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恋はさざ波に似て③
海
しおりを挟む「具合はどうですか。頭痛以外でどこか不調はありませんか」
「ん~、アンタといると眩暈がするわ」
ニッコリと皮肉を含んだ笑顔を返す。
「そうですか、光栄ですね」
ほら、そうやって何でも都合良く解釈するんだから。
……でも、もうイイわ。
だって、一応介抱してくれたしね。
グラスをトレーに置き、重たい頭を窓の方に向けた。
空はすっかり明るい水色で、
昨夜の満天の星をどこかに忘れてきたようだ。
白い筋雲を眺め、珍しく晴れてるな~なんて思ったが、やけに耳鳴りがする。
頭痛の余韻だろうか。
はぁ~。
重く長い溜め息を溢すと、罪悪感が降り注いできた。
そして後ろを振り向けば、相変わらず心配顔の男が1人。
私はコイツに悪いことをしてしまった。
だって昨日、南条セイヤのライヴで倒れた後からずっと心配をかけ通しなのだから。
あげくにパシリまでさせて、こうやって介抱までさせて。
何、してんだろ。
筋雲が旅館の屋根の裏まで流れて行き、目で追えなくなったところで、私はある決意をこの空に誓った。
もう、ケジメをつけるべきだ。
こんな私のワガママに振り回されて、あまりにもコイツが不憫だ。
だから、言おう。
コイツのことだから、またイイようにはぐらかすかもしれないけど、でも言おう。
『もう構わないで』って……
本気で。
「澪」
「……な、何」
不意に重低音の声が後ろから投げられる。
少しだけ深刻な声色だったものだから、心臓がドキリと跳ねる。
「海に行きませんか」
「海?」
私は千鶴の言葉を聞くと、すぐに立ち上がって窓辺に向かった。
昨日眺めた時は夜だったから気付かなかったけど、この三ツ星旅館は海辺に隣接する建物だったのだ。
絶景とも言える眺めが視界に飛び込む。
深く、真っ青な波で埋め尽くされている。
一面、海だ。
そう、海なのだ。
「うみ……だね」
「海ですよ。
そんなに嬉しいですか」
「え……」
千鶴にそう言われて初めて気付いた。
私の顔が、ふやけていることに。
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