青春なんて要らないのに

June

28

「もう一回熱、計ろうか」
先生がそう言って、体温計を取り出した。

「あ、自分でやります」
さっき計ってもらったときのくすぐったさを思い出して、慌てて牽制する。

「ええ～そう？ちゃんと計れる？」

俺、子どもじゃないって。

大丈夫です、と答えて体温計を受けとる。
自分でも、さっきより熱下がってる気がする。

俺がしっかりわきに挟んだのを見て、先生が聞いた。

「いつも飲んでる薬とかある？ごめんね、何にも知識がなくて。」
「いやいや、ありがとうございます。薬は自分の部屋にあると思います。このお家に荷物運んだ時に一緒に持ってきたので。それより、すみません。今日休講にしていただいたみたいで…」
「そんなのいいんだよ！もう家族なんだから、気にしないで」

家族、という響きに嬉しくなる。口角が上がるのを隠そうとして、唇を巻き込んだ。
でも、先生にはその心理が見えたらしい。にこっとして、俺の頭を撫でた。

「薬、場所がわかれば僕が取ってくるよ」
「すみません、ありがとうございます」

薬の名前を伝え、棚の一番上の段にあると思います、と言えば、先生はすぐに取りに行ってくれた。正直身体動かしたくなかったからありがたい。
一人になった部屋で、ピ、と体温計の音が寂しく響く。38度か…。
楽になったと言ってもまだ高熱だった。

「お待たせ！これかな？」

走って取りに行ってくれたみたいで、ちょっと髪が乱れている。

「これです！ありがとうございます！」

その後俺が薬を飲んだのを見て、えらいって褒めてくれる。
先生に子ども扱いされるのは、あんまり嫌いじゃない。特にこういう風邪をひいた日とかは。

「38度か…疲れが出ちゃったのかな。治るまではいっぱい寝て、ゆっくり休んでね。心配だから、ここで寝ていてくれると嬉しいな。何かあったらすぐ気づけるし。」
「わかり…ました」

ちょうどご飯食べたあとだったのもあって、また少し眠くなってきた。さっきまでは寝飽きたとか思ってたのに。意外と体力消耗してるのかも。

横になると、布団から先生の匂いがする。シャンプーの匂いなのか、柔軟剤の匂いなのか。先生が香水つけてるのは見たことないから、多分そのどっちかだと思う。とにかく、落ち着く匂い。
肩まで布団をかけて、目をつむった。

横から、先生がパソコンをタイピングする音が聞こえる。自然に発生したASMRみたいだ。
しっかり眠るまではいかないけど、こうやってうとうとしてるのはすごく気持ちいい。

今日は休講にしてもらったけど、明日はそうはいかないだろう。
俺が明日学校に行けるかどうかは別として、先生に心配かけないくらいには回復しておかないと。

優しい先生だからこそ、俺が迷惑かけちゃいけないんだ。