名犬アレク

白井銀歌

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4.ご主人といっしょのごはん

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俺はご主人と一緒にテレビを観ている。

テレビには人間がごはんを食べている光景が映っていた。

何を食べているのかわからないけど、おいしそうに食べてるなぁ。

ご主人は映っているごはんをうらやましそうに観ている。

俺はさっきごはんを食べた。

おいしい匂いがするカリカリごはんだ。

おなかいっぱいだからな。うらやましくなんかないぞ。

うらやましくないけど。

……人間のごはんはどんな味がするんだろうな。



ご主人がごはんを食べる時は、俺も一緒にテーブルに行く。

ごはんの時間は、おうちの中がおいしそうな匂いでいっぱいだ。

甘い匂いだったり草みたいな匂いだったり、俺のカリカリごはんよりもいろんな匂いがする。

俺はテーブルに前足をかけてハッハッハッって口を開けた。

そうしたらご主人がなんだか楽しそうに笑うから、俺も楽しくなる。

おいしそうな匂いが鼻にいっぱい入ってきて、よだれが口の中にあふれてきた。

俺にもごはん分けてくれないかなぁ。

最初はそう思って、テーブルに上がってご主人のごはんを食べようとしたんだ。

でもすごく叱られて。

俺は食べちゃだめなんだって。

だから今日も俺は見てるだけ。つまんない。



次の日ご主人は、ふかふかの何かを食べていた。

食べたことがないから、実際にふかふかかどうかは知らない。

でもそれを食べるご主人の様子を見ていたら、ふかふかな気がする。

俺はそーっと近づいてフンフンフンって匂いをかいでみる。

すごく甘い匂いだ。美味しそうだなぁ。

ご主人がパクッと食べたら、ポロリとかけらが床に落ちた。

やったぁ! これ俺の!

思わず飛びついて、口に入れようとする。

ご主人は慌ててかけらを拾って「メッ!」って俺を叱る。

んー。ダメなのか。

俺は叱られて少し悲しくなる。

かけらは俺のさわれないところに捨てられてしまった。

くぅぅぅん。食べてみたかったのに残念だ。

しょんぼりした俺を見て、ご主人はテーブルに置いてあった小さな四角い板を手に取った。

俺知ってる。あれはスマホっていう板だ。

たまにご主人はスマホを耳に当ててお話ししたりしている。

今はスマホで何かを見ているみたいだ。

ご主人は「犬用のも近くで売ってるんだなぁ」とか独り言を言っている。

どうしたんだろう。



次の日、珍しくご主人は俺を置いてどこかへ出かけて行った。

くぅぅぅん。

お留守番つまんない。

俺はドアの前でゴロゴロしながらご主人の帰りを待った。

ウトウトしながらしばらく待っていたら、足音が近づいてくる。

ご主人の足音だ。

俺は飛び起きて尻尾を振る。

足音が止まって、ガチャガチャと音がした。

俺知ってる。この音がしたらドアが開くんだ。

ガチャ。キィィィ。

ご主人お帰り! 俺ちゃんと良い子にしてたよ!

俺はご主人の回りをクルクル回って匂いを鼻にいっぱい吸い込む。

お外の匂いや知らない誰かの匂いに混ざって、ご主人の匂いがふわわわわぁって俺を包む。

おや、甘い匂いがするぞ。

ご主人、またふかふかの何かを持ってるな。

俺の鼻はなんだってわかるんだ。



しばらくしてご主人は、袋からふかふかの何かを取り出した。

うん、やっぱり持ってたか。

するとご主人は、もうひとつ袋から何か取り出した。

いつも食べているふかふかの何かよりも少し小さい。

でも形も匂いも、ご主人のふかふかの何かとそっくりだ。

え、なに。こっちは俺にくれるのか?

でもこのふかふかは、俺が食べちゃダメな物じゃないのか?

「犬用のだから食べていいよ」ってご主人が優しい声で言う。

よくわからないけど、これ食べていいやつなのか。

差し出されたふかふかの何かを、フンフンフンって匂いで確かめる。

甘い匂いがする。

俺はご主人と同じ物を食べられるのがうれしくて、思い切って口を開けた。



……なんだこれ。

おいしそうなのは匂いだけだった。

ふかふか?

ふかふかとはちょっと違うな。

口の中がパサパサになるし、ちっともおいしくない。

俺はペッと残りを床に落っことした。

ご主人が「あぁぁぁぁ! これ高かったのに!」と文句を言っている。

なぁ、ご主人はこんなおいしくないごはんを喜んで食べているのか?

カリカリの方がおいしいぞ。

今度は俺のカリカリを分けてやろうか?

本当、人間って変な生き物だなぁ。

すっかり興味をなくした俺はゴロリと床に寝転がった。
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