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第五章

101.俺はもう絵とは関わり合いたくないんだって

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「俺、贋作組織時代のことはあんまり記憶ないから」

「あー、そかそか」


 ヨハネが一段明るい声を出す。何か不自然だ。

 贋作組織の次は、死の審判かよ。

 祖父の死に繋がりそうとは思えないが、頭に入れておいて損は無さそう。

 だが、今、アンジェロを問い詰めて、答えたくないことを答えさせたら機嫌を悪くされ、今後、聞ける話も聞けなくなってしまうかもしれない。


(あとで、ヨハネに聞くか)


「で、第七組織からロレンツォ公に救い出されたと」


 ヨハネが聞くと、アンジェロが黙り込む。


「どうして、そこであいつが出てくるんだよ」

「元お勤め先だ」

「以前はオークショナーを?派手そうだな」

「いや、真贋鑑定の方。なんせ、十五世紀の豪華王ロレンツォの知識を引き継いでいるんだ。秒で真贋なんて朝飯前。贋作組織を叩く隊も率いていた」


 アンジェロがこちらを伺ってくる。


「父さんは、本当に豪華王ロレンツォなの?テレビ用のキャラじゃなく?」

「ああ。そこんところはボクが太鼓判を押す」

「待てよ」


 サライは会話を中断させた。

「ロレンツォ公は今も昔も絵描きじゃないだろ?ってことは、絵描き以外の生まれ変わりもいるってことか?」

「絵描きってのは、あの当時はただの職人。パトロンが居なければ、明日のパンも買えねえ。豪華王ロレンツォは絵だけじゃなく、芸術の庇護者だった。この業界じゃ、パトロンはインベストリア(出資者)と呼ばれている」


 レナトゥスが創造主。

 マテリアが素材。

 インベストリアが出資者。

 そして、絵絡みの事件で戦う者らを総称してアージャー。

とヨハネが「おさらい」と前置きして説明した。


「俺はもう絵とは関わり合いたくないんだって」


 呻くアンジェロを青い衣の男は黙って見ている。

 とても心配そうだ。

 きちんと感情があるらしい。


「そうは言っても、鳥の巣頭が近づいてきている。それにユディトとも数日一緒にいたんじゃないのか?」

「え?一瞬だけだったよ」

「尖塔でってことか?でも、お前、数日前に音楽学校で襲撃を受けているよな?」


 アンジェロは怪訝な顔。


「待って。話が見えない。もしかして、別の人のことを言っている?」

「だから、青いドレスの女だって。僕のじいちゃんの頭部を盗んでいった女」

「はいはい。ここでヨハネ様が解説」


と少年が偉そうに会話に割って入ってくる。


「サライ。ちょっとパソコン貸せよ」
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