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第九章
180.鈍いな!そこがユディトの根城だからだよ
しおりを挟む『サライッ!俺、今、マルテーリ通り手前なんだ。そこで、アレッサンドロさんが意識を失った』
受話器から悲鳴に近いアンジェロの声が聞こえてくる。
携帯片手にパソコンに向かっていたサライの画面には、すでにその付近の詳細な地図が表示されている。
ここ数日、ヨハネと交代でずっと盗聴作業に勤しんでいた。
アンジェロとアレッサンドロの長い一人語りを聞くために、ロレンツォとレオの携帯にも盗聴アプリを設定してやった。ロレンツォは執務室で、レオはどこかの部屋で聞いていたことだろう。
『ユディトさんに会いに出かけたみたいなんだ。でも、肝心の場所が俺には分からない』
「推測できるか?ヨハネ」
地図を一目見てから、「マルテーリ通り」「マルテーリ通り」と部屋を行ったり来たりしていたヨハネは、「おお!わかったぞ」と、手を打つ。
「やっぱりヨハネ様は天才だ。アンジェロ!迎えに行くからそこで待っておけ」と携帯に向かって叫び、いきなり椅子からサライを引き剥がした。
気づけばもう石の階段の踊り場にいた。
「どこだ、ここ?」
「とある教会。もたもたしていたら、僕ら、マエストロとロレンツォ公に館に閉じ込められるところだったんだぞ」
「何で?」
「見せたくないからだよ。真実を」
目の前には壁画あって、帯になって入ってくる月の光に照らされていた。
けばけばしい虹色の羽を持つ天使が、青いショールを羽織っている女に恭しく頭を下げているシーン。
誰の絵なのかは知らないが、聖書の有名シーンということは一目で分かる。
「『受胎告知』か」
「そ。フラ・アンジェリコのな」
「そいつの名前は、サン・マルコ修道院に行ったときにおっさんが。で、ここはどこなんだ?」
「誰がどう見ても答え丸わかりなのに、場所を聞いてくるお前って一体??せめて、十二世紀から十八世紀ぐらいまでの歴史はマジで勉強しておけよ。ここは、サン・マルコ美術館。元修道院でドメニコ会派の本拠地」
「あ、そういやあ、おっさんと出かけた時に軽く調べてはいたわ。確か、サヴォナローラが寝起きしていたって」
「そう。お前がマエストロと行ったのは、移転先」
「つまり、ここはドメニコ会派にとって聖地みたいな場所ってことか」
ヨハネは真ん中に庭が在る外廊下に出ていく。眼の前にある鎖と鍵で頑丈に閉められた扉を指さした。
「この先に閉鎖された地下礼拝堂がある。研究目的でしか開かれることがないから、ほぼ無人だ。今から、そこに行く」
「何で??」
「鈍いな!そこがユディトの根城だからだよ。考えても見ろ。ドメニコ会派の聖地の地下に獲物を隠すだなんて意地が悪すぎだろ。いかにもやることが賢婦って感で」
「どうやって入る?」
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