名犬アレク

白井銀歌

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5.ブルブルアワアワの日

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いつものお散歩から帰ったら、ご主人がおうちに入れてくれなかった。

「アレク、どうしてこんなことしちゃったの」ってぷんすか怒ってる。

だって公園の中をおさんぽしてたら、地面がいつもよりやわらかくて。

それでついつい楽しくなって、ゴロンゴロンしちゃったんだ。

気が付いたら俺の体は泥んこだった。

ご主人は俺に繋がっている紐を木に結ぶ。

そうされると俺、動けない。

ご主人が「待て」と言って一人でおうちに入って行った。

くぅーん、くぅーん。

俺は? 俺はおうちに入れない?

くぅーん、くぅーん。



しばらくして、ご主人がおうちのドアを開けた。

おや? さっきとは違う服になっているな。

ご主人は、お庭から長くて太いロープを持って来た。

俺知ってる。あれは水がジャバジャバ出てくる不思議なロープだ。

ご主人が俺に水を勢いよくぶっかける。

キャン! つめたい!

びっくりして逃げようとしたけど、紐がピーンってして邪魔をする。

俺、動けない。

ジャバジャバ水をかけられる。

くそ、ビショビショだ。

俺はブルブル体を振って水をはじく。

いっぱいブルブルゆらして体についた水を追い出した。



ブルブルした俺を見て、ご主人は木に結んだ紐を外す。

そして、ドアを開けて俺をおうちに入れてくれた。

やったぁ、おうちだ。

俺、おやつ食べたい。

喜んで部屋の中に入ろうとすると「ダメ!」って紐を引っ張られた。

どうしたご主人。お散歩はもう終わりだぞ?

ドアの向こうから水の匂いがする。

……もしかして、俺をお風呂に入れるつもりか!

俺お風呂入るの嫌い。

また俺をビショビショにしてアワアワにするつもりだろ。

わんわん! わんわん!

逃げようとしたらドアがバタンって閉まった。

キュゥゥゥン! キュゥゥゥン!

ご主人は、嫌だって言ってる俺を抱きかかえた。

ふわりと大好きなご主人の匂いがする。

でもお風呂は嫌だ。

ウォ~ン、ウォ~ン。


ジャアァァァァァってぬるい水が俺の体に当たる。

俺、知ってる。シャワーってやつだ。

また俺の体はビショビショになってしまった。

シャワーがおとなしくなると、ご主人はアワアワの素を俺に塗る。

俺の体からお花に似た匂いがする。

ちょっといい匂い。

ご主人の手が俺の体に触れた。

力いっぱい毛がかき混ぜられて、ゴシゴシ洗われる。

ゴシゴシゴシゴシ。ゴシゴシゴシゴシ……

あっという間に俺の体はモコモコのアワアワでいっぱいだ。

ご主人は少し疲れたのか、フーっと息を吐いた。

俺、アワアワが体にくっついてるのは嫌だ。

ブルブルブルブル!

俺がブルブルしたらご主人が「ギャッ!」と叫んだ。

ブルブルブルブル!

もっとブルブルしたら「こら、アレク!」って叱られた。

ブルブルしちゃダメなのか。

でも俺、アワアワ嫌だ。

ご主人だって、体に何かくっついてたらブルブルしたくないか?

俺はくぅーんと鳴いて、ご主人を見つめる。

ご主人には、俺が飛ばしたアワアワがいっぱいくっついていた。



シャワーが再びジャアァァァァァって音をさせた。

体にぬるい水が当たって、アワアワが流れ落ちていく。

ご主人の手が俺の毛を撫でる。

俺はうれしくなってご主人に飛びついた。

その時、ご主人の手からシャワーが離れて落っこちた。

ゴトン! ジャアァァァァァ!

シャワーはぬるい水を出しながら自由に暴れはじめた。

ご主人はびっくりして、シャワーをつかもうとする。

ジャアァァァァァ! ジャアァァァァァ!

でもシャワーは、ぬるい水を勢いよく出しながら逃げるように踊っている。

遊んでるのか? 俺も遊びたい!

俺はビショビショになったご主人に勢いよく飛びつく。

「ギャアァァァァ!」とお風呂場に叫び声がひびいた。



やっとシャワーがおとなしくなった。

ははは、ご主人。ビショビショだ。

俺と一緒だな。

どうした、またぷんすか怒ってるな。

こんな時はブルブルすればいいぞ。

ほら、ご主人もブルブルしてみろ。

俺はお手本を見せる為に、勢いよく体をゆらしてブルブルしてやった。
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