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恋の忘れ形見
シンクロ
しおりを挟む不思議なことに、昔から私達は同時に風邪を引く。
それも高確率で。
まぁ、一緒の家に住んでいるから風邪菌が移ったという理由もあるだろうけど‥‥。
例外があるのだ。
それは高校時代まで話が遡ることになるから、また今度。
それで、周囲はそれを双子の神秘だとか言うんだけど、私はあながちそれは間違っていないと思う。
だって今、実際に自分も明らかに風邪であろう喉の痛みを覚えているからだ。
熱が無いだけ私の方が今回はラッキーといったところ。
これまた不思議なことに、熱を出すのもどちらか片方だ。
それは別に、凪の方が病弱というワケではない。
今とは逆の立場にあることも、しばしばだ。
「おねぇ~。」
「はい?」
私がタンスから薬を取り出していると、背後から弱々しい声で呼ばれた。
「代わりに講義出て~‥‥。」
凪はろれつの回らない口調で、布団にくるまりながら言った。
「何言ってんの。甘えんな。」
「お願い~。今日の雨宮の講義、もう休めないんだよぉー。
今日休んだらアウトなのー。
留年なのー。」
「アンタねぇ~‥‥こんな大事な時期に、ホント馬鹿。」
ああ、久しぶりに千鶴以外の人間にそう言った気がする。
私が千鶴の傍若無人な行動を思い出しながら落胆していると、凪はベッドから下りて土下座してきた。
「‥‥ちょっと何?
寝てなって。」
すると林檎みたいに真っ赤な顔をしながら、凪が真剣な声で私に訴えかけてきたではないか。
「お願い!マジで今日出られなかったら、またもう1回2年生やんなきゃいけないんだよぉ!
一生の頼み!!」
「んなこと言われてもね?
私、アンタとは学科が違うんだから‥‥。
保育なんて全然分からないし。」
私は生活福祉学科。
凪は幼児教育学科。
同じ学校に通えど、勉強する内容は異なるのだ。
「だいじょ~ぶ!
あんなの、ただ座って聴いてるフリしてりゃイイんだって!
お願いだから、ね?ね!?」
凪は体をヨロつかせながら私の腕にすがり付いてきた。
こんなに必死になって私に頼み事をする様子を見ると‥‥
あながち留年の話は嘘ではないようだ。
私は熱で汗だくになった凪の顔をタオルで拭いてやると、観念して協力することを決意した。
何だかんだ言って、妹に甘いな‥‥私。
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