青春なんて要らないのに

紐下育

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August

56

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電車を降りて、集合。
一名を除いて五人が集まった。
もう一人は遅刻してくるらしい。

「まぁ、平野ならしゃあないか。」

そう言ってみんな笑ってる。
こうやって他人に寛大なやつらだから、一緒にいて居心地がいいんだよな、多分。
暑いから平野を待つ間どこかのカフェにでも入ろうってことになって、駅の中でぶらつく。
その時、俺のポケットでスマホが鳴った。

「あっ。」

先生からだ。
「駅まで着いたら連絡してね」って言われてたの、すっかり忘れてた…。

「駅まで着いた？迷子になったりしてない？」
「ゆう？」

さぁぁっと冷や汗が伝う。

血相を変えてスマホをいじりだした俺を、みんなが不思議そうに眺める。

「永瀬どした？」
「彼女か？」
「え、永瀬彼女いるん？」
「知らんけど、こんな美形ならいてもおかしくないだろ。」
「くそぅ…ずるいぞ！」

そんなことを言われても耳に入らないほどに、俺は焦って先生に返信を返した。

「すみません、友達と会って話してたら忘れてしまいました。」
「今電車降りて、集合場所ついたところです。」
「本当にすみません。」

すぐに既読がついた。

「よかった…。心配した。」
「楽しんで。」

いつもより淡泊な返事が来て本当に心配かけちゃったんだな、ってことをありありと痛感する。
ごめんなさい…。

「永瀬？」
「ふぁっ！？」

急に広瀬が近くに来て、びっくりした。
トーク内容、見られてないよね…？大丈夫だよね…？

「うぉぉ、びっくりした…。」

俺の声に、広瀬もびっくりしていた。

「彼女？」

みんな俺の方を見てくる。

「あ、いや…。」

これ、なんて言ったらいいんだろう。

「うんと、えっとね…。俺の居候先の人からちょっと連絡入ってて。」
「まじ？それ大丈夫なやつ？」
「うん、大丈夫。いつも俺が出かけるときは心配して連絡くれるんだよね。」
「まじか！ちょっと過保護…だけどいい人だね。」
「うん。過保護ではあるけどいい人だよ。」

よし、なんとか切り抜けた。
広瀬がトーク画面見ないでいてくれたっぽくてよかった。

「ごめんごめん、遅れた！」

遅刻するって言ってた平野が合流した。

「おお、意外と早かったな。」

みんなで笑って、映画館に向かう。
そこの常連らしい宮田たちが先導で、俺とか広瀬とかが後からついていく。
広瀬がこそっと俺に近づいてきた。
グループのやつらはみんな前を向いてるせいで、俺らに気づかない。

「あのさ、永瀬…。」
「っ…。」

内緒話みたいにささやかれて、耳が弱い俺は肩を震わせる。

「なに？」

いつもと違う雰囲気の声で、広瀬が続けた。

「その居候先の人って、女の人だったりする…？」

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