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関係
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「なんで慧くんがいるの?」
「いや、それはこっちのセリフっすよ」
「あ、やっと来た、てかなんだ、君たち知り合いか?」
「まぁ、そうっすね…一応、同じ大学です」
俺と結衣さんと店長の会話は続く。
「それはちょうど良かった」
「何がですか?」
「溝口くん、君今日から姫野さんの指導係ね」
遅刻した分はそれでチャラにする、と店長は続けて言った。
すまんが、もう一度同じ言葉を使わせてもらう。
あぁ、夢じゃなくて良かった。
この際、店長の無責任さについては何も言わないでおく。むしろ感謝しよう。
「は、はい…よろしく…お願いします…」
俺は結衣さんにそう挨拶すると、
「うん、よろしく」
結衣さんは俺に近づいてボソッと笑顔でそう言った。
再度言わせていただく。
めっちゃ可愛いなおい。
その後はあっという間だった。
結衣さんと付きっきりでオーダーのとり方から料理やお酒の作り方まで、ありとあらゆることを教えた。
いつもは長く辛い仕事も、この日ばかりはすぐ時間が過ぎたように感じた。
あと酔った客が結衣さんに絡むのは、すごくだるかった。
そして日付が変わる頃、俺と結衣さんは店長に挨拶をし、一緒に業務を終えた。
「疲れたねー、覚えることたくさんで大変だよ」
店の裏でエプロンなどを片付けながら、結衣さんは口を開く。
「いや、でも結衣さんすごく要領いいっすよ」
「まじ?」
「はい、まじです。多分あと3ヶ月もすれば俺よりも働けるようになってると思います」
これは決して彼女をおだてている訳ではなく本音を言っていることを勘違いしないで欲しい。
「それは言い過ぎでしょ」
微笑みながらそう言う結衣さん。
「いや、ほんとに…」
その時だった。
『ドゴーン』
店の外でけたたましい雷の音ともに大量の雨が降っている音がした。
「え、嘘でしょ、雨?」
「そう、みたいですね」
俺は店の裏口のドアを開けて外を確認してみた。
「こりゃやべぇな」
とてもでは無いが、少なくともこの雨の中外出しようとする人は居ないだろう。
「今日雨の予報あったっけ?」
ドアを閉め再び室内へと戻った俺に結衣さんはそう問いかける。
「無かったと思います」
多分。
「えーどうしよ、私電車なんだけど」
「そうなんすか」
「終電間に合うかな」
そう言って携帯を確認する結衣さん。
「待って、電車動いてないじゃん」
「親御さんに頼めないんすか?」
「いやーどうだろ、私一人暮らしだし、もう寝ちゃってと思うから申し訳ないな」
待てよ、俺今めっちゃダサいこと聞いたんじゃね?
このまたとない偶然がもたらした状況、男を見せるチャンスなのでは?
ここで勇気を振り絞らずしていつ振り絞るんだ。俺よ。
「じゃあ…俺、送りますよ」
車の免許持ってて良かった。
「え!?いいの!?」
想像よりも嬉しそうで、逆にこっちがビビってしまう。
気のせいかもしれないが、まるでこの言葉を待っているかのようだった。
「はい、俺車で来たんで」
「いやー申し訳ないよ」
「じゃあどうやって帰るんすか、傘も持ってないのに」
「走る」
「何言ってんすか」
急にIQが下がるのもこれまた愛おしいのである。
「いいからここで待っといてください、車持って来ますから」
「うん、ありがと」
彼女の笑顔を背に俺は店の傘を借りて外へと出る。
風で傘が飛ばされそうだ。
車までは歩いて五分ほど、傘はほぼ意味をなさなかった。
車を店の裏口の前に止めて、店に傘を返し、結衣さんを呼んだ。
はーい、と言って小走りで駆け寄ってくる彼女。
なんだか小動物みたいだった。
俺は助手席のドアを開け、先に彼女を座らせ、俺は少し濡れながら運転席へと座った。
我ながらいいエスコートだ。
「めっちゃ濡れてるやん、大丈夫?」
風邪ひかないでよ、と心配する彼女。
「全然、このくらいなんともないっすよ」
正直、結構寒かったが心配をかけたくないので俺はそう答えた。
「ごめんね」
「いいや、全然、それでお客さん、どちらまで」
「とりあえず駅の方までお願い、その後はまた案内するから」
「了解しました」
「お願いします」
俺と彼女のドライブがスタートした。
「ねぇさ、そういえばなんで今日遅刻したの?」
車を走らせてすぐ、彼女はそう口を開いた。
「あぁ…」
どう言うべきだろうか、他の用事が忙しくて、いや夢に結衣さんが出てきて寝すぎたから、なんかちょっとキモイな。なんて答えよう。
「それほんとに?」
まずい、声に出てた。
「前見て、前」
動揺して彼女を見つめすぎてしまった。
「あぁ…すいません」
「いいから、私が夢に出てきたって?」
幸か不幸か、後半のところが声に出てしまっていたらしい。
「はい…」
こうなっては認めざるを得ない。
「どんな夢だったの?」
「バイトで結衣さんの指導係する夢」
「正夢やん」
「まじ奇跡っす」
「えー、そうなんだ、そんなことあるんだ」
なんだかちょっと嬉しそうな彼女に、俺も言ってよかったなと思った。
「てかさ、慧くん今日授業来た?」
あー、これはまずいな、どう誤魔化そう。
これも寝坊なんて言ったらだらしない男として認定されるんじゃないのか。
「流石に寝すぎでしょ」
あーもうまたかよ。
「でも良かった」
「何がですか?」
「いや、何かあったのかなって」
「心配しすぎじゃないっすか」
「それくらいがちょうどいいんだよ」
「そうなんすか」
「うん」
そして5分ほど沈黙が流れたあと、唐突に結衣さんはこう聞いてきた。
「慧くんさ、好きなタイプとかある?」
「え、なんすか急に」
「いいじゃん、答えてよ」
「えー、なんだろ、結衣さんはどうすか?」
「私ー?どんな人が好きだと思う?」
「大人っぽい人とか?」
「私が?ないない」
そう言って彼女は笑いながら頭を振って否定する。
「苦手なんすか?」
「んー、苦手っていうか私自身子供っぽいところがあるからさ」
「たしかに」
「少しは否定しろよな」
「さーせん」
「あんまり合わないんだよね。どっちかって言ったら大人っぽい人よりも私と似たような人がいいな。後輩とか全然カモンって感じ」
「え、結衣さんもしかして好きな人いるんすか」
しまった、あまりよく考えずに踏み込んだ質問してしまった。
「好きな人かー?どう思う?」
「え」
いて欲しくないなー、もしかしたら俺?
なわけないか。
「いないこともないかな」
「それいるってことじゃないすか」
「まぁね」
まじかよ。
「相手は気づいているんすか」
「いやーどうだろ、気づいていて欲しいけどって感じ」
「そうなんすか」
「うん」
「ちょっといいすか」
「なに?」
「結衣さんなんでうちのバイトで働こうと思ったんすか?」
そういえば聞いてなかったな、と我ながら思う。
「そうだなぁ」
「時給すか?」
「いや、違う」
「誰か友達がいるとか」
「いないよ」
「家が近いとか」
「そうだったら、今慧くんの車に乗ってないでしょ」
「たしかに」
じゃあなんだろうか、他に理由があるとすれば、と考えた時、急に雨が止んだ。
「お、止んだね」
「通り雨やったんすかね」
「多分ね」
「どうします?もうすぐ駅着きますけど、電車で帰りますか?」
そう聞くと彼女は少しバツが悪そうに
「いいの?」
「え?」
「私が電車で帰っちゃっていいの?」
いや、全く良くない。何を考えているのだ俺は。
「いや、家まで送ります」
「じゃぁ、お願いします」
そう言われ、駅を通り過ぎ、結衣さんに案内されながら車を運転していると着いたのは家、では無くとある公園だった。
「ここで止めて」
彼女に言われるがまま、俺は公園の入口付近に車を停めた。
「え、ここって」
この公園は母校の中学校から1番近く、昔から馴染みのある場所だった。
なんでここに、と聞こうとした瞬間彼女は体をこちらに向け、俺の目を真っ直ぐ見てこう言った。
「慧くん、伝えたいことがあります」
「いや、それはこっちのセリフっすよ」
「あ、やっと来た、てかなんだ、君たち知り合いか?」
「まぁ、そうっすね…一応、同じ大学です」
俺と結衣さんと店長の会話は続く。
「それはちょうど良かった」
「何がですか?」
「溝口くん、君今日から姫野さんの指導係ね」
遅刻した分はそれでチャラにする、と店長は続けて言った。
すまんが、もう一度同じ言葉を使わせてもらう。
あぁ、夢じゃなくて良かった。
この際、店長の無責任さについては何も言わないでおく。むしろ感謝しよう。
「は、はい…よろしく…お願いします…」
俺は結衣さんにそう挨拶すると、
「うん、よろしく」
結衣さんは俺に近づいてボソッと笑顔でそう言った。
再度言わせていただく。
めっちゃ可愛いなおい。
その後はあっという間だった。
結衣さんと付きっきりでオーダーのとり方から料理やお酒の作り方まで、ありとあらゆることを教えた。
いつもは長く辛い仕事も、この日ばかりはすぐ時間が過ぎたように感じた。
あと酔った客が結衣さんに絡むのは、すごくだるかった。
そして日付が変わる頃、俺と結衣さんは店長に挨拶をし、一緒に業務を終えた。
「疲れたねー、覚えることたくさんで大変だよ」
店の裏でエプロンなどを片付けながら、結衣さんは口を開く。
「いや、でも結衣さんすごく要領いいっすよ」
「まじ?」
「はい、まじです。多分あと3ヶ月もすれば俺よりも働けるようになってると思います」
これは決して彼女をおだてている訳ではなく本音を言っていることを勘違いしないで欲しい。
「それは言い過ぎでしょ」
微笑みながらそう言う結衣さん。
「いや、ほんとに…」
その時だった。
『ドゴーン』
店の外でけたたましい雷の音ともに大量の雨が降っている音がした。
「え、嘘でしょ、雨?」
「そう、みたいですね」
俺は店の裏口のドアを開けて外を確認してみた。
「こりゃやべぇな」
とてもでは無いが、少なくともこの雨の中外出しようとする人は居ないだろう。
「今日雨の予報あったっけ?」
ドアを閉め再び室内へと戻った俺に結衣さんはそう問いかける。
「無かったと思います」
多分。
「えーどうしよ、私電車なんだけど」
「そうなんすか」
「終電間に合うかな」
そう言って携帯を確認する結衣さん。
「待って、電車動いてないじゃん」
「親御さんに頼めないんすか?」
「いやーどうだろ、私一人暮らしだし、もう寝ちゃってと思うから申し訳ないな」
待てよ、俺今めっちゃダサいこと聞いたんじゃね?
このまたとない偶然がもたらした状況、男を見せるチャンスなのでは?
ここで勇気を振り絞らずしていつ振り絞るんだ。俺よ。
「じゃあ…俺、送りますよ」
車の免許持ってて良かった。
「え!?いいの!?」
想像よりも嬉しそうで、逆にこっちがビビってしまう。
気のせいかもしれないが、まるでこの言葉を待っているかのようだった。
「はい、俺車で来たんで」
「いやー申し訳ないよ」
「じゃあどうやって帰るんすか、傘も持ってないのに」
「走る」
「何言ってんすか」
急にIQが下がるのもこれまた愛おしいのである。
「いいからここで待っといてください、車持って来ますから」
「うん、ありがと」
彼女の笑顔を背に俺は店の傘を借りて外へと出る。
風で傘が飛ばされそうだ。
車までは歩いて五分ほど、傘はほぼ意味をなさなかった。
車を店の裏口の前に止めて、店に傘を返し、結衣さんを呼んだ。
はーい、と言って小走りで駆け寄ってくる彼女。
なんだか小動物みたいだった。
俺は助手席のドアを開け、先に彼女を座らせ、俺は少し濡れながら運転席へと座った。
我ながらいいエスコートだ。
「めっちゃ濡れてるやん、大丈夫?」
風邪ひかないでよ、と心配する彼女。
「全然、このくらいなんともないっすよ」
正直、結構寒かったが心配をかけたくないので俺はそう答えた。
「ごめんね」
「いいや、全然、それでお客さん、どちらまで」
「とりあえず駅の方までお願い、その後はまた案内するから」
「了解しました」
「お願いします」
俺と彼女のドライブがスタートした。
「ねぇさ、そういえばなんで今日遅刻したの?」
車を走らせてすぐ、彼女はそう口を開いた。
「あぁ…」
どう言うべきだろうか、他の用事が忙しくて、いや夢に結衣さんが出てきて寝すぎたから、なんかちょっとキモイな。なんて答えよう。
「それほんとに?」
まずい、声に出てた。
「前見て、前」
動揺して彼女を見つめすぎてしまった。
「あぁ…すいません」
「いいから、私が夢に出てきたって?」
幸か不幸か、後半のところが声に出てしまっていたらしい。
「はい…」
こうなっては認めざるを得ない。
「どんな夢だったの?」
「バイトで結衣さんの指導係する夢」
「正夢やん」
「まじ奇跡っす」
「えー、そうなんだ、そんなことあるんだ」
なんだかちょっと嬉しそうな彼女に、俺も言ってよかったなと思った。
「てかさ、慧くん今日授業来た?」
あー、これはまずいな、どう誤魔化そう。
これも寝坊なんて言ったらだらしない男として認定されるんじゃないのか。
「流石に寝すぎでしょ」
あーもうまたかよ。
「でも良かった」
「何がですか?」
「いや、何かあったのかなって」
「心配しすぎじゃないっすか」
「それくらいがちょうどいいんだよ」
「そうなんすか」
「うん」
そして5分ほど沈黙が流れたあと、唐突に結衣さんはこう聞いてきた。
「慧くんさ、好きなタイプとかある?」
「え、なんすか急に」
「いいじゃん、答えてよ」
「えー、なんだろ、結衣さんはどうすか?」
「私ー?どんな人が好きだと思う?」
「大人っぽい人とか?」
「私が?ないない」
そう言って彼女は笑いながら頭を振って否定する。
「苦手なんすか?」
「んー、苦手っていうか私自身子供っぽいところがあるからさ」
「たしかに」
「少しは否定しろよな」
「さーせん」
「あんまり合わないんだよね。どっちかって言ったら大人っぽい人よりも私と似たような人がいいな。後輩とか全然カモンって感じ」
「え、結衣さんもしかして好きな人いるんすか」
しまった、あまりよく考えずに踏み込んだ質問してしまった。
「好きな人かー?どう思う?」
「え」
いて欲しくないなー、もしかしたら俺?
なわけないか。
「いないこともないかな」
「それいるってことじゃないすか」
「まぁね」
まじかよ。
「相手は気づいているんすか」
「いやーどうだろ、気づいていて欲しいけどって感じ」
「そうなんすか」
「うん」
「ちょっといいすか」
「なに?」
「結衣さんなんでうちのバイトで働こうと思ったんすか?」
そういえば聞いてなかったな、と我ながら思う。
「そうだなぁ」
「時給すか?」
「いや、違う」
「誰か友達がいるとか」
「いないよ」
「家が近いとか」
「そうだったら、今慧くんの車に乗ってないでしょ」
「たしかに」
じゃあなんだろうか、他に理由があるとすれば、と考えた時、急に雨が止んだ。
「お、止んだね」
「通り雨やったんすかね」
「多分ね」
「どうします?もうすぐ駅着きますけど、電車で帰りますか?」
そう聞くと彼女は少しバツが悪そうに
「いいの?」
「え?」
「私が電車で帰っちゃっていいの?」
いや、全く良くない。何を考えているのだ俺は。
「いや、家まで送ります」
「じゃぁ、お願いします」
そう言われ、駅を通り過ぎ、結衣さんに案内されながら車を運転していると着いたのは家、では無くとある公園だった。
「ここで止めて」
彼女に言われるがまま、俺は公園の入口付近に車を停めた。
「え、ここって」
この公園は母校の中学校から1番近く、昔から馴染みのある場所だった。
なんでここに、と聞こうとした瞬間彼女は体をこちらに向け、俺の目を真っ直ぐ見てこう言った。
「慧くん、伝えたいことがあります」
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