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恋はさざ波に似て
さざ波メランコリー
しおりを挟む7人分の背中を追いかけ続け、
ついに観念した私はすでに疲労していた。
重い足取りを乗せてギシギシと軋む木製の床と、ロビーに飾られた剥製の熊が、旅館の情緒ある雰囲気を想わせる。
こんなゼミの旅館なんかじゃなかったら普通に楽しめたのに。
南条セイヤなんてどうでもいいから温泉に入りたいよ私は。
――『桜の間』
やっと到着した部屋の襖の上に、そう書かれた木彫りの表札みたいなモノがちょこんと乗っている。
そう言えば途中見てきた部屋の上にも『菊』だとか『蓮』だとか記されていたので、鬱蒼とした頭の中でぼんやり『ああ、花の名前で統一されているんだ』なんて思った。
が、今はそんな情報どうでもいい。
それより、場に流されやすい自分を情けなく思うことで精一杯だ。
おまけに寝起きで微妙に具合が悪いし、最悪。
ムカムカする胃の辺りを撫でつけながら、私はボストンバッグを畳の上に放り投げた。
「セイちゃん、今頃何してるかなぁー」
ウットリと空を見上げながら篠原さんが呟いた。
まるで遠距離恋愛中の彼氏を想うかの口ぶりだ。
「ねぇ、土屋さんも実は楽しみなんでしょー?
さっき電車で居眠りしてたし、もしかして昨日あんま寝てないとかぁ」
「え……。ああ、超楽しみ」
ゴメンね、我ながら超棒読み。
「そーなんだ!
土屋さんって普段クールだし、あんま芸能人とか興味無いのかと思ってたー……あっ」
ワントーンずつ上がっていく篠原さんの声が、山びこのように頭蓋骨の内側を震わせる。
まるで二日酔い。
「じゃあさ、先月出たセイちゃんの『さざ波メランコリー』聞いた!?」
さざ波めらんこりぃ?
何だそのふざけた単語は。
もしかして歌のタイトルとか言わないわよね。
「かなり良くない?
私、限定版のCDまで欲しくなっちゃって!
買っちゃいましたぁ~」
ジャン。出ました。
篠原さんのバッグから、これみよがしに気取った男がヘソ出しながらカメラに目線送っているジャケットが。
確かに書いてある、『さざ波メランコリー』って。
ていうか彼女、1人で話して1人で盛り上がっている。
私には分からない感覚だ。
ブラウン菅越しの人間に、どうしてそんなにも夢中になれるのか。って、今時ブラウン菅も古いか?
なーんてどうでもいいや!
アハハハ。帰りたい。
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