うっかり死んだ大学生、推し小説の悪役令息に転生する!!

江島梓

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第三話 推しとの対面

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食事を済ませ服を着替えると、俺は早速仕事へ向かうことにした。


宮中には俺の推し、蕭天宇がいる。朝イチで推しの顔を拝めば、公務も頑張れそうである。



幸いなことに、現在の俺にはこの体の本来の持ち主、沈明星の記憶がちゃんと残っている。




その記憶を頼りに宮中の中へ入り、仕事部屋に行く前にまず軍の訓練場に行った。




確か小説の中では、文官の明星は武官を野蛮な者たちと称し、訓練場の近くに行くことすら嫌がってたはずだ。



(絶対に俺嫌われているじゃん。嫌われない訳ないんだよ)



俺は少し不安になりながらも、訓練場の門をくぐり中へと入っていった。




朝早いのにも関わらず、そこでは武官たちが手合わせをしていた。



(おお、さすが!やっぱり武官はかっこいいねぇ!)


きょろきょろと見渡していると、不意に訓練場の奥の方にいた、背の高い男と目が合った。


遠くからでもわかるほどの存在感。俺の推し、蕭天宇将軍だ。




(うおおおっ!!こっち見てる!!やばいめっちゃ男前!)


彫りの深い顔立ちに意志が強そうなきりっとした眉。
漆黒の髪と瞳は、彼に落ち着いた雰囲気を与えていた。



「沈殿、こちらに何か御用か?」


「い、いいえ。ただあなたに会いたいなと……」



推しを目の前にして、緊張で声が上手く出ない。笑おうとするも、悪役令息だからか笑い方が明らかに感じ悪い。



「私に会いたい、だと?また侮辱しに来たのか?」



彼の言葉に俺は思わず頭を抱えたくなった。やっぱり沈明星は嫌がらせをしていたのだ。



(俺の印象マイナスから始まるのか)




バッドエンドを回避するためにも、天宇からの好感度を上げていくことは必須だ。



まずは相手の好みから知ることが大切だ。



「蕭将軍って好きなものとかありますか?」


「いきなりなんだ」


「座右の銘は?」



「なぜそれを訊く?」



天宇はなかなか答えてくれない。諦めが悪いという自覚がある俺が、さらに尋ねても教えてくれなかった。



「おい、沈殿を外へお連れしろ」


「御意」


とうとう彼はうんざりしたのだろう、なんと部下に命じて俺をつまみ出してしまった。




「うわああぁぁっ!!蕭将軍朝からカッコいいー!!」



引き摺られながらも大事なことだけは、魂を込めて叫んだ。彼の顔が引き攣り口をへの字にしているのが見えたが、俺の推しはそんな表情でも男前だった。




俺は幸福感に包まれながら、訓練場から引き摺り出された。













「……あれは何だったんだ?」




引きずられていく沈明星を見送りながら、蕭天宇は思わず眉間に皺を寄せた。



つい先日騎馬民族の戦に関する意見の食い違いから、彼と明星はかなり揉め公衆の面前で罵倒された。


それにも関わらず訓練場にのこのことやってきて、会いにきたというのは一体どういうつもりなのか。



(しばらく警戒しておいた方が良さそうだ)


















「あー将軍かっこよかった!!眉間に皺を寄せた顔がたまんないよ」


訓練場から摘み出された俺は、とりあえず自分の執務室に向かい、大人しく公務をこなすことにした。



しかし机に向かい文書を読んでいても、頭の中は将軍でいっぱいだった。


彼のあの表情、ちょっとした仕草を思い出すだけで、悶絶し机をバシバシ叩いてしまった。




「あの明星様……..医官を呼んだ方がよろしいですか?」



そう恐る恐るといったふうに話しかけてきたのは、明星の部下の馮浩然だ。彼は優秀な文官だが、その才能に嫉妬した明星によって濡れ衣を着せられたキャラだった。




浩然はその後主人公によって濡れ衣を晴らしてもらい、そこから明星に復讐するためにその頭脳をフル活用するはずだ。






(彼にも丁寧に接しないとな。ざまぁへの第一歩になってしまう)

そう考えながら俺はにっこりと笑い、できる限り怖がられないようにした。


「なんで?どこか具合でも悪いの?」


「いえ、いつもと明星様の様子があまりにも違って……。何かあったのではないのかと」



未知のものに対するような眼差しで見られ、俺は鼻先を掻いた。


「いやー特別なことは特にはないよ?だけど今朝は憧れの人に会えたから嬉しくて」


「その憧れの人とは?」


「将軍だよ!蕭天宇将軍!!」


よくぞ聞いてくれた、と思い机から身を乗り出して彼の魅力を語ろうとしたが、何故か浩然はあんぐりと口を開けていた。



「…….何か問題ある?」



「仲が極めて悪いと伺っていましたが」


浩然の言葉に俺は思わずため息を吐きそうになった。やはり俺は推しに嫌われる運命なのかもしれない。


「今は違う!……..今日からは!私は彼を勘違いしてたんだ。あれほど立派な人はなかなかいない。まさに男が惚れる男だよ!!」



「そうですか」


俺が熱弁を振るっているのを、浩然は生暖かい眼差しで見てきた。



「なんたって彼は…….」



「明星様、その辺りにしないと朝議に遅れてしまいますよ」


「あっ!!」



浮かれていてすっかり忘れていた。俺は慌てて支度をすると、朝議が行われる大栄殿へと向かっていった。
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