記憶球

らい。

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「え?」
彼女の口から言い放たれた言葉は、自分が想像しうる最高で最大の言葉だった。
「何回も言わせないでよ」
照れているのか彼女は体を正面に向き直し、俯いてしまった。そんな姿もまたまた可愛いのだが。
いやまてよ、落ち着け、俺。
この状況と頭の中を整理してみよう。
もしかしてこれは告白と言うやつか、だとしたらあの結衣さんが?俺に?
夢でも見てる気分だ。
試しに頬をつねってみるがちゃんと痛みはある。
「嘘だろ…」
「嘘じゃない」
「本当?」
「本当」
「現実なのこれ」
「当たり前じゃん」
「結衣さんが俺を?」
「だからさっきからずっとそう言ってるってば。いい加減しつこいと取り消すよ?」
それだけはあってはならない。
「どうするの?」
「えっと…じゃあ…よろしく…お願いします…」
「えっと?じゃあ?」
俺の答え方に不満な彼女に詰め寄られ、高揚感と少しの不安を感じた俺はそれをかき消すかのように自信を持って大きな声で彼女に、
「よろしくお願いします!」
「うん、よろしく」
じゃあ行こっか、と言われ俺はエンジンをかけ、車を発進させる。
「あぁ、本当はもっと時間経って言うつもりだったんだけどなぁ」
しばらくして我に返ったのか結衣さんは俺の横で悔しそうにそう独り言を漏らす。
「ごめんね、驚かせちゃって」
「いいや、そんな、実は俺も結衣さんのことずっと前から気になってて…」
「え!?うそ!?」
「まじっす」
「全然気にしていないかと思ってた」
それはこっちのセリフなんだよなぁ。
まさかあの結衣さんが中学の時から俺の事気になっていたなんて、今隣にいるのも信じられないのにもっと信じられなくなってしまいそうで怖い。
「そんなわけないじゃないっすか」
そう答えると何故か彼女は少し不機嫌そうになった。
「慧くん」
「はい、なんですか」
「私たち、付き合ってるんだよね」
「はい、そうです」
「じゃあ、敬語やめよっか」
「あっ、すいません」
「ほら」
「…ごめん」
おいおいなんか小っ恥ずかしいなおい。
「あと私のことも結衣さんじゃなくて結衣でいいから」
「え、でも結衣さん」
「だから」
「俺のことはくんづけするじゃん」
「それは…」
「なに」
「いきなり慧だなんて、恥ずいわ」
「先輩…」
「何よ」
「可愛いっすね」
「うっさいだまれ!こっち見んな!前見ろ!」
「でも今、赤信号だし」
「それ以上見たら殺す」
「はいはい」
俺は今、幸せの絶頂にいるかもしれない。
「私ね、嬉しかったんだよ」
さっきまでの会話が嘘のように、ふと結衣さん…結衣は雰囲気を変えて口を開いた。
「もう慧くんとは会えないと思っていたから、同じ大学にいるってわかった時、本当に嬉しかった」
「そうなんだ、じゃあもしかしてバイトも?」
「うん、友達から聞いてね。もしかしたら、と思って」
「ストーカーみたいやね」
「それ次言ったらどうなるか分かってる?」
まずい、地雷を踏んでしまったみたいだ。
「ごめんて、可愛いなぁ結衣は」
「黙れ」
暗くても顔を赤くしているのがわかる。
「やっぱり訂正する」
「なにを?」
「私のことはさん付けで呼べ」
「えぇ、なんで」
「君が調子にのるから」
「敬語は?」
「それは許可する」
そんなこんなで、彼女に案内され、気づけば彼女の家のアパートの前に着いた。
「じゃあね、今日はありがとう」
「いいえ、こちらこそ」
「おやすみ」
「うん、おやすみ」
そう別れの言葉を交わし、俺は自宅に向けて車を走らせた。
意外と自宅と彼女の家は近い位置にあった。
自宅に着いた俺は、枕に顔を沈め、

「よっっっっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

俺は今日からリア充だ。
相手はあの、昔から好きだった姫野結衣さん。
これ以上の幸せがあるだろうか。
あぁ、早く会いてえ、明日大学で会えるの分かってても早く会いてぇなおい。
結局その日は一睡もすることが出来なかった。

「あー、これまたやったな」
ここまでくると何となく起きた時点で察することが出来る。
いつもより長時間睡眠を取った時の体の感じや、窓から差し込む光の度合い。
時計を見てみると、授業にギリギリ間に合う時間だった。
「よし」
俺はこれから大学に授業を受けに行くのではない、彼女に会いに行くのだ。
しかし、遅れていくのはまずい。
彼女からの評価が下がる。
かと言って、焦ってだらしない見た目で会うのはどうなのだろうか。
俺がとった選択はただ1つ。
どっちもだ。
今の俺ならきちんとした見た目で授業にも間に合うことが出来るはずだ。

俺は有言実行した。
「おはよう」
「うん、おはよう」
まばらに人がいる講義室に入り、彼女の隣に座り挨拶を交わす。
頑張った甲斐があったのか、まだ数分ほど時間に余裕があった。
「昨日寝れた?」
俺の耳元でボソッと彼女は口を開く。
「いいや、全く」
「私も。本当信じられない」
「うん、俺も」
「夢じゃないよね?」
それは俺も聞きたい。
ここで夢オチとか本当に面白くないからな。分かってるよな俺。
「確認してみる?」
「どうやって?」
「こう」
そう言うと彼女は右手を俺の左頬に近付け始めた。
まじかよ、ここでイベント発生かよ。
幸いにも1番後ろの席に座っており、誰からも見られていない。
「ほら、慧くんも」
俺もやっていいのか。
では失礼して。

「講義始めるぞー」

すぐ横にあったドアがガチャっと開き、教授が入ってきた。
最悪だ。
教授の姿を見た瞬間、気まずそうに正面を向く彼女につられて、俺も正面を向いてしまった。
やべぇ、どうしよう。
もはや教授が何を言ってるのか分からなかった。
授業が終わったあとも俺たちは無言で講義室を出た。
そして帰る途中、俺の後ろを歩く彼女は唐突に口を開いた。
「一緒帰ろうよ」
さっきの続き、いやできなかった代わりにの方が正しいか。
もちろん俺は断ることも無く、その日は一緒に帰った。
無論、手は繋いだが。
いつも軽口を叩き合う俺たちだが、その瞬間だけは何も言わなかった。







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