連れの彼女は高級食材 ~養殖エルフの逆襲~

今井舞馬

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第三章 真相

真相 2 レイ・フリークスの正体

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 そう言ってアインはガハハァと笑う。
 俺は思わず耳を疑った。人間じゃない? 俺が? 比喩か何かだろうか。もしくは、俺のしてきた行いが非人道的であるということを言いたいのか?
 「どういうことだ? まさかそのままの意味だと言うんじゃないだろうな?」
  俺は訝しみながら聞き返す。
 「まさかだぜェ、レイ君。そのままの意味に決まってんだろォ」
  むしろ、俺が何を言っているんだ、といった口調でアインは答える。
 「あははは、そうか、俺は人間じゃないのかぁ、じゃあ俺は一体何だって言うんだ? エルフだとでも言うつもりか? 耳、伸びてねぇーぞー」
  俺はアインを煽るように言う。アインは所詮養殖場で育ったエルフだ。どうやって言語を習得できたのかは知らないが、知能指数は人間の半分、いやそれ以下しかないのだろう。現にアインは目の前にいる俺が人間かそうでないかすらも判別できていない。
  この程度ならば脱出も割と簡単にできるかも知れない。そう考えると、少しだけ楽観することがきる。俺は次第に心に落ち着きを取り戻していった。
 「違えな、エルフでもねぇ。正解はハーフエルフだ。忌まわしき、人間とエルフの息子。禁断の愛ってヤツだなぁ、ガハハハァ」
  アインはそう言って下卑た笑みを浮かべる。的外れなことを言っているとは分かっていても腹は立つ。エルフ如きが俺を笑うな!
 「へぇ、じゃあ証拠はあんのかよ、証拠は! えぇ? オイ」
  俺は高圧的にアインを睨む。下から見上げている形になるが、位置的に仕方がない。
 「お前の話によるとよォ、ロメリはお前の村の戸籍が老人と五歳児しかいなかったと言っていたよなァ? あの五歳児はお前だ。お前はまだ五年ちょいしか生きていねぇんだよ」
  何を言っているのか理解できない。俺が五歳? 俺は今年で二十一歳だぞ。もうアインの知能が過ぎて話にならないのか。俺は露骨に呆れた表情をする。アインが意に介する様子はない。
 「なぁ、レイよォ、一年は何か月だ?」 
  今度はいきなりどうしたんだ、まあいい。呆れついでに答えてやろう。
 「はぁ……全く、そんなことも知らないのか。人間と話がしたいなら、このくらい勉強してきてくれよ。あのな、一年は三か月でな、春の年、夏の年、秋の年、冬の年の四ヶ年があるんだ。それをな、四節周期というんだよ、分かったかなーアイン君」
  俺は馬鹿にするような口調で言う。アインはそれを見てフッと笑う。それには明らかな侮蔑の色が混ざっていた。
 「あのなァ、一年はな、十二か月あるんだよォ。春夏秋冬はセットでな、一年に全部含まれてんだなぁ、これが。四季って言ってな、てか、一年ごとに季節が変わる訳ねーだろォ。毎年変化してったら『年』でくくる意味ないだろーがよォ、馬鹿かおメェ」
  そんな馬鹿な! 幼い頃にみんな習う常識のハズだ、それともエルフは『年』の概念が違うのだろうか? アインは続ける。
 「お前の村の住人は優しい人ばっかりだったんだろうなァ、あくまで人間と同じように育てようとしてくれたんだからなァ!」
  アインが言うには、つまりこういうことらしい。
  ハーフエルフの成長スピードはエルフと同じで人間の約四倍だ。ということは、実際の一年の四分の一の日数を一年だと教え込めば、表面上は人間と同じペースで歳を取っているように見せかけることが可能だ。
 「じゃあ、何故村人たちはそこまでして俺を人間だと思い込ませようとしたんだ?」
 「本当おめぇは馬鹿だな、ハーフエルフがどんな扱いを受けてるのか知らねぇのか? エルフの血が人間の血が混ざりゃあよォ、両サイドから迫害を受けることなんざ自明の理だろうが。
  エルフの肉を食べさせ、エルフを家畜と見なす価値観を教え込んでまで、お前を人間として育て上げたのは、お前を愛していたからに決まってるだろうが! 村の老人はお前が可愛くて可愛くて仕方なかったんだろうよ! ハーフエルフとして一生惨めに暮らさせるなんて、とてもじゃねえが出来ないだろうさ」
  うそだよ。村のみんなは俺にウソついてたってこと? そんなアホなァァ。俺は人間だろ? 汚らわしいエルフの血なんて混じってないだろォー。……いや、待てよ、アインが出まかせを言っているだけかも知れない。諦めるのは早過ぎる。惑わされるな! 
 「でも、それじゃあ、証拠としては不十分過ぎるだろ? 確かに俺は一年が三か月だって教えられたさ。でもエルフは嘘つきだってことも教えられた。一年が十二か月だってことも、そもそも俺がハーフエルフかどうかだって、お前が出まかせを言っているだけかも知れないじゃないか!」
  耳は長くも尖ってもいない。眼の色だって普通に黒だ。大丈夫。俺は人間だ。
 「ふん、そうか。ところでよォ、お前、腹減ってねぇか?」
  何の脈絡もなく、アインは話題を切り換える。言い返せなくなったようだ。俺はニヤリとわずかにほくそ笑んだ。
  だが確かに、俺はもう二日間も飲まず食わずだ。このままでは身が持たない。アインは俺を餓死せるつもりなのだろうか?
 「そうだな、確かに腹はペコペコだよ、ようやく何か食わしてくれる気になったのか?」
  俺はすました顔で言う。さっきは少しだけ動揺してしまったが、所詮エルフの浅知恵などこの程度だ。戻ってきた余裕が表情に出る。
 「そうだよなァ、腹減ってるよなァ。二日間何も食っていないんだからなァ」
  アインは、同情を寄せるようにうんうんと頷く。何か含みのある言い方だ。一体それがどうかしたのだろうか?
  するとアインは突然目を見開いて驚いたような顔をすると、わざとらしく「あれぇ?」という素っ頓狂な声を上げた。
 「じゃあよォ、じゃあよォ、何でお前は生きているんだ? あれれぇ? おかしいよなァ、人間は1日107g以上のエルフの肉を食わなきゃ生きていけねぇんじゃなかったのかァ?」
  ア、……。一瞬、俺の思考が停止した。すべてを知られてしまったような気分だった。心の奥の秘密まで何もかもこじ開けられてしまったような。眼前の景色が白に帰ってゆく。意識が朦朧とする。 

ナゼ、オマエハイキテイル?

それは、人間では、ないから。
  いくら否定をしようと試みても、自らがそれを証明してしまっている。
  俺は丸二日間も、エルフの肉を食わずに生存した。生きてしまった。
 「うぅ、あぁぅ、あぁ、……うそだあぁぁ……」
  先程の虚勢も醜くすべて消え去り、後には全裸ですすり泣くハーフエルフの雄だけが残った。ちなみに、アインに刺された傷が治っていたのはハーフエルフの治癒力によるものらしい。
  アインはいつから取ってきていたのか、木の丸椅子に腰かけ、俺の姿を鑑賞している。
  見世物にでもなった気分だ。いや、実際そうなのかも知れない。
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