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第一章

7.息子が失踪した日のままにしているから、実況見分を

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 あおりにも急かす行為にも乗らない。

 車といえど密室だ。


(それに、こいつには僕に対して、代理人として収容所から救出したっていう大きなアドバンテージがある)


 ロレンツォが真顔でサライの顔を凝視した。

「私が欲しているのは君の能力。それ以外は求めていない」

「だったら、あんたの息子の失踪事件を調べるのと並行して、じいちゃんを殺した犯人を見つけたい。協力してくれ」

「駄目だ」


(……こいつ、頭から拒否してきやがった)


「こらこら。人でなしを見るような目で私を見ない。今は時期じゃないと言っているんだ」

「じゃあ、一人でやる」

「君は驚くほど気が短いな?相手は一晩で八人の男の首を落としているんだぞ?一人で、それも丸腰で何ができる?」


 正論に、言い返す術がない。

 内心では言いたいことが山程あるのだが、あまりにも子供じみている。

 それに、こんな男に心を許してはいけない。


 ロレンツォがクスと笑う。


「今、君が何を考えているのか当ててやろう。権力もある大人なんだからあんたが手伝ってくれればいいのに?でも、それと引き換えに変なことをされるかも?いやでも、弱みを握れればこっちのペースに引き込めそう?けれど、私にここまで読まれているのにうまくいくかな?」

「……」

「いいねえ。いい!頭の中を依存心と警戒心がぐるぐる巡っているね。君みたいに容姿が優れた子は警戒心が強いのは悪いことじゃないが、相手を信頼する勇気も必要だよ」


 弱虫と遠回しに言われた気がして乱暴に助手席のドアを開け、革張りのシートに勢いよく座った。

 なんともまあ座り心地がいい、そのせいで逆に居心地が悪い金持ち仕様のシートに。


「これから僕はどこで何をすればいいんだ?」

「フィレンツェに向かう」


 ここはフランス国境にほど近いミラノ県の山の上。フィレンツェまでは軽く四時間はかかる。


「何しに?」

「私の館がある。息子が失踪した日のままにしているから、実況見分を」

「まずは警察に相談しろよ」

「仕事が遅いことで有名な我が国の警察に何ができる?それに息子の失踪は警察の管轄外。彼らじゃどうにもできない」

「なら、僕だってそうだろうが。ただの特定屋だぞ」
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