君の影

雪月花「ユキツキハナ」

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君の影

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雨上がりの夕焼け空に白い月が浮かぶ。
私は走りながらあなたの影を探してる。

雨上がりの澄んだ空が水溜まりに映り込む。
夢中で駆ける足を空に残して。

緋の色に染まる空へと想いを焦がす。

夕日に透けて綺麗だと思った栗色の髪に。
向けられる真っ直ぐな笑顔に。
私はあなたに想いを馳せる。

嬉しくて幸せなのはきっとあなたが隣にいてくれるから。
こんなにも切なくて胸が苦しくなるのはあなたがそうさせるから。

この気持ちを認められたならどんなに良いだろう。
ただ「好き」と言えたなら、心はすぐに楽になれるのかな。
想いを伝えられたなら、あなたは変わらずその手を握り返してくれますか?

立ち止まって藍色の混ざる夕空を見上げた。
押し込めた想いが涙に滲みそうになる。

「沙月っ」
呼ぶ声に直ぐに振り向けずにいると目の前にあなたの顔があった。
走ってきたらしく少し息が荒い。
「いきなりごめんな。後ろ姿が見えたから…」
息を切らしながら必死に話しかけてくる様子が何だか可笑しくて思わず笑みがこぼれた。
あなたは一瞬キョトンとした顔をして直ぐに私の瞳を覗き込む。

「なんかあった?」
「ううん、何でも」
何でもないよ、夏葵。
ただ、好きと言いたかっただけ。

何も言わないでいると
「一緒に帰ろう」と夏葵は右手を差し出してくる。
今直ぐにでも泣き出したいような気持ちを押さえつけて左手を夏葵の右手に預けた。

握る手から伝わる体温があたたかくて優しくて、また胸が苦しくなる。
私は夏葵が好きなんだ。
だから私をもう少しだけ臆病のままでいさせてくれますか?

まだ君と手を繋いでいたいから。
君と影を重ねていたいから。

藍色に染まりかけた空に二つの影が重なった。
繋いだ手に宿る体温を分け合いながら二人歩き出す。
焦がした想いはそっと胸に残したまま。










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