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第七章
136.殺人事件が起こった家には値が付かないだろうが、葡萄畑には価値がある
しおりを挟む実は、ロンドンのホテルの一室で出会った日からそう思っていた。
レオが続ける。
「お前は昔から思い込んだら引かないところがある。意味不明だったが、オレに謝らせたいのが分かったから、ひとまずそう言った。ピエトロが死んだとき、お前はオレに助けを求めたのか?」
「しらばっくれやがって。何度もかけた」
サライは携帯の発信履歴を見せる。
直近のは三日前。その前は一ヶ月以上前。未成年収容所に入れられたときは使えなかったせいだ。
「証拠だって残っている」
発信履歴の画面を見せると、「一番新しい履歴はオレの番号だが、他は違う」とレオが言った。
サライは確認する。
「え?本当だ。……最後の数字が間違っている」
腹が立つから、登録はしていなかった。
暗記で充分だったからだ。
そして、恐怖で打ち間違えたのだろう。
それを延々とリダイヤルした。
出ないから、コルクボードから紙を引きちぎって握りしめたのだ。
そこからサライは黙り込む。
レオも黙り込む。
だが、そのうち「で、どうするつもりだ?」と聞いてきた。
「あ?何のことだ?」
「今後のことだ。お前の容疑が晴れた今、ピエトロの首が戻ってきたら葬儀を出してやらなきゃならん。オレノ村の家も、あのままにはしておけん。殺人事件が起こった家には値が付かないだろうが、葡萄畑には価値がある。だが、相続するには金がいる」
「手放さなきゃならいのか?嫌だ!」
いつも距離感があった祖父だが、サライが幼い頃は葡萄畑で遊ばせながら作業をしていた。
つまり、思い出の場所。
それが相続できなければ国のものになる?
もしくは他人の手に渡る?
「葬式のやり方だって分かんねえよ。じいちゃんの首が戻ったらオレノ村の神父に連絡すればいいのか?胴体の方は警察にあるだろうから、引き取りに行かねえと」
「家は相続したい、葬式は出したい。そういうことだな?なら、オレに任せろ」
「どうしてそこまでする?」
「師匠だからだ。不肖の弟子のな」
「元だろ。だったら、現世では僕の何なんだ?関係性が変わってひょっとして……父親だったりするのか?」
サライの問いに、レオはしばらくの間を置いて「違う。全くの他人だ」と言った。
その答えに、心がザラッとする。
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