17 / 28
王国へ
17話:ガルの変化
しおりを挟む
魔王の城で暮らすようになって二週間が経った。
「シエラ様、手伝わせてしまってすみません」
たくさんの洗濯物を抱えた、猫のような顔をしたメイド服姿の獣人が声をかけてくる。――えっと確か、この人はミーティアさんだったわね。
積極的に会話するように意識したおかげで、城の住民たちの顔と名前は覚えることができた。
「いいのよ。じっと座っているだけなんて性に合わないし。何かしている方が気が楽だから」
私は、洗濯物を干しながらそう答える。
特に何かするように命じられたわけじゃないけど、お客様で居るつもりはなかったので、人手が足りなさそうなところを見つけて雑用を手伝うようにしていた。
「シエラ、遊ぼう」
小さな角の生えた子鬼たちがボールを持って寄ってきた。この子たちは、確か……トトとアルルと……脳内で順番に彼らの名前を思い出していく。うん、全員ちゃんと覚えられてる。
「まだお仕事中だから、後でね……あぁそうだ! あなた達も手伝って。そうすれば早く遊べるから」
えー、と渋る子鬼たちに手伝わせて、洗濯物を干していく。
「すっかりうちの城に馴染んだようだな、シエラ」
「あら、ガル。あなたもお洗濯を手伝ってくれるの?」
「いやいや、俺は通りがかっただけだから! 魔王に洗濯物干させるとか聞いたことねぇし!」
「いいじゃない、一枚くらい手伝いなさいよ」
私達の会話に子鬼たちがクスクスと笑う。
「はい、ガル様! お手伝い!」
子鬼が差し出した洗濯物を、ガルはちょっと困った顔をしながらも受け取る。
「俺やったこと無いんだけど。これ、どうすりゃいいんだ?」
「簡単よ。引っ張ってしわを伸ばして、ここにぶら下げればいいだけだから」
私が洗い立ての服をバサリと広げて、左右を引っ張りながら軽く振ってみせると、彼も同じようにやろうとした。
「なるほど……こうすればいいんだな」
バサバサッ! パンッ……ビリッ!
「あっ」
私と同じように引っ張って広げただけに見えたのに、なぜか服が裂けてしまった。
「えっ、ちょっとガルったら力強すぎでしょ」
完全に予想外の出来事に思わず笑ってしまう。子鬼達もつられて笑っている。
「すまない……」
ガルも恥ずかしそうに眉を下げてへにゃりと笑った。
「きっと縫えば何とかなると思う。ベティさんに針と糸を借りてくるね」
私はガルたちにそう言い残して、ベティさんのところへ行った。
事情を説明すると裁縫道具を持って一緒に来てくれることになったので、再び洗濯物干し場へと戻ると、そこは子ども達の遊び場に変わっていた。
「よーし、次は誰だ?」
「はいはーい! 僕!」
「それっ!」
手を上げた子鬼をガルが両手で抱え上げ、空中で左右に振り回している。
子鬼は振り回される感覚が楽しいのか、うれしそうにキャッキャと声を上げた。
「あらまぁ……ガル様ったら。ずいぶんいい表情をされるようになったわねぇ」
その光景を見て、ベティさんがつぶやく。
私から見ると彼はいつもと変わりないように見えるけど、違うんだろうか。
「以前はもっと魔王らしくあろうと硬い表情なことが多かったけども。シエラちゃんが来てからは、良い意味で肩の力が抜けたように見えるわねぇ。少なくとも、あぁやって子どもと遊んだりすることは無かったわ」
私が来たことで、彼の中で何か変化があったんだろうか。
もし良い方向に変わったのならうれしい。
そして、魔王の城で暮らすようになって三ヶ月が経った。
城の皆の雑用を手伝いながら、たまにガルからお茶のお誘いを受けたり、ハッピーや子鬼たちと遊んだり、穏やかに日々は過ぎていた。
このまま楽しい時間がずっと続けばいいと思っていたのに――。
「火を消せ! 早く! 急げ!」
「あっちに怪我人が居るぞ! 救助してやってくれ!」
ある日の早朝。騒々しい声に目を覚まして、窓の外を見ると普段は瑞々しい緑を見せているはずの森が、なぜか煙と炎に包まれていた。
私は着替える余裕もなく、上着だけ羽織って部屋を飛び出した。何があったのだろう。
広間に行くと、ガルとキールさんの姿があった。
「ガル様、王国軍が森に火を放ちました」
「王国軍が⁉ 皆は無事なのか⁉」
「それが、ちょうど採取に森へ出かけた者たちがいまして……全力で救助にあたっていますが火の勢いが強くて難航しております」
キールさんは状況を把握する為に黒煙の中を飛んだのだろう。普段は真っ白なはずの翼が煤で黒く汚れている。
「俺も現場に向かう、キールは皆の避難と消火を指揮しろ!」
「はっ!」
二人が外に出て行くので、私も慌てて後を追った。
外に出ると、そこには信じられない光景が広がっていた。
「シエラ様、手伝わせてしまってすみません」
たくさんの洗濯物を抱えた、猫のような顔をしたメイド服姿の獣人が声をかけてくる。――えっと確か、この人はミーティアさんだったわね。
積極的に会話するように意識したおかげで、城の住民たちの顔と名前は覚えることができた。
「いいのよ。じっと座っているだけなんて性に合わないし。何かしている方が気が楽だから」
私は、洗濯物を干しながらそう答える。
特に何かするように命じられたわけじゃないけど、お客様で居るつもりはなかったので、人手が足りなさそうなところを見つけて雑用を手伝うようにしていた。
「シエラ、遊ぼう」
小さな角の生えた子鬼たちがボールを持って寄ってきた。この子たちは、確か……トトとアルルと……脳内で順番に彼らの名前を思い出していく。うん、全員ちゃんと覚えられてる。
「まだお仕事中だから、後でね……あぁそうだ! あなた達も手伝って。そうすれば早く遊べるから」
えー、と渋る子鬼たちに手伝わせて、洗濯物を干していく。
「すっかりうちの城に馴染んだようだな、シエラ」
「あら、ガル。あなたもお洗濯を手伝ってくれるの?」
「いやいや、俺は通りがかっただけだから! 魔王に洗濯物干させるとか聞いたことねぇし!」
「いいじゃない、一枚くらい手伝いなさいよ」
私達の会話に子鬼たちがクスクスと笑う。
「はい、ガル様! お手伝い!」
子鬼が差し出した洗濯物を、ガルはちょっと困った顔をしながらも受け取る。
「俺やったこと無いんだけど。これ、どうすりゃいいんだ?」
「簡単よ。引っ張ってしわを伸ばして、ここにぶら下げればいいだけだから」
私が洗い立ての服をバサリと広げて、左右を引っ張りながら軽く振ってみせると、彼も同じようにやろうとした。
「なるほど……こうすればいいんだな」
バサバサッ! パンッ……ビリッ!
「あっ」
私と同じように引っ張って広げただけに見えたのに、なぜか服が裂けてしまった。
「えっ、ちょっとガルったら力強すぎでしょ」
完全に予想外の出来事に思わず笑ってしまう。子鬼達もつられて笑っている。
「すまない……」
ガルも恥ずかしそうに眉を下げてへにゃりと笑った。
「きっと縫えば何とかなると思う。ベティさんに針と糸を借りてくるね」
私はガルたちにそう言い残して、ベティさんのところへ行った。
事情を説明すると裁縫道具を持って一緒に来てくれることになったので、再び洗濯物干し場へと戻ると、そこは子ども達の遊び場に変わっていた。
「よーし、次は誰だ?」
「はいはーい! 僕!」
「それっ!」
手を上げた子鬼をガルが両手で抱え上げ、空中で左右に振り回している。
子鬼は振り回される感覚が楽しいのか、うれしそうにキャッキャと声を上げた。
「あらまぁ……ガル様ったら。ずいぶんいい表情をされるようになったわねぇ」
その光景を見て、ベティさんがつぶやく。
私から見ると彼はいつもと変わりないように見えるけど、違うんだろうか。
「以前はもっと魔王らしくあろうと硬い表情なことが多かったけども。シエラちゃんが来てからは、良い意味で肩の力が抜けたように見えるわねぇ。少なくとも、あぁやって子どもと遊んだりすることは無かったわ」
私が来たことで、彼の中で何か変化があったんだろうか。
もし良い方向に変わったのならうれしい。
そして、魔王の城で暮らすようになって三ヶ月が経った。
城の皆の雑用を手伝いながら、たまにガルからお茶のお誘いを受けたり、ハッピーや子鬼たちと遊んだり、穏やかに日々は過ぎていた。
このまま楽しい時間がずっと続けばいいと思っていたのに――。
「火を消せ! 早く! 急げ!」
「あっちに怪我人が居るぞ! 救助してやってくれ!」
ある日の早朝。騒々しい声に目を覚まして、窓の外を見ると普段は瑞々しい緑を見せているはずの森が、なぜか煙と炎に包まれていた。
私は着替える余裕もなく、上着だけ羽織って部屋を飛び出した。何があったのだろう。
広間に行くと、ガルとキールさんの姿があった。
「ガル様、王国軍が森に火を放ちました」
「王国軍が⁉ 皆は無事なのか⁉」
「それが、ちょうど採取に森へ出かけた者たちがいまして……全力で救助にあたっていますが火の勢いが強くて難航しております」
キールさんは状況を把握する為に黒煙の中を飛んだのだろう。普段は真っ白なはずの翼が煤で黒く汚れている。
「俺も現場に向かう、キールは皆の避難と消火を指揮しろ!」
「はっ!」
二人が外に出て行くので、私も慌てて後を追った。
外に出ると、そこには信じられない光景が広がっていた。
0
あなたにおすすめの小説
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
「地味な婚約者を捨てて令嬢と結婚します」と言った騎士様が、3ヶ月で離婚されて路頭に迷っている
歩人
ファンタジー
薬師のナターリアは婚約者の騎士ルドガーに「地味なお前より伯爵令嬢が
ふさわしい」と捨てられた。泣きはしなかった。ただ、明日から届ける薬が
一人分減るな、と思っただけ。
ルドガーは華やかな伯爵令嬢イレーネと結婚し、騎士団で出世する——はずだった。
しかしイレーネの実家は見栄だけの火の車。持参金は消え、借金取りが押し寄せ、
イレーネ本人にも「稼ぎが少ない」と三行半を突きつけられた。
3ヶ月で全てを失ったルドガーが街角で見たのは、王宮薬師に抜擢された
ナターリアが、騎士団長と笑い合う姿だった。
「なあ、ナターリア……俺が間違っていた」
「ええ、知ってます。でも、もう関係のない話ですね」
偽りの呪いで追放された聖女です。辺境で薬屋を開いたら、国一番の不運な王子様に拾われ「幸運の女神」と溺愛されています
黒崎隼人
ファンタジー
「君に触れると、不幸が起きるんだ」――偽りの呪いをかけられ、聖女の座を追われた少女、ルナ。
彼女は正体を隠し、辺境のミモザ村で薬師として静かな暮らしを始める。
ようやく手に入れた穏やかな日々。
しかし、そんな彼女の前に現れたのは、「王国一の不運王子」リオネスだった。
彼が歩けば嵐が起き、彼が触れば物が壊れる。
そんな王子が、なぜか彼女の薬草店の前で派手に転倒し、大怪我を負ってしまう。
「私の呪いのせいです!」と青ざめるルナに、王子は笑った。
「いつものことだから、君のせいじゃないよ」
これは、自分を不幸だと思い込む元聖女と、天性の不運をものともしない王子の、勘違いから始まる癒やしと幸運の物語。
二人が出会う時、本当の奇跡が目を覚ます。
心温まるスローライフ・ラブファンタジー、ここに開幕。
辺境追放された「植物魔導師」の領地開拓 ~枯れ果てた死の大地は、俺の魔力で聖域(楽園)へと変貌する~
リーフレット
ファンタジー
「植物魔法? ああ、農作業にしか使えないあの地味な魔法か」
帝国騎士団の専属魔導師だったアルトは、無能な二世皇太子レオンによって、一方的に追放を言い渡された。
アルトがどれほど魔導植物を駆使し、帝国の食糧難を裏から支えていたかを知らぬまま、彼は「戦闘に役立たない役立たず」という烙印を押されたのだ。
帝国を出て行き着いた先は、魔物が跋扈し、草一本生えないと言われる最果ての荒野。
死を待つだけの地。しかし、アルトは絶望するどころか、晴れやかな顔で笑っていた。
「やっと、気兼ねなく『植物』を愛でられる。……よし、ここを世界一の庭(楽園)にしよう」
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
婚約破棄された「無能」聖女、拾った子犬が伝説の神獣だったので、辺境で極上もふもふライフを満喫します。~捨てた国が滅びそう?知りません~
ソラ
ファンタジー
「エリアナ、貴様との婚約を破棄し、この国から追放する!」
聖女としての魔力を使い果たし、無能と蔑まれた公爵令嬢エリアナ。
妹に婚約者を奪われ、身一つで北の最果て、凍てつく「死の森」へと捨てられる。
寒さに震え死を覚悟した彼女が出会ったのは、雪に埋もれていた一匹の小さなしっぽ。
「……ひとりぼっちなの? 大丈夫、私が温めてあげるわ」
最後の手向けに、残されたわずかな浄化の力を注いだエリアナ。
だが、その子犬の正体は――数千年の眠りから目覚めた、世界を滅ぼす伝説の神獣『フェンリル』だった!
ヒロインの淹れるお茶に癒やされ、ヒロインのブラッシングにうっとり。
最強の神獣は、彼女を守るためだけに辺境を「極上の聖域」へと作り替えていく。
一方、本物の聖女(結界維持役)を失った王国では、災厄が次々と降り注ぎ、崩壊の危機を迎えていた。
今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくる王子たち。
けれど、エリアナの膝の上には、甘えん坊の神獣様(執着心MAX)が陣取っていて――。
「聖女の仕事? いえ、今は神獣様とのお昼寝の方が忙しいので」
無自覚チートな聖女と、彼女にだけはデレデレな神獣様による、逆転溺愛スローライフが幕を開ける!
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです
ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」
宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。
聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。
しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。
冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる