うっかり死んだ大学生、推し小説の悪役令息に転生する!!

江島梓

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第四話 主人公の登場

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大栄殿に駆け込むと、そこにはすでに文武百官が揃っていた。中には当然蕭将軍もいる。


「いつもは一番乗りなのに、今日はぎりぎりだな」



ちらりとこちらを見る蕭将軍の冷たい眼差しに、俺は泣きたくなる。



しかし推しが俺のそばにいるのだ。このチャンスを逃すわけにはいかない。


「また会えて嬉しいです」


にこにこしながらそう言った途端、その場の空気が凍りつき、俺の前に並んでいた人たちが全員振り返った。


「今何とおっしゃいましたか?」


俺の目の前に立つ初老の文官が怯えるような眼差しでこちらを窺ってきている。


「あの、だからまた会えて嬉しい、と」

その瞬間その場にいた者たちが声にならない悲鳴を上げ、絶望的な表情を浮かべた。



「簫将軍はもう駄目かもしれない」


「あの沈殿に狙われたら一族皆殺しも覚悟しなければ」



「ああなんと恐ろしい」


ひそひそ声にしては大きい声で皆が話している。もうそれ悪口だろ、と内心ツッコミつつも俺は明星がどれほど忌み嫌われていたのか、ひしひしと感じた。


(ここまで思われるってどれほど非人道的なことをしてきたんだよ!!)


絶望しながらも簫将軍を窺うと、彼の眉間にはくっきりと皺が刻まれていた。


「簫将軍、俺はあなたに危害を加えるようなことをするつもりはありません。ただ仲良く───」



「.......仲良くなりたい相手の母親を人質に取るような真似をして。それがあなたのやり方なのか?」


彼の声に感情は一切載っていなかった。だからこそその言葉がずっしりと胸にのしかかってくる。




(あぁっ!!本当にこいつの人生はやってらんないよ!俺は既に詰んだも同然じゃん)




しかしここで下手な答え方をすれば、簫将軍の逆鱗に触れるだろう。どう答えるべきか、と頭をフル回転させていると、皇帝の訪れを告げる鈴の音が広間に響いた。



大栄殿にそろう文武百官が一斉に頭を下げる様子は、圧巻だった。


(これだけ大勢の人に頭を下げられるなんて、気持ちいいだろうなあ)



「面を上げよ」


凛とした声が響き俺はそろそろと顔を上げ、声の主を眺めた。



(うわあ流石は皇帝!国一番の美形と言われるのも頷ける顔だな)


玉座に腰かけゆったりと皆を見渡す皇帝・賀弘文はすっきりとした顔立ちに、涼しげな目元を持つ青年だった。



確か年齢は二十五歳だったはずだが、その年齢にしては落ち着いており、しかしそれと同時に若者らしい溌溂さも併せ持っていた。




(俺より少し年上くらいなのに、とても立派だ)



勝手に一人で納得していると、不意に皇帝がさっと手を上げ誰かを広間に招いたようだった。



「今日は皆に会わせたい者がいる。……..朕の命の恩人だ」



その瞬間、俺はこの場で小躍りしそうになった。この流れでいけば、ここで現れるのは間違いなく主人公の林瑞寧だ!!





(来い!!瑞寧!ようやく俺の推しカプが揃うぞおおおっ!!)




わくわくしながら眺めていると、護衛を伴って一人の少年が広間に入ってきた。



色素の薄い髪と瞳を持ち、その瞳は大きくきらきらと輝いている。少し華奢な体つきは庇護欲を刺激されそうだ。唇にふんわりと笑みを浮かべたその愛らしく、美しい少年こそが林瑞寧だ。




(ザ・受けって感じの見た目だ。本当に万人ウケしそう!絶対に皇帝から『細いな、ちゃんとご飯を食べているか?』とか訊かれてそう)



少し恥ずかしそうに微笑みながら、瑞寧は皇帝の傍へと歩んでいく。


「皆に紹介しよう。彼は林瑞寧だ。出先で怪我をした私の手当をしてくれた、命の恩人だ」



そう言いながら瑞寧の肩を抱き寄せる皇帝の目は、完全に愛おしい者を見る目をしていた。





(ああっ……なんて尊い。俺の推しカプが並んで微笑み合ってる。もうこの瞬間を切り取って祭壇に飾りたいレベル)



拝みたくなるのを必死に我慢していると、皇帝が口を開いた。


「……朕はこの者を後宮に入れ、妃にしようと思う。異論はあるか」



その瞬間その場にいた者たちは一瞬ぽかんとした。
俺は小説でその流れを知っていたが、そうでなければ驚くのも無理はない。



(まあぶっ飛んではいるよねー)



俺はそう思いつつ呑気に推しカプを拝んでいたが。



「陛下……流石にそれはいかがなものかと。男の妃など前例がございません」


そう青ざめた顔で進言するのは宰相である。



俺は宰相の言いたいこともちゃんと分かる。まず身分差があるし、それに加えて瑞寧は男だ。


皇帝の仕事には、当然後継を残すことも含まれている。そのことを考えると反対するのも当然だ。




だが俺は推しカプが幸せになるのを見届けるために、なんとしてでも瑞寧を後宮に入れなければならない。




俺は前世で二人のいちゃラブ生活を見る前に、死んでしまった。



(今回こそは絶対に!!無念を晴らす!)



そう俺が心の中で拳を握りしめていると、不意に皇帝に名前を呼ばれた。



「沈明星、お前はどう思う」



「えっ、俺?俺……いえ私は陛下のお考えに賛成です」
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