257 / 399
恋の焼け痕②
最初からいなかったと思えば
しおりを挟むしばらくして、近所の小学校の下校時刻を知らせるチャイムが鳴った。
いや、下校時刻かどうかは分からない。もしかしたら授業開始のチャイムかもしれない。
時刻的には下校なのだろうけど、小学校が何時間授業かなんて当の昔に忘れてしまった。
下校時刻なのか、授業開始なのか。
そんな情報は今の私にはちっとも必要じゃないというのに、頭が勝手にそれを考えようとする。
下校してきた小学生が家に帰り、『今日の夕飯なぁに』と甘えるような口調でキッチンに立つお母さんに聞く。
お母さんは『それよりまず先に手を洗いなさい』と言う。
チャイムが鳴る……。
頭の中をグルグルと旋回する。
変な液体が脳に浸透する。
どっぷりとそれは音を鳴らして、思考をぐちゃぐちゃに掻き混ぜる。
チャイムが鳴り響く。
いつの間にか、私は自宅にいた。
総大くんが隣にいて、ずっと訳の分からないことを話しかけてくる。多分、『大丈夫ッスか』とか『きっとその内連絡があるッスよ』とか、そんな慰めの言葉を送られているに違いない。
だけどそんな言葉が、何の役に立つというのだろう。
私はただ床だけを眺めた。
まるで床に何か面白いことが書かれているかのように、ひたすら床を眺めた。
そうしていると、木目のいたる所に凹凸を発見した。
それは私が幾度となく千鶴を叩き付けた跡だ。
……涙?何だかそれの出し方も忘れてしまった。
総大くんの声が遠くに聞こえる。
もはや何を喋っているのかも理解出来ない。
私はただ床の窪んだ部分を見つめている。
穴が開くほど見つめている。
『藤堂千鶴という人間は、最初からいなかった』
その結論に辿り着くまでに、さほど時間を要さなかったと思う。
この方法は、私が失恋した時にいつも試す。
克哉の時もそうだった。
最初からいなかったら楽だったと、そう考えては悲劇のヒロインを気取って涙を溢した。
だけど、どうしてだろう。
涙が出ない。
干乾びていく。
サラサラと砂が流れる音がする。
チャイムが鳴る。
ゴポゴポと液体が沸騰する。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる