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恋の忘れ形見③
無事にレポート提出、のはずが?
しおりを挟む玄関口で美男子に送られ、学校へ出向く。
この理想的な構図に一瞬でも浸ってしまう。
中身が普通だったらイイのに。
『普通』でイイのに‥‥。
そんなことをブツクサ呟きながら、凪のレポートが入ったバッグを持ち直して学校へと足を運んだ。
とっぷりと日が暮れた時刻。
学校に残っている学生の数もまばらだ。
私は学務課に向かうと、提出物が山積みされているデスクを真っ先に目指した。
「え~っと、生活福祉‥‥土屋‥‥あった。」
自分の学生番号と名前が記入された用紙を発見すると、機械的な文字列を流し読みした。
‥‥間違いなく、昨晩に私が打ち込んだ内容だ。
レポートの1番上には、大きく捺印された事務員の印鑑と日付がある。
ちゃんと提出されたという証拠であるそれを確認すると、妙な気持ちに駆られた。
「‥‥あ、名前。」
手書きで記入された名前をよく見れば、明らかに自分の筆跡ではないことに気付く。
よく考えてみれば、名前を書き忘れていたのだ。
恐らくというか確実に、千鶴がそれに気付いて書き足しておいてくれたのだろう。
私はその癖の無い、本人の容貌を彷彿するような整った字面をしばらく眺めた。
そしてそっと、元の位置にレポート用紙を戻した。
何故か分からない。
この霞んだ気持ちが何なのか。
―喉の辺りが、ヒリヒリする
「土屋‥‥ミオさん、かな?」
ボケッと立ち尽くす私の背後で、鈴が転がるような綺麗な声が投げられた。
私は少しだけビクリと体を跳ねると、声の主に悟られぬよう瞬時に平然を取り繕う。
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