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第四章
84.マエストロが今後、いい子にするならな
しおりを挟むとんでも設定だ。
意味不明だ。
でもこのとんでも設定が真実なのだとしたら……。
「じゃあ、僕は誰なんだ?」
ヨハネ、エヴァレット、チャールズ。イザベラに、ロレンツォ。それに、目の前のいけ好かないおっさん。全員が絵に関わっている。しかし、自分は違う。
ヨハネが、どうするというようにレオを見ると、ちょうどよくレオの携帯が奇妙なメロディを鳴らし始めた。
「イザベラがさっさと戻って来いって?後処理に手間取っているなら手伝ってやろか?このヨハネ様が」
「他のに頼む。お前はサライを守れ。くれぐれも余計なことをするなよ」
「マエストロが今後、いい子にするならな」
「壁に塗り込めるぞ」
レオがパンツのポケットに携帯を戻しながら言う。
「やってみろよ」
とヨハネがせせ笑うと同時に、白シャツ一枚にジャケットを手に持った軽装でレオが廊下に出ていった。
サライは聞いた。
「なあ。ユディトって女は、リチャード・クリスティンの社屋を追い出されたらしいけれど、お前ならどこに隠れていると思う?」
「初めて来たのならロンドンに土地勘は無いと思う。仲間みたいな奴らが匿っているはず」
ヨハネは前髪に手を当てて、目を隠してみせる。
「マエストロから聞いたんだけど、オークション会場の別室に、こういう髪型のヤツがいたそうじゃねえか」
「ロレンツォ公はドブネズミって呼んでいた」
「正体を教えてやろうか。名前は、メリージ・ディ・カラヴァッジョ。ドブネズミは通称だ。十六世紀末から始まったバロック期の大物であいつは、人間とマテリアのためのユートピアみたいなのを作ろうって目論んでいる連中の親玉だ。そのせいでロレンツォ公はよくぶつかり合っているらしい」
「らしい?」
「僕、この八年間、騙されて壁に塗り込められていたからさ、情報が更新されていない部分があるんだ。閉じ込めたのはさっきの糞野郎」
「お前はあいつのマテリアなんだろ?」
「ボクにとっては唯一の創造主だけど、あいつにとってはボクは幾つある駒の一つ。言ったろ。使い捨てだって。忠告しておく。お前もマエストロには心を許すなよ。また捨てられて傷つく羽目になるぞ」
「またって、あいつとは初対面だ。あんなに目付きの悪い男を忘れるものか」
「遠い昔のお話だもの。あ、話を戻すぞ。ドブネズミの奴、ロレンツォ公の息子を攫って、九億ユーロの絵を強奪させる手伝いをさせたかっただけじゃなく……ひょっとしたら」
ヨハネがニヤニヤし始め、
「これは、面白くなってきた」
と付け足した。
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