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第五章

107.フィレンツェでまた首切り事件らしい

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「ユディトか?あいつは、一途ってのが定説。夫を熱射病で無くした後も再婚せずにいたんだから。死んだ夫に仕え続ける女ってことでベルレアの民衆から指示された。まあ、今じゃジェンダー差別って言われそうだけど」

「じゃあ、じいちゃんと寝た可能性は無いってことか」

「ボクは無いと思う。で、お前はその日何していた?」

「夕方から出かけていた。じいちゃんに外出するなと言われても振り切って」


 残酷な過去に記憶が巻き戻りかけ、目の前がチカチカし始めた。

 血の匂いすら鼻先に漂ってきそうだった。

 
「修道士。加えてユディト登場。殺戮が始まって、じいちゃんは謎の女とその最中寝ていた。まとめるとこういうことだろ?謎の女が修道士をそそのかし、ユディトにも指図したのか?」

「それは一旦置いておけ。謎は熟成されなきゃ、解決しない」

「頭がおかしくなりそうだ。いや、頭が痛い」


 喉がいがらっぽい。身体も心無しか熱い。

 ヨハネが一息付く。


「でも、ユディトがサライとアンジェロを追い回した訳は、わかるぜ。ファーストマテリア絡みだ」

「こいつのことか?」 


 サライは、軽く咳き込みながら青い衣の男を指差す。


「初めてマテリアを出すときは、大きな感情の揺れ動きが必要だ。ユディトがピエトロの首を見せつけてきたのち川に投げ捨てたのも、ドブネズミがロレンツォ公が集めた贋作をバラすためにアンジェロに絡んできたのも、それを狙ってのことだと思う」

「でも、その場では上手くはいなかったよな?アンジェロのファーストマテリアが出てきたのは派手な親子喧嘩をした後だ。そもそも、僕は絵描きじゃないから関係ないし。魂データってのを引き継いでいるなら、クラスで一人だけ美術でF(落第)なんて取らないはず」

「心への大きな負荷ってのは、一撃の場合と、積み重ねの場合がある」


 サライはまた咳。


「川に入って身体が冷えたせいか?うわ、お前、顔が赤くなってきている。絶対に寝込むぞ」

「そんな暇ねえ」


 サライは広げたノート型パソコンを仕舞いながら、携帯でネットニュースをチェックした。


「フィレンツェでまた首切り事件らしい。あの女、あっちに戻ったってことだな?」


 ヨハネが携帯を確認する。


「夜間戒厳令まで出ているなら相当なレベルの殺戮が向こうで起こっているんだろう。まるで、ロンドンにいるボクらを煽っているみたいだな」

「向かうぞ。なんとしてでもフィレンツェに」


 サライはガンガンし始めた頭を抱えながらリュックを探る。

 必要なものは、なかなか出てこない。終いには、逆さにして中身をぶちまけた。
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