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第三章 真相
真相 3 リリアの正体 前篇
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「くそ、こんなことになったのも、全部リリアのせいだ。あのアマさえいなけりゃ、俺はもっと順風満帆な人生を謳歌できていたのにィ」
俺はついに責任転嫁をし始めた。もうそうでもしなければ、惨め過ぎてやってられなかった。リリアよりも本当は自分が憎かった。
こんなみっともない俺をアインはどうせ笑って……パァン。叩かれた。
アインは先程までの侮蔑的な表情から打って変わって、怒りと悲しみを孕んだ真剣な眼差しで俺のことを睨んだ。
「おい、レイ。それだけはマジで洒落になんねぇぞ。いくら現実から目を逸らそうと、それだけは俺が許さねぇ」
もう、ダァとか、よぉとかアインは言っていなかった。ただでさえ惨めな気分だったのに余計に情けない気分になる。
叩かれた頬が熱を帯びてジンジンと痛んだ。
「なんだってんだよぅ。あ、あんだけおれのことばかにしてぇ、こんどはぼーりょくかよぉっ! ズズッ……死ねよぉぅ……ううぅ」
俺は涙で歪む視界をぐりぐりと擦りながら、しねしねと連呼する、さながら幼児のように、喚き泣き散らす。
「なあ、レイ、お前、曲がりなりにも一緒に旅してきたんだろ? リリアに森で会って、カラトスの街に着くまで、片時も離れずに行動していたじゃないか。なら、何故お前は気付かない? リリアに会ってからリリアはお前のことを何と呼んでいた? 命果てようとするまさにその時、お前のことを何と呼だんだ! 答えろ、レイッッッ!!」
俺は何がどうだか分からないまま、リリアと会った日の記憶をもう一度呼び起こす。リリアが俺を何と呼んだ?
あのね、パパとママが見当たらないの、お兄ちゃん、知らない?
お、お兄ちゃんはデリカシーがないね。
お兄ちゃん、あったかい。
リリア、もう大丈夫だから、お兄ちゃんは、い……
お兄ちゃん。お兄ちゃん、お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん、あれぇ?
「リリアは、お前の妹だ」
アインは、ただ、呟くようにそう言った。
「違う」
まず俺の口をついて出てきたのはその言葉だった。
「違う、違う違う、違う違う違う違う違うッ! だって、あいつは密猟監視官で、俺を騙して貶めてそれで俺は処刑されそうになって、それなのにあいつが俺の妹な訳ねぇーだろっ!」
「密猟監視官は密猟者を逮捕したりなどしない。その場で殺すのが規則だ。だがお前は生きている。リリアがその気なら、お前は既に死んでいるんだよ。だがリリアはお前を殺さなかった。これがどういうことか分かるか?」
アインは毅然と俺を見つめて言う。閉口した俺に、アインは続ける。
「いいか、真相はこうだ。お前がまだ幼い頃、リリアは義理の父親の手によって、密猟監視官に仕立て上げられた。それは義理の父親であり、レイの実父でもある彼が、リリアを人間に殺されたくないと望んだからだ」
俺とリリアは、母が同じで父が違うらしい。母がエルフで、父が人間なのが俺。父がエルフなのがリリアなのだそうだ。
「彼はリリアが密猟監視官として生きていて欲しいと願っていた。人間にとって唯一エルフの利用価値がある職業が、密猟監視官だったからだ。しかし賢しいリリアは、密猟監視官という自らの立場を利用し、エルフの自治区とコンタクトを取り、二重スパイとなって帝国の情報をエルフ側に送り始めた。エルフ達は密かに、支配からの脱却を目論んでいたのだ。
そしてリリアは幸か不幸か、帝国が自分の故郷の村に対し、肉の配給を止めるという情報を入手してしまった。そこで彼女は村へと急いだ。途中、エルフ自治区に住んでいたリリアの父と母を連れて。親族を集めて話し合いをするためだ。
しかし、村の周辺で少し目を離していた間に、愛する父と母が殺されてしまっていた。そしてリリアは驚愕した。そうだ、我が父母の肉を揚々と食しているのが実の兄だということに気付いたからだ」
アインは俺を責めるように語気を強める。
俺は思わず目をつむり、肩をすぼめる。俺という存在は、アインの眼前にただひたすら矮小に映ったことだろう。
俺はついに責任転嫁をし始めた。もうそうでもしなければ、惨め過ぎてやってられなかった。リリアよりも本当は自分が憎かった。
こんなみっともない俺をアインはどうせ笑って……パァン。叩かれた。
アインは先程までの侮蔑的な表情から打って変わって、怒りと悲しみを孕んだ真剣な眼差しで俺のことを睨んだ。
「おい、レイ。それだけはマジで洒落になんねぇぞ。いくら現実から目を逸らそうと、それだけは俺が許さねぇ」
もう、ダァとか、よぉとかアインは言っていなかった。ただでさえ惨めな気分だったのに余計に情けない気分になる。
叩かれた頬が熱を帯びてジンジンと痛んだ。
「なんだってんだよぅ。あ、あんだけおれのことばかにしてぇ、こんどはぼーりょくかよぉっ! ズズッ……死ねよぉぅ……ううぅ」
俺は涙で歪む視界をぐりぐりと擦りながら、しねしねと連呼する、さながら幼児のように、喚き泣き散らす。
「なあ、レイ、お前、曲がりなりにも一緒に旅してきたんだろ? リリアに森で会って、カラトスの街に着くまで、片時も離れずに行動していたじゃないか。なら、何故お前は気付かない? リリアに会ってからリリアはお前のことを何と呼んでいた? 命果てようとするまさにその時、お前のことを何と呼だんだ! 答えろ、レイッッッ!!」
俺は何がどうだか分からないまま、リリアと会った日の記憶をもう一度呼び起こす。リリアが俺を何と呼んだ?
あのね、パパとママが見当たらないの、お兄ちゃん、知らない?
お、お兄ちゃんはデリカシーがないね。
お兄ちゃん、あったかい。
リリア、もう大丈夫だから、お兄ちゃんは、い……
お兄ちゃん。お兄ちゃん、お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん、あれぇ?
「リリアは、お前の妹だ」
アインは、ただ、呟くようにそう言った。
「違う」
まず俺の口をついて出てきたのはその言葉だった。
「違う、違う違う、違う違う違う違う違うッ! だって、あいつは密猟監視官で、俺を騙して貶めてそれで俺は処刑されそうになって、それなのにあいつが俺の妹な訳ねぇーだろっ!」
「密猟監視官は密猟者を逮捕したりなどしない。その場で殺すのが規則だ。だがお前は生きている。リリアがその気なら、お前は既に死んでいるんだよ。だがリリアはお前を殺さなかった。これがどういうことか分かるか?」
アインは毅然と俺を見つめて言う。閉口した俺に、アインは続ける。
「いいか、真相はこうだ。お前がまだ幼い頃、リリアは義理の父親の手によって、密猟監視官に仕立て上げられた。それは義理の父親であり、レイの実父でもある彼が、リリアを人間に殺されたくないと望んだからだ」
俺とリリアは、母が同じで父が違うらしい。母がエルフで、父が人間なのが俺。父がエルフなのがリリアなのだそうだ。
「彼はリリアが密猟監視官として生きていて欲しいと願っていた。人間にとって唯一エルフの利用価値がある職業が、密猟監視官だったからだ。しかし賢しいリリアは、密猟監視官という自らの立場を利用し、エルフの自治区とコンタクトを取り、二重スパイとなって帝国の情報をエルフ側に送り始めた。エルフ達は密かに、支配からの脱却を目論んでいたのだ。
そしてリリアは幸か不幸か、帝国が自分の故郷の村に対し、肉の配給を止めるという情報を入手してしまった。そこで彼女は村へと急いだ。途中、エルフ自治区に住んでいたリリアの父と母を連れて。親族を集めて話し合いをするためだ。
しかし、村の周辺で少し目を離していた間に、愛する父と母が殺されてしまっていた。そしてリリアは驚愕した。そうだ、我が父母の肉を揚々と食しているのが実の兄だということに気付いたからだ」
アインは俺を責めるように語気を強める。
俺は思わず目をつむり、肩をすぼめる。俺という存在は、アインの眼前にただひたすら矮小に映ったことだろう。
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