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第ニ章 ベリル

50:新人食いのアーサーって呼ばれているって本当?

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やってきたのは、チェインだ。
「分かってるって」
「はいはーい」
と二人は生返事。
そして、ふっとアダムの方が振り返ってベリルを見た。
「ねえ、聞いてもいい?アーサー様って、どんな人?」
ベリルは、アーサーの日常を思い浮かべる。
いつも悲しそう。
本当にたまにだけど、笑顔を見せる。
そのとき、オレはすごい嬉しくなる。
そう伝えようとしていると、アダムが先に話し始めた。
「新人食いのアーサーって呼ばれているって本当?」
「馬っ鹿っ!!」
チェインが、すかさずアダムの頭を叩く。
「ベリルが、こんなことを聞かれたってアーサー様にバラしたらどうなる?マダムに、お宅のオールドドメインがこんなことを言ってますよって、告げ口されるぞ」
「新人食いってどういう意味だ?」
ベリルが聞くと、フフフッとアダムとスティーブが顔を見合わせて笑い始める。
「知りたい?じゃあ、ロベルトのところに行く?」
アダムがベリルの腕を引っ張り、スティーブがチェインを抑え込んだ。
「お前ら止めろ!」とチェインは叫ぶが、二体の蛮行は止らない。
「こっち、こっち」
廊下で声を潜めてアダムがベリルを呼ぶ。
隣りの部屋の扉が開いていて、ソファーに座ったアーサーと女性が神妙な顔をしていた。
「早く!」
アダムは二階に続く階段を駆け上っていく。仕方なく、ベリルもそれに続いた。
アダムは、とある部屋の前で止って、姿勢を低くして扉を細く開けた。
「あ~あ、食べられ終わっちゃった」
ベリルがアダムに習ってしゃがんで覗き込むと、ちょうど腰にタオルを巻いた中年男性が、バスルームに向かって歩いていく後ろ姿が見えた。
ベッドでは、青年が一人放心したように横たわっている。
「ロベルト、ロベルトッ」
アダムが小声で囁くと、ロベルトと呼ばれた青年が身体を起こした。
腰にタオルを巻いて、やってくる。
濃い茶色の髪に、鋭い目つきのロベルトは、「覗くなって言ってんだろ」と扉を閉めようとし、ベリルの存在に気付いた。
「お前……」
ロベルタからは、汗と今まで嗅いだことのないようなすえた匂いがした。
半裸の男が表れて、ベリルは動揺する。
「あ、オレ、ベリル」
「知っている」
「何で?」
ロベルトはしゃがみ込んで、ベリルと同じ視線の高さになった。ベリルに向かって伸ばしてきた手の甲には、数字の羅列が刻印されている。つまり、彼はベリルと同じドメインだ。
ロベルトの口の端に邪悪な笑みが広がっていた。
「さっきシャワーを浴びに行ったのは、この館の主人か?彼と何していたんだ?」
問いかけると、ロベルトは顔を近づけて来て「いいこと」と低い声で囁く。
「アダム!ベリル、どこに行ったの?」
階下から女性に声がした。
「マダムが探している。戻ろう、ベリル。じゃあね、ロベルト」
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