うっかり死んだ大学生、推し小説の悪役令息に転生する!!

江島梓

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第五話 お茶会with 推し

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「私は陛下のお考えに賛成です」

俺がそう言った瞬間、蕭将軍は目をひん剥いてこちらを見てきた。男前は目をひん剥いても男前だ。




「後宮に入れる、入れないに関わらず、まず陛下の命を助けてくださった方には、丁寧なもてなしをするのが普通でしょう」
 

俺の言葉に何人か頷きそうな者もいるが、相変わらず大多数は納得していなさそうだ。




「しかしゆくゆくはそうするにしても、まだ後宮に入れる、と決めるのはいささか早急すぎる気も致します。瑞寧様もこちらに慣れるのには時間が必要でしょう」






皇帝はそこではっとしたような顔をした。どうやら瑞寧を手放したくない、という気持ちが勝り、彼のことを慮るのを忘れていたようだ。





「……確かに朕も急ぎすぎた。彼を後宮に入れることについては、もう少し検討した方が良いかもしれぬ」




宰相の方を見れば、彼はどこかほっとしたように息をついていた。とりあえず瑞寧の後宮入りは延期できたのだ。反対していた彼からすれば、この流れは嬉しいのだろう。





(まあ俺は最終的には瑞寧には後宮に入ってもらうつもりだけどね!!)




宰相には悪いが俺には俺の目的がある。






俺がせっせと先のことを考えているうちに、気がつけば朝議は終わっていた。




「沈殿、何をぼんやりしている」




蕭将軍に声をかけられて、俺はようやくはっとした。




「いや、ちょっと考え事を…….」



「また悪巧みか?」



「違いますよ!!」




そこだけは全力で否定すると将軍は鼻を鳴らし、すっと俺の耳に口元を寄せてきた。



「どういうつもりだ沈明星」


「えっ……」



彼の質問に戸惑い固まってしまうと、彼に腕を掴まれた。


「沈殿に内密に話したいことがある。この後私の執務室に来ていただけるか?」



口調は丁寧だが有無を言わせぬ響きがあった。彼の圧に負け、俺は大人しくついていくことにした。





蕭将軍の執務室は想像していたよりもずっと質素で、しかしそれでいて整然としていた。



将軍は俺に座るよう手で示すと、口を開いた。



「沈殿に聞きたい。何故瑞寧様の件について賛成した?あなたの計画は崩れるのでは?」



「計画?」


「自分であれだけ根回ししようとして忘れているのか。あなたの妹御の入内のことだ」



「あー……」



推したちの登場ですっかりそのことについては忘れていた。俺は頭を掻きながら、素直に将軍に話すことにした。



「その件はなしで」


「えっ?」



思っていたよりもあっさりと言う俺に、彼は怪訝そうな顔をした。



(そりゃあれだけ権力にこだわっていた明星が、いきなり入内の件はなしでって言ったら驚くだろうけどさ)




「出世とかもういいかなって思ったので……。それに妹の翠麗も下手に妃にして皇后の座を争わせるより、いい感じの相手と穏やかに暮らした方がいいかと」





俺は推したちの幸せを見届けられればそれでいいのだ。下手に権力争いをして一族皆殺しに遭うよりも、細々とでも穏やかに暮らすのが一番だ。



「…….人が変わったような」


呆然と呟く蕭将軍に俺は曖昧に笑って誤魔化した。


(そりゃあ中身が違うからね)  


「……あなたの考えは分かった。聞きたいことは以上だ」


しばらく思案するような素振りを見せた彼は、それだけ言うと従者を呼んで、茶を用意させた。


「呼びつけてそれで終わり、とは申し訳ない。茶でも一杯飲んでから帰るといい」


「えっ?!いいんですか?」



推しと一緒にお茶なんて、あまりにも幸せすぎる。しかも常に戦時にいるイメージがある蕭将軍の、日常を見られるなんて、二次創作でしかない展開だ。




「ただの茶だ。何故そんな期待に満ちた目で見てくるんだ」


「いや……何というか蕭将軍がお茶を飲むところを想像できなくて」


「私を一体なんだと思っている」


そう言いながらも蕭将軍は従者が運んできたお茶を、手際良く二人分の茶杯に注いでくれた。



ふんわりと茶のいい香りが広がり、とてもリラックスできる。


「いい香り~」


まず香りを楽しんでから一口茶を啜る。お茶の温度がちょうど良くて、ごくごく飲めてしまいそうだ。




推しの手前できる限り上品に振る舞おうとするが、それでも俺は夢中でお茶を味わった。



(ただでさえ美味しいお茶が、推しに入れてもらったことでさらに美味しくなっている!)



俺は心の中で踊りながらお茶を楽しんでいると、蕭将軍が口を開いた。



「私の淹れた茶をなんの疑いもなく飲むのか」


「あっ……すみません。つい美味しくていっぱい飲んじゃいました」



「別にそこを言っているわけではない。以前私が淹れた時、指一本触れずに茶器をひっくり返していたが。
本当に変わったな」



申し訳なさで俺はここから消えたくなるほどだ。そんなことをしていたなんて、謝罪会見を開いても足りないくらいだ。



「その時は本当にごめんなさい。あなたに対してとても失礼な振る舞いをしてしまって……」




「過ぎたことだ、もういい。しかしあなたは気をつけた方がいいだろう。当然自覚していると思うが、あなたは多くの人から恨まれている。適度な警戒心を持っていないと、命を落とす」




彼の言葉に俺はうっかりそのことを忘れていたのだと気がついた。確かにその通りだ。周りから見て俺と明星の違いなどすぐには分からない。



「……ご忠告ありがとうございます」



俺は何故だか居た堪れなくなって、その場を後にした。
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