上 下
135 / 196
第七章

136.殺人事件が起こった家には値が付かないだろうが、葡萄畑には価値がある

しおりを挟む


 実は、ロンドンのホテルの一室で出会った日からそう思っていた。

 レオが続ける。


「お前は昔から思い込んだら引かないところがある。意味不明だったが、オレに謝らせたいのが分かったから、ひとまずそう言った。ピエトロが死んだとき、お前はオレに助けを求めたのか?」

「しらばっくれやがって。何度もかけた」


 サライは携帯の発信履歴を見せる。

 直近のは三日前。その前は一ヶ月以上前。未成年収容所に入れられたときは使えなかったせいだ。


「証拠だって残っている」

 発信履歴の画面を見せると、「一番新しい履歴はオレの番号だが、他は違う」とレオが言った。

 サライは確認する。

「え?本当だ。……最後の数字が間違っている」


 腹が立つから、登録はしていなかった。

 暗記で充分だったからだ。

 そして、恐怖で打ち間違えたのだろう。

 それを延々とリダイヤルした。

 出ないから、コルクボードから紙を引きちぎって握りしめたのだ。

 そこからサライは黙り込む。

 レオも黙り込む。


 だが、そのうち「で、どうするつもりだ?」と聞いてきた。


「あ?何のことだ?」

「今後のことだ。お前の容疑が晴れた今、ピエトロの首が戻ってきたら葬儀を出してやらなきゃならん。オレノ村の家も、あのままにはしておけん。殺人事件が起こった家には値が付かないだろうが、葡萄畑には価値がある。だが、相続するには金がいる」

「手放さなきゃならいのか?嫌だ!」


 いつも距離感があった祖父だが、サライが幼い頃は葡萄畑で遊ばせながら作業をしていた。

 つまり、思い出の場所。

 それが相続できなければ国のものになる?

 もしくは他人の手に渡る?


「葬式のやり方だって分かんねえよ。じいちゃんの首が戻ったらオレノ村の神父に連絡すればいいのか?胴体の方は警察にあるだろうから、引き取りに行かねえと」

「家は相続したい、葬式は出したい。そういうことだな?なら、オレに任せろ」

「どうしてそこまでする?」

「師匠だからだ。不肖の弟子のな」

「元だろ。だったら、現世では僕の何なんだ?関係性が変わってひょっとして……父親だったりするのか?」


 サライの問いに、レオはしばらくの間を置いて「違う。全くの他人だ」と言った。


 その答えに、心がザラッとする。
しおりを挟む

処理中です...