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到着した空き家の中で、転移魔法のスクロールを起動する。
痕跡を残さず王宮へ移動できるので大変便利だが、国王陛下か王太子のみが作成し、彼らのみが起動許可を出せる滅多にお目にかかれない代物である。
使用許可が降りている今回、王太子殿下の本気度が伺えるというものだ。
なのに偵察に素人を使う意味が分からないのよね。
王宮の執務室に移動する。
王太子殿下の側近が使用している部屋は中に個別のブースが作られており、ゆっくりと腰掛けることができ、なおかつ防音性に優れている素晴らしい作りとなっている。
「さて、改めましてお疲れ様でございました。予想外に色々と収穫がございましたね。」
張り詰めていた緊張の糸が切れて、疲労がすごい。
声も出さずに頷きだけで返事を返す。
「…殿下に報告を、しなきゃですね。」
「そうですね、許可を取ってきます。その間に少しおふたりでお話になってください」
「え?あ、はい。」
副長はすっと席を立つと殿下の側近に報告の時間を貰えるよう話をつけに行ってしまった。
知り合いなの、バレた?
残ったのは彼と私のみ。
…気まずい。
「お久しぶりね。カイル。まさかこんな形で再会する事になるなんて思いもしなかったわ。」
「……久しぶりだな。俺も、二度と会わないと思ってたよ。元気そうで良かった。」
「黒の枷は早く外せるように対応するからもう少しだけ待ってて。契約紋に関しては、消す方法が未だに見つかっていないから、出来ることとしたら所有者欄を空欄にするくらいしか出来ないわね。正直空欄にしておく事のデメリットの方が大きいらしいけどその辺はあまり詳しくないから後で別の担当に説明させるわ。」
「あぁ。黒の枷さえ外してくれたらそれでいい。今の俺の所有者はお前だろ?」
「契約時に血を渡した者だから、現状は私ってことになるわね。費用は国の負担だから国所有になるかもしれないけど。」
「ふっ。そうか。それなら"今日から俺はお前の下僕な"わざわざ消す必要も変える必要もない。」
「…っ!任務のための契約よ。今は私だけど、殿下は国所有も喜ばないでしょうから貴方に判断を委ねてくださるはずだわ。」
「あぁ。好きなようにするさ、ご主人様」
にやりと笑う表情に目眩がする。
幼い頃はまだ可愛げがあったのに。
会わない間に何があればこんな事になるのか、疑問でしかない。
そこからは少しだけ会っていない間の話を聞いた。
Sランクの冒険者になったという噂は事実だったようだが、その後パーティーメンバーに騙され奴隷落ちさせられたという。
醜い嫉妬に巻き込まれた。
とんだ災難だと暗く笑う彼に動揺する。
Sランクの現役冒険者が相手であっても、黒の枷は力を発揮したのか。
もしかしたら抵抗できないような状態にあったのかも知れない。考えれば考えるほどパーティーメンバーへの憎しみが募る。
胸の奥側グッと押されたような苦しさを感じる。
「過ぎたものはどうしようもないし、消せないものも仕方がない。今はお前に拾って貰えた幸福に感謝しとくよ。」
ソファーに深く腰を沈めながら目を閉じた彼に何も言えなくなる。
が、仕事だ。伝えるべきことは伝えよう。
「…この後、王太子殿下に報告をするから、あなたも着いてきて。可能であればできる限り質問には答えて欲しい。…嫌な過去を思い出させるかもしれないけど。」
「殿下殿下ってもしやと思ってたが、まさか本当に王太子殿下か?何をどうやったら直接謁見なんて話になるんだよ。」
「真面目に仕事を頑張っていたら、かしらね。」
驚きに見開いていた目を閉じ、再びソファーに埋もれながらお前は随分と変わったんだなと呟かれる。
正直、あなたほどの変化じゃないと思ったが口に出すのはやめておいた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
少し落ち着いてから、2人でブースを離れると私のデスクのところで副長が待っていた。
「おや、アイリス嬢、早かったですね。もう少しゆっくりでも良かったのに。」
「いえ、おまたせしてしまってすみません。」
「いえいえ。報告内容を考えていたのでお気になさらず。…とはいえ、イレギュラーが起こったせいで順を追うのが面倒になってしまって、もう彼を御前に連れて行って終わりでいいのではないでしょうか。」
初回で1発摘発。上々ですね、と優しく笑う副長さんに苦笑する。
副長さんはカイルをちらりと見ると再び私と視線を合わせる。
「謁見は1時間半後になりました。1度身なりを整えてから集合しましょうか。」
いい加減普段の職場にこの格好は辛かったので有難く頷く。
「ゆっくりする時間はありませんが、少しはマシでしょう。彼はこのまま私が預かりますね。」
「よろしくお願いします。」
頭を下げ、私は急いで自室に戻る。時間はあまりない、遅れる訳には行かないから急がなくては!!
痕跡を残さず王宮へ移動できるので大変便利だが、国王陛下か王太子のみが作成し、彼らのみが起動許可を出せる滅多にお目にかかれない代物である。
使用許可が降りている今回、王太子殿下の本気度が伺えるというものだ。
なのに偵察に素人を使う意味が分からないのよね。
王宮の執務室に移動する。
王太子殿下の側近が使用している部屋は中に個別のブースが作られており、ゆっくりと腰掛けることができ、なおかつ防音性に優れている素晴らしい作りとなっている。
「さて、改めましてお疲れ様でございました。予想外に色々と収穫がございましたね。」
張り詰めていた緊張の糸が切れて、疲労がすごい。
声も出さずに頷きだけで返事を返す。
「…殿下に報告を、しなきゃですね。」
「そうですね、許可を取ってきます。その間に少しおふたりでお話になってください」
「え?あ、はい。」
副長はすっと席を立つと殿下の側近に報告の時間を貰えるよう話をつけに行ってしまった。
知り合いなの、バレた?
残ったのは彼と私のみ。
…気まずい。
「お久しぶりね。カイル。まさかこんな形で再会する事になるなんて思いもしなかったわ。」
「……久しぶりだな。俺も、二度と会わないと思ってたよ。元気そうで良かった。」
「黒の枷は早く外せるように対応するからもう少しだけ待ってて。契約紋に関しては、消す方法が未だに見つかっていないから、出来ることとしたら所有者欄を空欄にするくらいしか出来ないわね。正直空欄にしておく事のデメリットの方が大きいらしいけどその辺はあまり詳しくないから後で別の担当に説明させるわ。」
「あぁ。黒の枷さえ外してくれたらそれでいい。今の俺の所有者はお前だろ?」
「契約時に血を渡した者だから、現状は私ってことになるわね。費用は国の負担だから国所有になるかもしれないけど。」
「ふっ。そうか。それなら"今日から俺はお前の下僕な"わざわざ消す必要も変える必要もない。」
「…っ!任務のための契約よ。今は私だけど、殿下は国所有も喜ばないでしょうから貴方に判断を委ねてくださるはずだわ。」
「あぁ。好きなようにするさ、ご主人様」
にやりと笑う表情に目眩がする。
幼い頃はまだ可愛げがあったのに。
会わない間に何があればこんな事になるのか、疑問でしかない。
そこからは少しだけ会っていない間の話を聞いた。
Sランクの冒険者になったという噂は事実だったようだが、その後パーティーメンバーに騙され奴隷落ちさせられたという。
醜い嫉妬に巻き込まれた。
とんだ災難だと暗く笑う彼に動揺する。
Sランクの現役冒険者が相手であっても、黒の枷は力を発揮したのか。
もしかしたら抵抗できないような状態にあったのかも知れない。考えれば考えるほどパーティーメンバーへの憎しみが募る。
胸の奥側グッと押されたような苦しさを感じる。
「過ぎたものはどうしようもないし、消せないものも仕方がない。今はお前に拾って貰えた幸福に感謝しとくよ。」
ソファーに深く腰を沈めながら目を閉じた彼に何も言えなくなる。
が、仕事だ。伝えるべきことは伝えよう。
「…この後、王太子殿下に報告をするから、あなたも着いてきて。可能であればできる限り質問には答えて欲しい。…嫌な過去を思い出させるかもしれないけど。」
「殿下殿下ってもしやと思ってたが、まさか本当に王太子殿下か?何をどうやったら直接謁見なんて話になるんだよ。」
「真面目に仕事を頑張っていたら、かしらね。」
驚きに見開いていた目を閉じ、再びソファーに埋もれながらお前は随分と変わったんだなと呟かれる。
正直、あなたほどの変化じゃないと思ったが口に出すのはやめておいた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
少し落ち着いてから、2人でブースを離れると私のデスクのところで副長が待っていた。
「おや、アイリス嬢、早かったですね。もう少しゆっくりでも良かったのに。」
「いえ、おまたせしてしまってすみません。」
「いえいえ。報告内容を考えていたのでお気になさらず。…とはいえ、イレギュラーが起こったせいで順を追うのが面倒になってしまって、もう彼を御前に連れて行って終わりでいいのではないでしょうか。」
初回で1発摘発。上々ですね、と優しく笑う副長さんに苦笑する。
副長さんはカイルをちらりと見ると再び私と視線を合わせる。
「謁見は1時間半後になりました。1度身なりを整えてから集合しましょうか。」
いい加減普段の職場にこの格好は辛かったので有難く頷く。
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