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第八章
171.たくさん……人が殺されていて
しおりを挟むそして、肺中の空気を押し出すような長いため息。
「じゃあ、出かけなくては」
よろめきながらアレッサンドロがベットから立ち上がろうとする。
喋っているときは、調子が良さそうに見えたが、実はそこまでではなかったようだ。
「こんな状態でどこに行くって言うんです?」
「会いたい方がいるんだ」
窓を閉じていても、サイレンと救急車の音が絶え間なく聞こえてきていた。
携帯を見れば、あちこちでドメニコ会修道士が首を切られて殺されたニュースが上がっている。
「フィレンツェに第一級戒厳令。警察官以外の外出は禁止という命令が出ています。たくさん……人が殺されていて」
ユディトが修道士殺しをしていることを知らないのだから、アンジェロはなんとか表現をぼやかした。
「そう。人がたくさん」
壁に手を着いて立ち上がったアレッサンドロが呆けたように天井の一点を見つめる。
薬の効果が薄れてきたのか、胸のあたりを掴んで掻きむしり始めた。ひどくしんどそうだ。
ひとまずベットに座らせた。
アレッサンドロは、ハアハアと胸で息をしている。
「なんと……してでも、伺わな……くちゃ」
無理に立ち上がろうとして、アレッサンドロが昏倒。
その瞬間、電話が鳴った。発信者の名前は、
「―――父さん」
まるで、盗聴されていたかのような絶妙なタイミングだ。
「出て。そして、変わってくれ」
床を這ってベットの縁をアレッサンドロが掴む。
あまりの気迫に断りきれずに通話ボタンを押すと、
『やあ。アンジェロ。電話をとってくれてありがとう。ロレンツォだ』
と変わらぬ声が響いた。
数日前に、思いっきり拒絶してやったのに、父親は何もなかったかのような態度を取ってくる。
『アレッサンドロのところにいるんだろう?話がしたいから変わってくれないか。それと、ビデオ通話に切り替える』
床に横たわるアレッサンドロは、ロレンツォの声がする携帯を怯えを含んだ目で見ている。
「アンジェロ。頼む。オレの身体を起こして」
薬の効果が急激に薄れてきたのか、身体を支える力すら少なくなってきているようだ。
アレッサンドロをベットの縁にもたせかける。黙っているとずり落ちてしまうのでアンジェロはアレッサンドロを片手で抱いて支え、もう片方の手で彼が見やすい位置で携帯を掲げた。そして、自分は映らないよう携帯の角度を少し変える。
画面の中は執務室。椅子に座っていたのは死神だった。
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