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第九話 推しとの稽古
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翌朝目を覚ました俺は、すぐに朝食を食べて身支度を済ませると、そのまま軍の訓練場へと向かった。
蕭将軍は今日も朝早くから訓練場で手合わせをしていた。朝日を浴びる蕭将軍はやはり相変わらずカッコよかった。
(なんで朝っぱらからあんなに顔がいいの?俺とかもう目が全然開かないのに)
そう思いつつ蕭将軍のところへと向かっていった。
「将軍おはようございま─────」
彼に挨拶しようとした時、丁度近くで手合わせをしていた武官の木剣が吹っ飛び、俺の方へと向かってきた。
「えっ?」
俺の視界が木剣を捉えた時にはすでに遅く、木剣は俺の頭に命中した。
訓練場にぱこーん、という音が響き、武官たちが一斉にこちらを向いた。
「申し訳ございません!沈様」
木剣の持ち主が走りながらこちらに来て、全力で謝ってきた。彼は体をぷるぷると震わせて、顔色はもはやどす黒くなっていた。
「あの……俺はそんなに気にしてないから。うん。本当に気にしないで」
俺はその武官が気の毒で、なんとか元気づけようとしたが、俺が話せば話すほど彼の顔色は悪くなっていく。
「俺は全然怒ってないよ!ぼうっとしてた俺自身も悪いし」
しかし周囲の武官も若干怯えたような様子で、こそこそと話していた。
「沈様に木剣を当ててしまうなんて……。もうあいつは殺されるかも」
「殺されるだけならまだマシだよ。拷問されて、死んだ方がマシだと思うような目に遭うかも」
否定すればするほど、皆怯えてしまう。俺が困り果ててただおろおろしていると、そばに駆けつけた蕭将軍がやって来た。
「沈殿、怪我はないか?」
「うん大丈夫!平気だよ。全然痛くないし」
話しながら俺は木剣を持ち主に返してやった。彼はまだ泣きそうな顔でこちらを見ていて、流石に気の毒であった。
「そんな顔しないで。こういうことは誰にだってあるからさ!むしろおかげで目が覚めたよ」
「沈殿、それは若干慰めになってないと思うが」
蕭将軍につっこまれ、俺はそれ以上は何も言わないことにした。
「とにかく皆気にしないで!」
これ以上ここにいるのは気まずいため、それだけ言ってそそくさと執務室に行こうとしたが。
「沈殿、せっかくここまで来たからには、私と稽古をしてみないか?」
蕭将軍に稽古に誘われて断れる人が、一体この世には何人いるのだろうか。
俺はまさかの展開に胸が高鳴るのを感じた。どきどきしながらも将軍のそばに行くと、彼は手取り足取り、剣の構え方を教えてくれた。
「そうそう、そうやって握るんだ」
そう言いながら将軍は剣の柄を握る俺の手ごと、包み込むようにしながら、柄を握ってきた。
「うわぁああっ!!」
「嫌なら辞めるが」
「いえ!そんなっ……」
もはや俺の心臓は破裂しそうだった。将軍の体温が伝わってきて、冷静にならなければと頭で分かっていても、うまくはいかなかった。
蕭将軍のいい香りに包まれ、頭がぼんやりとしてしまう。しかも武官たちが何やら話しているのが聞こえてきて、余計緊張してしまった。
「蕭将軍なんか甘くない?」
「わかる。俺たちのことはボコボコにするのに」
その言葉は本人にも聞こえていたのだろう、ちらりとそちらに一瞥をくれると、蕭将軍は口を開いた。
「普段通りやっていたら、沈殿を半殺しにしてしまうだろ」
「……確かに」
何故か皆納得している。俺はそんなにひ弱そうに見えるのかと嘆きつつ、剣をしっかり握りしめようとした時。
「沈殿、何故鼻血を出している?」
「えっ?!」
気づけば俺は鼻血を出してしまっていたらしい。
(興奮しすぎたんだろうなあ……)
まあちょっと拭えばすぐに血も止まるだろうと、軽く考えていた。しかし蕭将軍が懐から手巾を取り出し、わざわざ鼻血を拭ってくれた影響で、俺は余計興奮してしまった。
「将軍、沈様の鼻血が酷くなっています!!」
「なんでだ?木剣の当たりどころが悪かったのか?」
その場にいた人たちが皆あまりにも騒ぎ出したので、俺は恥ずかしいが本当のことを言うことにした。
「あの……興奮しているだけなので、ご心配なく」
その途端皆に不思議そうな顔をされ、俺は穴があったら入りたくなった。
「興奮するほど剣が好きなのか?」
「違います、俺が好きなのは剣じゃなくて将軍!」
これではまるで告白じゃないか、と思いながらも恐る恐る蕭将軍の方を見ると、完全に困惑しているようだった。
「えっ?沈様って男色家?そういう噂聞いたことないけど」
「じゃあ将軍への嫌がらせも、却って好きだからいじめちゃってたみたいな?」
武官たちのひそひそ話に俺は頭を抱えたくなった。
「違う!男色家じゃないって!もっとそういうのを超えた、尊いっていう感情だよ!!」
必死に説明したものの、誰も分かってくれず誤解は進むばかりだった。
「……..沈殿、とりあえず稽古はここまでにしよう」
じっとりとした眼差しで俺を見つめながらそう言う将軍に、俺は絶望しそうになった。
「将軍!違います、俺には下心なんてありません!純粋に人として尊敬しているだけなんです!!決して男色家では……」
「本人がそう言うのなら、男色家ではないのだろう」
淡々と話す彼に俺は首を何度も縦に振った。
「将軍…..!そういってくださって嬉しいです!!」
将軍のその言葉で場は収まったものの、それ以降武官からは薄っすらと疑いの眼差しで見られている気がした。
蕭将軍は今日も朝早くから訓練場で手合わせをしていた。朝日を浴びる蕭将軍はやはり相変わらずカッコよかった。
(なんで朝っぱらからあんなに顔がいいの?俺とかもう目が全然開かないのに)
そう思いつつ蕭将軍のところへと向かっていった。
「将軍おはようございま─────」
彼に挨拶しようとした時、丁度近くで手合わせをしていた武官の木剣が吹っ飛び、俺の方へと向かってきた。
「えっ?」
俺の視界が木剣を捉えた時にはすでに遅く、木剣は俺の頭に命中した。
訓練場にぱこーん、という音が響き、武官たちが一斉にこちらを向いた。
「申し訳ございません!沈様」
木剣の持ち主が走りながらこちらに来て、全力で謝ってきた。彼は体をぷるぷると震わせて、顔色はもはやどす黒くなっていた。
「あの……俺はそんなに気にしてないから。うん。本当に気にしないで」
俺はその武官が気の毒で、なんとか元気づけようとしたが、俺が話せば話すほど彼の顔色は悪くなっていく。
「俺は全然怒ってないよ!ぼうっとしてた俺自身も悪いし」
しかし周囲の武官も若干怯えたような様子で、こそこそと話していた。
「沈様に木剣を当ててしまうなんて……。もうあいつは殺されるかも」
「殺されるだけならまだマシだよ。拷問されて、死んだ方がマシだと思うような目に遭うかも」
否定すればするほど、皆怯えてしまう。俺が困り果ててただおろおろしていると、そばに駆けつけた蕭将軍がやって来た。
「沈殿、怪我はないか?」
「うん大丈夫!平気だよ。全然痛くないし」
話しながら俺は木剣を持ち主に返してやった。彼はまだ泣きそうな顔でこちらを見ていて、流石に気の毒であった。
「そんな顔しないで。こういうことは誰にだってあるからさ!むしろおかげで目が覚めたよ」
「沈殿、それは若干慰めになってないと思うが」
蕭将軍につっこまれ、俺はそれ以上は何も言わないことにした。
「とにかく皆気にしないで!」
これ以上ここにいるのは気まずいため、それだけ言ってそそくさと執務室に行こうとしたが。
「沈殿、せっかくここまで来たからには、私と稽古をしてみないか?」
蕭将軍に稽古に誘われて断れる人が、一体この世には何人いるのだろうか。
俺はまさかの展開に胸が高鳴るのを感じた。どきどきしながらも将軍のそばに行くと、彼は手取り足取り、剣の構え方を教えてくれた。
「そうそう、そうやって握るんだ」
そう言いながら将軍は剣の柄を握る俺の手ごと、包み込むようにしながら、柄を握ってきた。
「うわぁああっ!!」
「嫌なら辞めるが」
「いえ!そんなっ……」
もはや俺の心臓は破裂しそうだった。将軍の体温が伝わってきて、冷静にならなければと頭で分かっていても、うまくはいかなかった。
蕭将軍のいい香りに包まれ、頭がぼんやりとしてしまう。しかも武官たちが何やら話しているのが聞こえてきて、余計緊張してしまった。
「蕭将軍なんか甘くない?」
「わかる。俺たちのことはボコボコにするのに」
その言葉は本人にも聞こえていたのだろう、ちらりとそちらに一瞥をくれると、蕭将軍は口を開いた。
「普段通りやっていたら、沈殿を半殺しにしてしまうだろ」
「……確かに」
何故か皆納得している。俺はそんなにひ弱そうに見えるのかと嘆きつつ、剣をしっかり握りしめようとした時。
「沈殿、何故鼻血を出している?」
「えっ?!」
気づけば俺は鼻血を出してしまっていたらしい。
(興奮しすぎたんだろうなあ……)
まあちょっと拭えばすぐに血も止まるだろうと、軽く考えていた。しかし蕭将軍が懐から手巾を取り出し、わざわざ鼻血を拭ってくれた影響で、俺は余計興奮してしまった。
「将軍、沈様の鼻血が酷くなっています!!」
「なんでだ?木剣の当たりどころが悪かったのか?」
その場にいた人たちが皆あまりにも騒ぎ出したので、俺は恥ずかしいが本当のことを言うことにした。
「あの……興奮しているだけなので、ご心配なく」
その途端皆に不思議そうな顔をされ、俺は穴があったら入りたくなった。
「興奮するほど剣が好きなのか?」
「違います、俺が好きなのは剣じゃなくて将軍!」
これではまるで告白じゃないか、と思いながらも恐る恐る蕭将軍の方を見ると、完全に困惑しているようだった。
「えっ?沈様って男色家?そういう噂聞いたことないけど」
「じゃあ将軍への嫌がらせも、却って好きだからいじめちゃってたみたいな?」
武官たちのひそひそ話に俺は頭を抱えたくなった。
「違う!男色家じゃないって!もっとそういうのを超えた、尊いっていう感情だよ!!」
必死に説明したものの、誰も分かってくれず誤解は進むばかりだった。
「……..沈殿、とりあえず稽古はここまでにしよう」
じっとりとした眼差しで俺を見つめながらそう言う将軍に、俺は絶望しそうになった。
「将軍!違います、俺には下心なんてありません!純粋に人として尊敬しているだけなんです!!決して男色家では……」
「本人がそう言うのなら、男色家ではないのだろう」
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