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第六章
130.もともとヨハネ様は強いのに、さらにお前が不利に―――っ危っね
しおりを挟む小さな気づきが、激しい感情を一気に鎮火へと向かわせる。
音楽学校の練習室へのいきなりの乱入。
メリージのホテルでの人差し指を唇と唇の間に挟んでキスの真似事。
―――全部、俺のファーストマテリア狙い。
(俺に興味がある訳じゃない)
自分の立ち位置は、酒と色香で惑わされた間抜けな将軍と同じ。
いや、もしかしたら、棒切れぐらいにしか思っていないかもしれない。
心がじくりと痛い。
(それでも、俺は、この人に惹かれてしまう)
ユディトがあっさりとアンジェロの側を去ろうとする。
「待ってください。俺じゃ駄目ですか?あなたの手足になります。剣になります。身代わりにだって」
女の手の内は理解したはずなのに、口をついて出た言葉はみっともないもので。
興味の無い男にこんなことを言われても気持ちが悪いだけだ。
そんなの分かっている。
でも、すがりたいのだ。この恋に。
他の人間関係が脆くも崩れ去ってしまったから。
こんなの依存だ、分かっているだと実感したそのとき……。
「アーンージェ-ロ!勝手に館から出ていくな」
空からヨハネの声がした。ムンディも側にいた。
続いて、矢のような何かがユディトの脳天に激突。
ユディトが無表情のまま広場に倒れバスケットの頭部が石畳に転がる。
上空からヨハネが猛スピードで降りてきてユディトを蹴りつけたのだ。
ユディトが石畳に寝そべりながら宙に浮くヨハネを睨みつける。
「何するんだ。ヨハネ!」
アンジェロが叫ぶと、
「ロンドンでの仕返し。ボクをコケにし、サライに同じことをしたから」
ユディトが、頭を抑えながら呻く。
「たかが十二使徒の一匹が」
ヨハネが手のひらを上に向け指を滑らかに動かして、彼女を挑発した。
「来いよ、ユディト。バスケットは地面に置いてもいいんだぞ。もともとヨハネ様は強いのに、さらにお前が不利に―――っ危っね」
ユディトが、バスケットから頭部をいくつかこぼしながら空に舞い上がりざま剣を振るう。
そして、二人は北へと消えていった。
呆然と見送っていると、ムンディが近寄ってきてアンジェロを小道へと強引に連れて行こうとする。
「触るなって!」
その手をはねのける。
「ああ、何もかもが上手くいかない」
アンジェロは絶叫する。
将来のこと。
いつまで経っても蹴りが付けられない過去のこと。
全く振り向いてくれない好きな女。
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