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第八章
177.心の底では嬉しかったんだ。ドメニコ会派の修道士が殺されていくことが
しおりを挟む「ああ。過去の記憶を持つオレよりも優れた絵描きなんだと。だから、選ばれたんだと。豪華王ロレンツォは、芸術家の庇護者だったからいわゆる、その界隈の神様って存在。俺からしたら、彼に認められた者は神の子って感覚だったからさ」
「俺からしたら、アレッサンドロさんの方が、神様なんですけど。それに、俺、アレッサンドロさんみたいに上手く絵を描けません」
「いいや。君の絵はまだまだ粗いし拙い部分はあるが、余りある凄みがある。神に選ばれた神の子の正体を知りたかったな」
叶わぬ思いだと自覚したのか、アレッサンドロは「さあて」と雰囲気を切り替えるような声を出す。
「アンジェロ。ムンディ。オレが絵を描き終えるまで廊下に出ていてくれない?」
「描くところを見せてくれないですか?俺、アレッサンドロさんから学びたいことがたくさんある。こんな気持ち、初めてなんです」
「オレはもうそこまで時間が残されていないから絵のことは教えてはやれない。そのお詫びとしてあげるよ。この部屋ある物一式」
アンジェロは頷けなかった。
「なあ、頼むよ。この絵は大切な相手に捧げるラブレターみたいなものだから。そういうのってこっそり描くべきだろう」
そこまで言われて、ようやく納得する。
「解りました」
「終わったら、今度こそ出かける」
「絵なら、俺が父さんに届けます。なんとかやってみます」
「いや、違うんだ。描いた絵を囮にしてユディトと接触を計る。そして、責任を取らせる。彼女はドメニコ会修道士を大勢殺しているだろうから」
アンジェロは驚いた。隣りにいるムンディも瞼を高速で瞬かせている。
「知ってたんですか?メリージはアレッサンドロさんは全然、外の情報は得ていないって」
「年明けからずっとこの部屋に引きこもっていたから、世の中で何が起こってるかは知らない。でも、ユディトと一緒に暮らし始めて、彼女が何か隠しているのはすぐに分かった。オレに告げずに夜中に外出していることも、そのたびに増えていく顔や身体のひび割れもね。これでも、元絵描きだからどういう身体の動きをしたら、どの程度のダメージとなるかわかるから、おそらく彼女は連日連夜、剣を振り回しているのだろうと。決定的だったのは、ドレスについた血のシミをユディトが洗っているのを見てしまったときだね。ひび割れや剥落を避けるあまりに、小動きなって返り血を避けきれなかったんだと思う。殺された修道士たちは皆、首無しのままかい?」
「はい。一つも見つかっていません」
「そう。ユディトは本当に絵のストーリーに忠実だね。絵描き冥利につきる」
「問いただして止めるべきだったのでは?大切な相手なんでしょう?」
アレッサンドロがしばらく沈黙した後、静かな声で言った。
「アンジェロ。今から、オレは最低なことを言う。心の底では嬉しかったんだ。ドメニコ会派の修道士が殺されていくことが。ユディトも、ロレンツォ公もオレの下劣な気持ちを分かっている」
あっけに取られていると、アレッサンドロがアンジェロとムンディを廊下に追い出しにかかった。
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