【完結】婚約破棄されたので美形の魔王を脅して幸せに暮らします!

白井銀歌

文字の大きさ
16 / 28
城の外

16話:魔王封印の真相

しおりを挟む
 城に戻ると、ハッピーが尻尾をブンブン左右に振りながら駆け寄って来た。

「ふたりともどこ行ってたの~! 遊ぼうと思ったのに居ないから、ハッピー探しちゃったよ!」

「ごめんね。ガルにお城の周辺を案内してもらってたの」

 ハッピーは私の手の中にあるオレンジが気になるらしく、鼻をクンクンと近づける。

「いい匂いね!」

「町でもらったのよ」

「オレンジ今から食べるの? ハッピーも食べたい! 食べたい!」

 フサフサの尻尾を千切れそうなくらい振って私たちにアピールするハッピーを見て、ガルは苦笑した。

「せっかくだから、庭園にテーブルと紅茶も用意して休憩するか?」

「それは素敵ね」

 この城にはガゼボ(西洋風あずまや)は無いのだが、ガルの提案で急遽ささやかなアフタヌーンティーの席が設けられることになった。

 色とりどりの薔薇が咲く庭園に、力持ちのオーガ達の手によって日よけのパラソルとテーブルや椅子が用意され、メイド服姿の獣人が忙しそうに紅茶を運んで来る。

「急にお仕事増やしちゃって、ごめんなさいね」

 私が獣人に声をかけると彼女は柔らかな笑顔を見せた。

「いいんですよ。今日は良いお天気ですもの。オレンジもカットしてすぐお持ちしますね」

 青空の下で飲む紅茶は格別だった。
 綺麗にカットされた果実を口に入れると、爽やかな酸味と良い香りが広がる。

「オレンジおいしいね!」

 ハッピーは椅子に立ち上がって前足をテーブルにかけ、お皿に乗せられた一口サイズの果実に夢中になっていた。
 ふさふさの尻尾をパタパタを左右に振って、ご機嫌だ。

「えへへ、おいしかったぁ~……ふぁぁぁぁぁ…………シエ……ら……がりゅしゃま……おやしゅみにゃさぃ……」

 食べ終えるとポカポカした陽気に誘われたのか、ハッピーは椅子の上に丸くなって眠り始めた。
 気持ち良さそうにクゥクゥ寝息を立てている。

 その様子をほほえましく見守っていると、向かいに座っているガルが紅茶を飲みながら、ぽつりとつぶやいた。

「人間が皆、シエラのようだったら、良かったのにな」

「ガル……?」

「シエラは魔物たちのことをどう思う?」

「そうね…………私は魔王や魔物のことを“人間を襲う悪い存在だ”って教えられてたわ。だから排除しないといけないって。でもここで暮らしている皆は優しくて、どう考えても悪い存在だなんて思えない。私が味方だからとかそういうのを抜きにしても良い人たちだと思うの」

 私の答えに、彼の琥珀色の瞳が少し安心したような表情を見せる。

「あぁ、俺の統治下にいる魔物は人を襲ったりなんかしていない。シエラに見せた通り、皆穏やかに暮らしているし、人を襲う理由なんて無いからな」

「じゃあどうして、王国はガルや皆のことを悪い存在だ、なんて言うのかしら?」

 ガルは眉根を寄せる。どう説明するべきか思案しているようだった。

「それは、魔王や魔物が悪である方が王国にとって都合が良いからだ」

「都合が良い?」

「あぁ。異形である我々を悪とすることで民の政治に対する不満を逸らし、魔物から民を守る為と称して税金を巻き上げている。それが王国の実態だ」

「えっ……」

 思わず手にしていたオレンジをお皿に落としてしまった。
 ハッピーがその音に反応して長い耳をピコッと動かしたが、またすぐに丸くなって眠り始める。

「実際、俺の統治下ではない魔物は人を襲うこともある。それこそ人間の中にも悪人が居るように、魔物の中にもそういった者はいるからな。でも一部のやつらの悪事を大々的に宣伝して民の恐怖を煽ったのは王国だ」

「でも、それならどうしてガルは黙っていたの?」

「黙ってはいなかったさ。でもな……」

 ガルは自分の頭に生える大きな角を指差した。

「異形というだけで人々は俺達を恐れてしまう。もちろん中にはシエラのように歩み寄ってくれる者もいたが、大多数の人間は王国の言葉に乗せられて、俺たちを悪と信じた」

「そんな。酷い……」

「そして王国がそれに乗じてこの森を侵略し、聖女の力で俺を封印した。自分のところの国民には『聖女と王家の力で平和を取り戻した』と都合よく改変して説明したらしいがな」

 確かに「二百年前に聖女が邪悪な魔王を封印して平和を取り戻した」という話は国民に広く伝わっているこの国の歴史だ。
 だけど実態はただのパフォーマンスでしかなかったなんて。

「俺は封印されたけど、森の中をアリスが霧で覆い隠した。魔王を封印したことで十分な成果を得たとして王国軍は引き上げて行ったから、それ以上は侵略されずに済んだ」

「アリスさんが……」

 彼は水の精霊だから、霧も自由に扱えるのかもしれない。
 そういえば、私がここに迷い込んだ時もこの城の周囲が深い霧に包まれていたのを思い出した。

「残された部下たちはこの地で俺の封印が解けることを待ちながら、森の奥で静かに暮らしてきたんだ」

「その間、ガルは指輪の中にいたの?」

「それは違う。確かにその指輪に吸い込まれはしたが、そこからどこか別の空間に送って封印しているらしい」

「別の空間……?」

「あぁ。俺も詳しくはわからない。その証拠に封印が解けて俺が外に出た時に指輪はどこにも無かったし、聖女の行方もわからない状態だった……シエラは、その指輪をどこで手に入れたんだ?」

 ガルは私の右手に視線を向ける。

「これは母の形見だけど――」

 まさかそんな特別な指輪だなんて思わなかった。
 母は何も言わなかったけど、このことを知っていたんだろうか?
 
 そもそも、私が聖女だというのもおかしい。
 王国が「聖女の再来であるマリアンヌ」と王子を結婚させることにしたから、私は婚約破棄されて王宮から追放されたんだから。

 聖女ってそんなに何人も存在するものなのかしら……?

「わからないことだらけね」

「まぁ、今のところ王国はこちらに干渉してこないからいいんだけどさ。俺はただ平穏にこうやってシエラとお茶ができるような日常が欲しいだけだ」

 ガルは人懐っこい顔で微笑んで、紅茶を飲み干した。
 カチャリとカップがソーサーに触れる音がして、ハッピーが耳をピクッと動かして顔を上げる。
 さぁぁぁぁっと爽やかな風が吹き抜けて、私の髪を優しく揺らした。

 ――そうね。こんな穏やかな暮らしがずっと続けばいいなぁ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

「地味な婚約者を捨てて令嬢と結婚します」と言った騎士様が、3ヶ月で離婚されて路頭に迷っている

歩人
ファンタジー
薬師のナターリアは婚約者の騎士ルドガーに「地味なお前より伯爵令嬢が ふさわしい」と捨てられた。泣きはしなかった。ただ、明日から届ける薬が 一人分減るな、と思っただけ。 ルドガーは華やかな伯爵令嬢イレーネと結婚し、騎士団で出世する——はずだった。 しかしイレーネの実家は見栄だけの火の車。持参金は消え、借金取りが押し寄せ、 イレーネ本人にも「稼ぎが少ない」と三行半を突きつけられた。 3ヶ月で全てを失ったルドガーが街角で見たのは、王宮薬師に抜擢された ナターリアが、騎士団長と笑い合う姿だった。 「なあ、ナターリア……俺が間違っていた」 「ええ、知ってます。でも、もう関係のない話ですね」

偽りの呪いで追放された聖女です。辺境で薬屋を開いたら、国一番の不運な王子様に拾われ「幸運の女神」と溺愛されています

黒崎隼人
ファンタジー
「君に触れると、不幸が起きるんだ」――偽りの呪いをかけられ、聖女の座を追われた少女、ルナ。 彼女は正体を隠し、辺境のミモザ村で薬師として静かな暮らしを始める。 ようやく手に入れた穏やかな日々。 しかし、そんな彼女の前に現れたのは、「王国一の不運王子」リオネスだった。 彼が歩けば嵐が起き、彼が触れば物が壊れる。 そんな王子が、なぜか彼女の薬草店の前で派手に転倒し、大怪我を負ってしまう。 「私の呪いのせいです!」と青ざめるルナに、王子は笑った。 「いつものことだから、君のせいじゃないよ」 これは、自分を不幸だと思い込む元聖女と、天性の不運をものともしない王子の、勘違いから始まる癒やしと幸運の物語。 二人が出会う時、本当の奇跡が目を覚ます。 心温まるスローライフ・ラブファンタジー、ここに開幕。

辺境追放された「植物魔導師」の領地開拓 ~枯れ果てた死の大地は、俺の魔力で聖域(楽園)へと変貌する~

リーフレット
ファンタジー
​「植物魔法? ああ、農作業にしか使えないあの地味な魔法か」 ​帝国騎士団の専属魔導師だったアルトは、無能な二世皇太子レオンによって、一方的に追放を言い渡された。 アルトがどれほど魔導植物を駆使し、帝国の食糧難を裏から支えていたかを知らぬまま、彼は「戦闘に役立たない役立たず」という烙印を押されたのだ。 ​帝国を出て行き着いた先は、魔物が跋扈し、草一本生えないと言われる最果ての荒野。 死を待つだけの地。しかし、アルトは絶望するどころか、晴れやかな顔で笑っていた。 ​「やっと、気兼ねなく『植物』を愛でられる。……よし、ここを世界一の庭(楽園)にしよう」

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

婚約破棄された「無能」聖女、拾った子犬が伝説の神獣だったので、辺境で極上もふもふライフを満喫します。~捨てた国が滅びそう?知りません~

ソラ
ファンタジー
「エリアナ、貴様との婚約を破棄し、この国から追放する!」 聖女としての魔力を使い果たし、無能と蔑まれた公爵令嬢エリアナ。 妹に婚約者を奪われ、身一つで北の最果て、凍てつく「死の森」へと捨てられる。 寒さに震え死を覚悟した彼女が出会ったのは、雪に埋もれていた一匹の小さなしっぽ。 「……ひとりぼっちなの? 大丈夫、私が温めてあげるわ」 最後の手向けに、残されたわずかな浄化の力を注いだエリアナ。 だが、その子犬の正体は――数千年の眠りから目覚めた、世界を滅ぼす伝説の神獣『フェンリル』だった! ヒロインの淹れるお茶に癒やされ、ヒロインのブラッシングにうっとり。 最強の神獣は、彼女を守るためだけに辺境を「極上の聖域」へと作り替えていく。 一方、本物の聖女(結界維持役)を失った王国では、災厄が次々と降り注ぎ、崩壊の危機を迎えていた。 今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくる王子たち。 けれど、エリアナの膝の上には、甘えん坊の神獣様(執着心MAX)が陣取っていて――。 「聖女の仕事? いえ、今は神獣様とのお昼寝の方が忙しいので」 無自覚チートな聖女と、彼女にだけはデレデレな神獣様による、逆転溺愛スローライフが幕を開ける!

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです

ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」 宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。 聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。 しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。 冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。

処理中です...