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恋の忘れ形見
雨宮先生
しおりを挟む目の周りをグルリとアイラインで囲んだ彼女こそ、カスミに違いない。
「どうしたの~!遅刻しなかったじゃん。」
サバサバしたカスミのハスキーな声が、私を呼ぶ。
―ドクン
そんなワケ、ないから‥‥。
目の前の人はきっと、違うカスミだ。
何の保証も無い自分への言葉が反芻すると、私はカスミの隣の席にぎこちなく座った。
「おはよ~‥‥。」
とりあえず、今は凪になりすますことが先決だ。
私は唾を飲み込むと、当たり障りのない挨拶をカスミにした。
「何か今日変だね、アンタ。
腹でも壊したか?」
「えっ?まぁ、ちょっとね~。」
無理矢理口角を上げて苦笑いする私を、カスミは切れ長の鋭い目で見つめてきた。
何か‥‥恐いんですけどこの人。
カスミの鋭い視線をかわすかのように、私はバッグから教科書を取り出した。
‥‥えっと、確か『保育者論』て講義だったハズ‥‥。
ガサゴソとバッグの中を探っていると、今度は前の席の女子が甲高い声をかけてきた。
「なーぎぃー?何してんのぉ?」
「まさか教科書とか出してんの!?
う~わ~、真面目~!
どうしちゃったのぉ~!?」
ケバケバしい化粧をした2人の女子が、九官鳥のような声で同時に喋ったもんだから頭がクラクラした。
「‥‥へ?え、だってぇ、もう講義始まるしぃー‥‥。」
私は2人の女子とカスミのアイラインとマスカラだらけの目を反らし、凪の口調を真似て言った。
しかし3人の目は点になった。
‥‥口は半開き。
どーしたって言うのよ!?
もしかして、バレた!?
バクバクと心臓を跳ねさせていると、横でカスミが呟いた。
「‥‥熱あるんじゃね?」
続いて前の席のギャル2人も、口を開く。
「‥‥今日、合コン行けんの?」
「な、凪が勉強とか珍しぃ~。」
「‥‥え、アハハァ~‥‥。
熱で頭がボーッとしちゃってさ‥‥。」
3人は、相変わらず珍しいモノを見る目で私を凝視している。
‥‥いや、私じゃなくて凪を見ているのか。
―ガラッ
するとチャイムと同時に、先生が教室に入ってきた。
「うわー出たよ、雨宮。」
カスミがそう言うと、2人のギャルはつまらなそうにして前を向き直し、合コンの計画を立て始めた。
「雨宮‥‥先生?」
私は黒板の前に立った女性に、目が釘付けになった。
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