね!」
ハッピーは椅子に立ち上がって前足をテーブルにかけ、お皿に乗せられた一口サイズの果実に夢中になっていた。
ふさふさの尻尾をパタパタを左右に振って、ご機嫌だ。
「えへへ、おいしかったぁ~……ふぁぁぁぁぁ…………シエ……ら……がりゅしゃま……おやしゅみにゃさぃ……」
食べ終えるとポカポカした陽気に誘われたのか、ハッピーは椅子の上に丸くなって眠り始めた。
気持ち良さそうにクゥクゥ寝息を立てている。
その様子をほほえましく見守っていると、向かいに座っているガルが紅茶を飲みながら、ぽつりとつぶやいた。
「人間が皆、シエラのようだったら、良かったのにな」
「ガル……?」
「シエラは魔物たちのことをどう思う?」
「そうね…………私は魔王や魔物のことを“人間を襲う悪い存在だ”って教えられてたわ。だから排除しないといけないって。でもここで暮らしている皆は優しくて、どう考えても悪い存在だなんて思えない。私が味方だからとかそういうのを抜きにしても良い人たちだと思うの」
私の答えに、彼の琥珀色の瞳が少し安心したような表情を見せる。
「あぁ、俺の統治下にいる魔物は人を襲ったりなんかしていない。シエラに見せた通り、皆穏やかに暮らしているし、人を襲う理由なんて無いからな」
「じゃあどうして、王国はガルや皆のことを悪い存在だ、なんて言うのかしら?」
ガルは眉根を寄せる。どう説明するべきか思案しているようだった。
「それは、魔王や魔物が悪である方が王国にとって都合が良いからだ」
「都合が良い?」
「あぁ。異形である我々を悪とすることで民の政治に対する不満を逸らし、魔物から民を守る為と称して税金を巻き上げている。それが王国の実態だ」
「えっ……」
思わず手にしていたオレンジをお皿に落としてしまった。
ハッピーがその音に反応して長い耳をピコッと動かしたが、またすぐに丸くなって眠り始める。
「実際、俺の統治下ではない魔物は人を襲うこともある。それこそ人間の中にも悪人が居るように、魔物の中にもそういった者はいるからな。でも一部のやつらの悪事を大々的に宣伝して民の恐怖を煽ったのは王国だ」
「でも、それならどうしてガルは黙っていたの?」
「黙ってはいなかったさ。でもな……」
ガルは自分の頭に生える大きな角を指差した。
「異形というだけで人々は俺達を恐れてしまう。もちろん中にはシエラのように歩み寄ってくれる者もいたが、大多数の人間は王国の言葉に乗せられて、俺たちを悪と信じた」
「そんな。酷い……」
「そして王国がそれに乗じてこの森を侵略し、聖女の力で俺を封印した。自分のところの国民には『聖女と王家の力で平和を取り戻した』と都合よく改変して説明したらしいがな」
確かに「二百年前に聖女が邪悪な魔王を封印して平和を取り戻した」という話は国民に広く伝わっているこの国の歴史だ。
だけど実態はただのパフォーマンスでしかなかったなんて。
「俺は封印されたけど、森の中をアリスが霧で覆い隠した。魔王を封印したことで十分な成果を得たとして王国軍は引き上げて行ったから、それ以上は侵略されずに済んだ」
「アリスさんが……」
彼は水の精霊だから、霧も自由に扱えるのかもしれない。
そういえば、私がここに迷い込んだ時もこの城の周囲が深い霧に包まれていたのを思い出した。
「残された部下たちはこの地で俺の封印が解けることを待ちながら、森の奥で静かに暮らしてきたんだ」
「その間、ガルは指輪の中にいたの?」
「それは違う。確かにその指輪に吸い込まれはしたが、そこからどこか別の空間に送って封印しているらしい」
「別の空間……?」
「あぁ。俺も詳しくはわからない。その証拠に封印が解けて俺が外に出た時に指輪はどこにも無かったし、聖女の行方もわからない状態だった……シエラは、その指輪をどこで手に入れたんだ?」
ガルは私の右手に視線を向ける。
「これは母の形見だけど――」
まさかそんな特別な指輪だなんて思わなかった。
母は何も言わなかったけど、このことを知っていたんだろうか?
そもそも、私が聖女だというのもおかしい。
王国が「聖女の再来であるマリアンヌ」と王子を結婚させることにしたから、私は婚約破棄されて王宮から追放されたんだから。
聖女ってそんなに何人も存在するものなのかしら……?
「わからないことだらけね」
「まぁ、今のところ王国はこちらに干渉してこないからいいんだけどさ。俺はただ平穏にこうやってシエラとお茶ができるような日常が欲しいだけだ」
ガルは人懐っこい顔で微笑んで、紅茶を飲み干した。
カチャリとカップがソーサーに触れる音がして、ハッピーが耳をピクッと動かして顔を上げる。
さぁぁぁぁっと爽やかな風が吹き抜けて、私の髪を優しく揺らした。
――そうね。こんな穏やかな暮らしがずっと続けばいいなぁ。
「ふたりともどこ行ってたの~! 遊ぼうと思ったのに居ないから、ハッピー探しちゃったよ!」
「ごめんね。ガルにお城の周辺を案内してもらってたの」
ハッピーは私の手の中にあるオレンジが気になるらしく、鼻をクンクンと近づける。
「いい匂いね!」
「町でもらったのよ」
「オレンジ今から食べるの? ハッピーも食べたい! 食べたい!」
フサフサの尻尾を千切れそうなくらい振って私たちにアピールするハッピーを見て、ガルは苦笑した。
「せっかくだから、庭園にテーブルと紅茶も用意して休憩するか?」
「それは素敵ね」
この城にはガゼボ(西洋風あずまや)は無いのだが、ガルの提案で急遽ささやかなアフタヌーンティーの席が設けられることになった。
色とりどりの薔薇が咲く庭園に、力持ちのオーガ達の手によって日よけのパラソルとテーブルや椅子が用意され、メイド服姿の獣人が忙しそうに紅茶を運んで来る。
「急にお仕事増やしちゃって、ごめんなさいね」
私が獣人に声をかけると彼女は柔らかな笑顔を見せた。
「いいんですよ。今日は良いお天気ですもの。オレンジもカットしてすぐお持ちしますね」
青空の下で飲む紅茶は格別だった。
綺麗にカットされた果実を口に入れると、爽やかな酸味と良い香りが広がる。
「オレンジおいしいね!」
ハッピーは椅子に立ち上がって前足をテーブルにかけ、お皿に乗せられた一口サイズの果実に夢中になっていた。
ふさふさの尻尾をパタパタを左右に振って、ご機嫌だ。
「えへへ、おいしかったぁ~……ふぁぁぁぁぁ…………シエ……ら……がりゅしゃま……おやしゅみにゃさぃ……」
食べ終えるとポカポカした陽気に誘われたのか、ハッピーは椅子の上に丸くなって眠り始めた。
気持ち良さそうにクゥクゥ寝息を立てている。
その様子をほほえましく見守っていると、向かいに座っているガルが紅茶を飲みながら、ぽつりとつぶやいた。
「人間が皆、シエラのようだったら、良かったのにな」
「ガル……?」
「シエラは魔物たちのことをどう思う?」
「そうね…………私は魔王や魔物のことを“人間を襲う悪い存在だ”って教えられてたわ。だから排除しないといけないって。でもここで暮らしている皆は優しくて、どう考えても悪い存在だなんて思えない。私が味方だからとかそういうのを抜きにしても良い人たちだと思うの」
私の答えに、彼の琥珀色の瞳が少し安心したような表情を見せる。
「あぁ、俺の統治下にいる魔物は人を襲ったりなんかしていない。シエラに見せた通り、皆穏やかに暮らしているし、人を襲う理由なんて無いからな」
「じゃあどうして、王国はガルや皆のことを悪い存在だ、なんて言うのかしら?」
ガルは眉根を寄せる。どう説明するべきか思案しているようだった。
「それは、魔王や魔物が悪である方が王国にとって都合が良いからだ」
「都合が良い?」
「あぁ。異形である我々を悪とすることで民の政治に対する不満を逸らし、魔物から民を守る為と称して税金を巻き上げている。それが王国の実態だ」
「えっ……」
思わず手にしていたオレンジをお皿に落としてしまった。
ハッピーがその音に反応して長い耳をピコッと動かしたが、またすぐに丸くなって眠り始める。
「実際、俺の統治下ではない魔物は人を襲うこともある。それこそ人間の中にも悪人が居るように、魔物の中にもそういった者はいるからな。でも一部のやつらの悪事を大々的に宣伝して民の恐怖を煽ったのは王国だ」
「でも、それならどうしてガルは黙っていたの?」
「黙ってはいなかったさ。でもな……」
ガルは自分の頭に生える大きな角を指差した。
「異形というだけで人々は俺達を恐れてしまう。もちろん中にはシエラのように歩み寄ってくれる者もいたが、大多数の人間は王国の言葉に乗せられて、俺たちを悪と信じた」
「そんな。酷い……」
「そして王国がそれに乗じてこの森を侵略し、聖女の力で俺を封印した。自分のところの国民には『聖女と王家の力で平和を取り戻した』と都合よく改変して説明したらしいがな」
確かに「二百年前に聖女が邪悪な魔王を封印して平和を取り戻した」という話は国民に広く伝わっているこの国の歴史だ。
だけど実態はただのパフォーマンスでしかなかったなんて。
「俺は封印されたけど、森の中をアリスが霧で覆い隠した。魔王を封印したことで十分な成果を得たとして王国軍は引き上げて行ったから、それ以上は侵略されずに済んだ」
「アリスさんが……」
彼は水の精霊だから、霧も自由に扱えるのかもしれない。
そういえば、私がここに迷い込んだ時もこの城の周囲が深い霧に包まれていたのを思い出した。
「残された部下たちはこの地で俺の封印が解けることを待ちながら、森の奥で静かに暮らしてきたんだ」
「その間、ガルは指輪の中にいたの?」
「それは違う。確かにその指輪に吸い込まれはしたが、そこからどこか別の空間に送って封印しているらしい」
「別の空間……?」
「あぁ。俺も詳しくはわからない。その証拠に封印が解けて俺が外に出た時に指輪はどこにも無かったし、聖女の行方もわからない状態だった……シエラは、その指輪をどこで手に入れたんだ?」
ガルは私の右手に視線を向ける。
「これは母の形見だけど――」
まさかそんな特別な指輪だなんて思わなかった。
母は何も言わなかったけど、このことを知っていたんだろうか?
そもそも、私が聖女だというのもおかしい。
王国が「聖女の再来であるマリアンヌ」と王子を結婚させることにしたから、私は婚約破棄されて王宮から追放されたんだから。
聖女ってそんなに何人も存在するものなのかしら……?
「わからないことだらけね」
「まぁ、今のところ王国はこちらに干渉してこないからいいんだけどさ。俺はただ平穏にこうやってシエラとお茶ができるような日常が欲しいだけだ」
ガルは人懐っこい顔で微笑んで、紅茶を飲み干した。
カチャリとカップがソーサーに触れる音がして、ハッピーが耳をピクッと動かして顔を上げる。
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――そうね。こんな穏やかな暮らしがずっと続けばいいなぁ。
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