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case1 A区――地図の順に辿ると、一人消える。
第二章 堀詰団地|エレベーターは13階へ行く
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これは、福岡県のとある政令指定都市A区を地図順に辿る記録である。
順路は偶然ではない。入口から出口へ、通過点から通過点へ。
読み進めるたび、同行者は減る。
注意:章と章の間に挟まる《移動記録》は、必ず飛ばさずに読まれたい。
そこで人数が調整される。
堀詰団地のエレベーターには、押してはいけない場所がある。
それは……、 「13階」だ。
公式には、この団地は12階建てである。
団地内の案内図も、管理書類も、消防計画もすべてそうなっている。
……だが、夜遅くに1人でエレベーターに乗ると、
操作盤に薄く削れたような数字が見えることがある。
――――――13。
最初からなかったのではない。消そうとした跡だ。
私がそれを見たのは、仕事帰りのときだった。
時刻は午前0時を少し回った頃。
住民の多くは眠り、廊下の照明も半分落とされている。
同行者と共にエレベーターに乗り、普段のように12階のボタンを押した。
……確かに押した。扉が閉まり、上昇が始まる。
――10。
――11。
――12。そこで止まるはずだった。
……だが、止まらない。
階数表示も消えない。代わりに別の光が灯った。
――――――13。
耳が詰まるような感覚に襲われる。
高度が上がった時の詰まりではなく、どこか建物の中へ沈んでいく感覚だった。
……やがてモーター音が遠のき、代わりに人の気配が増えていく。
―――扉が開いた。そこは、見覚えのある廊下だった。
床材も、壁紙も、非常灯の位置も同じ。
……だが、天井が低い。圧迫感があり、空気も古く感じる。
そして、なぜかドアの数が1つ多かった。
表札には、見慣れた名字が並んでいる。数年前に引っ越した住人。
亡くなったと聞いた老人。同じ棟に確かにいた人たちだ。
……しばらく歩くと廊下の奥に、自分の部屋番号を見つけた。
『1307』。……私の部屋は、『1207』だ。
違和感を覚える前に、複数のドアが同時に開いた。
中から顔を出した人々が、私のほうをじっと見ている。
全員、どこか安心したような表情をしていた。
「……あ、これで足りた」
誰かが言った。
「全員揃ったな」
……その瞬間、理解した。
この階は、空室ではない。
欠員を埋めるための階だ。
団地という構造物は、人を収める箱である。
引っ越し、死亡、失踪。人が減れば、どこかで数が狂う。
堀詰団地では、その歪みを13階で吸収している。
……私は踵を返し、エレベーターへ戻ろうとした。
だが、操作盤から階数表示が消えていた。
上下の矢印だけが、脈打つように点滅している。
その背後で、ドアが1つ閉まった。……また1つ。
次々に閉まるドアの音に、どこか自分の居場所が減っていく感覚がする。
焦燥感に満ちた私は必死に非常ボタンを押す。……反応しない。
続けて押すも、非情にもボタンは反応を示さない。
……そのとき、本来ないはずの13階のボタンが目に入った。
強く押すと、反応しない。
……だが、軽く触れると――、点灯した。
私は指を離し、祈るように待った。
次の瞬間、景色が歪み、エレベーターは急降下した。
再び、耳が詰まるような感覚に襲われる。
……やがてモーター音が遠のき、代わりに扉が開く音がした。
扉が開いたのは、12階だった。
廊下は静かで、いつも通りだった。
時計を見ると、時間はほとんど経っていない。
……後日、管理会社に問合せし、名簿を確認した。
世帯数は、ぴったり合っていた。一人も多くないし、少なくもない。
……だが、その夜から、私の階では一室だけ空室が続いている。
誰も住んでいないはずなのに、夜になると灯りが点く部屋だ。
________________________________________
《移動記録Ⅱ》
団地を出て、坂を下る。下る階段の段数を数え直すと、なぜか一段足りない。
同行は二名。だが、エレベーターの鏡には一人しか映らない。
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順路は偶然ではない。入口から出口へ、通過点から通過点へ。
読み進めるたび、同行者は減る。
注意:章と章の間に挟まる《移動記録》は、必ず飛ばさずに読まれたい。
そこで人数が調整される。
堀詰団地のエレベーターには、押してはいけない場所がある。
それは……、 「13階」だ。
公式には、この団地は12階建てである。
団地内の案内図も、管理書類も、消防計画もすべてそうなっている。
……だが、夜遅くに1人でエレベーターに乗ると、
操作盤に薄く削れたような数字が見えることがある。
――――――13。
最初からなかったのではない。消そうとした跡だ。
私がそれを見たのは、仕事帰りのときだった。
時刻は午前0時を少し回った頃。
住民の多くは眠り、廊下の照明も半分落とされている。
同行者と共にエレベーターに乗り、普段のように12階のボタンを押した。
……確かに押した。扉が閉まり、上昇が始まる。
――10。
――11。
――12。そこで止まるはずだった。
……だが、止まらない。
階数表示も消えない。代わりに別の光が灯った。
――――――13。
耳が詰まるような感覚に襲われる。
高度が上がった時の詰まりではなく、どこか建物の中へ沈んでいく感覚だった。
……やがてモーター音が遠のき、代わりに人の気配が増えていく。
―――扉が開いた。そこは、見覚えのある廊下だった。
床材も、壁紙も、非常灯の位置も同じ。
……だが、天井が低い。圧迫感があり、空気も古く感じる。
そして、なぜかドアの数が1つ多かった。
表札には、見慣れた名字が並んでいる。数年前に引っ越した住人。
亡くなったと聞いた老人。同じ棟に確かにいた人たちだ。
……しばらく歩くと廊下の奥に、自分の部屋番号を見つけた。
『1307』。……私の部屋は、『1207』だ。
違和感を覚える前に、複数のドアが同時に開いた。
中から顔を出した人々が、私のほうをじっと見ている。
全員、どこか安心したような表情をしていた。
「……あ、これで足りた」
誰かが言った。
「全員揃ったな」
……その瞬間、理解した。
この階は、空室ではない。
欠員を埋めるための階だ。
団地という構造物は、人を収める箱である。
引っ越し、死亡、失踪。人が減れば、どこかで数が狂う。
堀詰団地では、その歪みを13階で吸収している。
……私は踵を返し、エレベーターへ戻ろうとした。
だが、操作盤から階数表示が消えていた。
上下の矢印だけが、脈打つように点滅している。
その背後で、ドアが1つ閉まった。……また1つ。
次々に閉まるドアの音に、どこか自分の居場所が減っていく感覚がする。
焦燥感に満ちた私は必死に非常ボタンを押す。……反応しない。
続けて押すも、非情にもボタンは反応を示さない。
……そのとき、本来ないはずの13階のボタンが目に入った。
強く押すと、反応しない。
……だが、軽く触れると――、点灯した。
私は指を離し、祈るように待った。
次の瞬間、景色が歪み、エレベーターは急降下した。
再び、耳が詰まるような感覚に襲われる。
……やがてモーター音が遠のき、代わりに扉が開く音がした。
扉が開いたのは、12階だった。
廊下は静かで、いつも通りだった。
時計を見ると、時間はほとんど経っていない。
……後日、管理会社に問合せし、名簿を確認した。
世帯数は、ぴったり合っていた。一人も多くないし、少なくもない。
……だが、その夜から、私の階では一室だけ空室が続いている。
誰も住んでいないはずなのに、夜になると灯りが点く部屋だ。
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《移動記録Ⅱ》
団地を出て、坂を下る。下る階段の段数を数え直すと、なぜか一段足りない。
同行は二名。だが、エレベーターの鏡には一人しか映らない。
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